これまで、自宅には数多くの「住まい手」(これからいい家を建てたい人)と「つくり手」(これからいい家を建てる仕事をしたい人)がお見えになりました。かれこれ19年以上も説明してきていますので、バスガイドさんの如く手順と型ができてきました。そうして毎度、同じようなお話をさせてもらうのですが「見学者」それぞれの「反応」は面白いぐらいに色々で多様です。それがまた、自宅ご案内の楽しみでもあります。
今回は、その「見学者」それぞれの「反応」で「えーっ!」と思ったものをご紹介します。
「座る場所が32箇所ある」
ある人は「吉岡さんの家は座る場所が32箇所ありました!」「しかも全部が居心地のいい場所でした!」と、ドヤ顔で話してくれました。
その話を聞いた瞬間は「えーっ!」「そこまであるかなー?」と思いましたが、改めて数えてみるとありました。32箇所は椅子のある場所で「椅子ではないけど座れる場所」を加えると、もっとありました。また、季節によって椅子の置いてある場所が若干違いますので、延べでポジションを数えるともう少し増えます。
これは贅沢な話です。1階+2階で29坪足らずの家ですが、普段は2人しか住んでいません。自宅は、拾ってきたヴィンテージや折りたためるのなどもあって、2人住まいの割には椅子がたくさんあります。居場所が多い家は、いい家の条件のひとつを満たしています。「季節や時間帯に応じて居心地のいい居場所がたくさんある」ということは、住む人は理屈抜きに幸せです。
ここで重要なのは、それが必ずしも物理的に広いということと同義ではないということです。むしろ小さい家だからこそ、ただ居場所が多いだけではなく「且つ居心地がいい」ということに結びついているのです。「えーっ?どういうこと?」と思われるかもしれませんが、これは事実であり実際にご覧になられると身をもって感じることができます。
↑自宅に到着されたら最初に目にする「居場所」です
↑カフェだったら絶対最初に埋まる「人気席」ってありますよね
「なんか酸素が濃い!」
そして、またある人は「吉岡さんの家は、なんか酸素が濃い気がします」「いや、たぶん濃いです」と話してくれました。
このときも「えーっ?」さらに「そんなアホなー」と言ってしまいましたが、改めて考えてみると「若干は濃いかも」と思えてきました。その理由は、
①大きな木に囲まれている
②囲まれている木の大半は常緑樹で、しょっちゅう剪定している(ほぼ年じゅう葉っぱが成長している)
③鹿児島は温暖で、植物が休憩する冬場も日照量が多い(年じゅう光合成している)
さらに自宅の場合の特殊事情を付け加えておきますと「ほとんど年じゅうどこかの窓が開いている」ということもあります。以上を総合しますと「若干は酸素が濃いかもしれない」と思った訳ですが、その方は「僕はわかるんです。絶対酸素濃いです!」と言い残して鹿児島を後にされました(笑)
こんど機会があったら、酸素濃度を測ってみたいと思っています。
↑窓を閉めていても「出来たての酸素」が入ってきそうです
↑この外観を見たら「酸素濃い!」と思ってしまうかもしれないです
「今日ここに泊まるんでしょー?」
「住まい手」(これからいい家を建てたい人)の多くは子育て中です。見学の際もご家族そろってお見えになることがほとんどです。あるご家族が見学に来られた際に「おかあさん。。。今日ここに泊まるんでしょー?」というふうに言ってくれた子供さんがいらっしゃいました。
小学校低学年だったと思います。かなり「素」でした。到着した時点では「連れてこられた」感が全身から放たれていましたが、4時間ほども滞在してすっかり気に入ってくれたようでした。さすがに「4時間」滞在は最長不倒記録です。皆さん30分〜1時間ぐらいの腹づもりでお見えになることが多いのですが、じっくり自宅を見学していただくのに2時間は必要です。個人差はありますが「よそいき」の緊張感を解いて、本当にくつろぐ体勢に入るのにさらに30分ぐらい必要な場合が多いです。
お時間が許し、ゆっくりされた方は3時間経過後徐々に「無口」になり家族バラバラに好きな場所で過ごすようになります。このあたりからが、生活者として居心地を感じる時間に入ります。その子が沈黙をやぶり、お母さんに「今日ここに泊まるんでしょー?」と問いかけたときには3時間半を経過した頃でした。西陽がかたむき、木漏れ日がゆらゆらする「たそがれタイム」です。この時間帯はさまざまな「生物的感性」が活性化する時間帯です。
子供にこう言ってもらえるような、そんな家を提供する仕事はやっぱり頑張りがいがあります。決して私がたくさん遊んであげたからではないのです。家がその子に、そう言わしめたのです。言葉でなく伝わる「品質」は、ブランドイメージの向上やセールスに直結していくことから、これまで以上に意識しておくべきです。
↑たそがれ時の木漏れ日が「お泊まりしたい!」トリガーを引くのかもしれません
長くひとつの仕事をやっていても、その対価を支払う人が「何であなたの仕事を選んでくれているのか?」分かっていない事が多いのです。「いまさら聞かなくても分かっている」とか「わざわざ聞くとネガティブな言葉がこわい」とか言わないでください。進むべき方向が見えにくくなったとき、迷ってしまうときは「なぜお客様はあなたを選んだのか?」を知ることに躊躇しないでください。その道を行くとしても、違う道を選ぶとしても、これから必要になる何かが必ず見えてくるはずです。
御社では、自社の商品を何で選んでいただいていますか?お客様が感じ続けられる永続的な「価値」を提供されていますか?
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