『三大都市圏』注文住宅事情(その2) ■売れる力とは?

2023/02/2512:04162人が見ました

 

『三大都市圏』注文住宅事情(その1)からつづく

 

『住まい相談窓口』とは?

 

ここで言う「住まい相談窓口」とは、無料・中立で様々な情報収集・住宅会社選びができるといった相談カウンターを持つ店舗のことです。最近では、ターミナル駅やショッピングモールなどでもよく見かけます。

 

「これから住宅を探し始める方や、何から始めていいかわからない方も、お気軽にご相談ください。客観的な立場でお客様のご要望にあった建築会社のご紹介はもちろん、注文住宅ご契約までサポートいたします。」みたいなうたい文句の、敷居の低そうな窓口です。

 

住宅取得に関する様々な無料講座も用意されていて、初心者でもメーカー営業マンに売り込まれずに安心して情報収集できるのが「売り」です。「経験豊富なアドバイザーが理想の建築会社をご紹介します」といった頼もしいコピーも優しそうな女子スタッフ風の画像とともに添えられています。

 

 

↑某ショッピングセンターの「住まいの相談窓口」

 

もう少し以前には「保険の相談窓口」というのも急激に増殖しました。 1996年以降「保険自由化」の波により規制緩和や料率の自由化が進展、保険商品の価格設定や保険募集のあり方にもバリエーションが増えました。

 

元来、この分野は大手保険会社の寡占状態が長く続いていましたし、保険会社(特に生命保険)の営業攻勢には目に余るものもありました。お昼休みに会社の机で弁当を食べていたら「生保レディ」と呼ばれるおばちゃんが乱入してきて、あらゆる手段で保険加入を勧めてくるという経験のある方も多いのではないでしょうか。毎日のように配られた飴がたまっている、ロックオンされた同僚の机もありました。(怖)

 

また「親方日の丸」と「なじみの人間関係」を盾に、ろくすっぽ説明もせず明らかに契約者に不利な保険契約を取りまくるというような事案も長きにわたり横行していました。このような販売手法の反動もあってか、売り込まれない「中立的な窓口」が増えていったのでしょう。

 

 

 

↑某ターミナル駅の「保険の相談窓口」

 

そうして考えていると、更にその前から「元祖」として存在するものを連想せざるを得ません。そうです。繁華街にある「無料相談所」なるものです。その街のキャバクラや風俗店などをお兄さんたちが紹介・ご案内してくれるというアレです。

 

 

↑某繁華街の「無料相談所」

 

 

『住まい相談窓口』は『施主』の味方なのか?

 

ショッピングセンターにある「住まい相談窓口」も、ターミナル駅にある「保険の相談窓口」も、繁華街にある「無料相談所」も収益構造そのものはよく似ています。保険会社は代理店制度があり少し違っていますが、「窓口」の運営会社の収益源としては基本的に以下のふたつです。

 

●紹介してもらう対象に加えてもらうため支払われる「提携料」
●お客さんの紹介(成約)の度に支払われる「手数料」

 

こういった窓口が増えてくる業界の特徴としては、

 

●会社毎の商品の違いがよくわからない(買い手にとって本当に有効な情報が少ない)
●品質・価格についての妥当性の判断が難しい(「ぼったくり」もよくある)
●販売成績による担当者のコミッションが大きい(なりふり構わず必死で売り込んでくる)

 

といったところでしょうか。こういう「窓口」の存在は、消費者にとってフェアでない業界の「証左」であり、業界にとっては「不名誉な事実」であると感じるのは私だけでしょうか?

 

一見『施主』にとって「住まい相談窓口」は味方であり、ありがたいもののような「雰囲気」ですが、はたしてそうなのでしょうか?消費者としての情報収集という点では良い面もあろうかと思いますが、見逃されがちな点があります。

 

●「窓口」が紹介料を稼げる会社しか紹介しないこと
●「窓口」がより稼げる会社を優先して紹介しようとすること

 

「無料」なのは消費者からの「窓口」への支払いであって、建築会社に払った建築費などの代金の中から建築会社が「窓口」へ支払う仕組みですから「有料」ともいえるかもしれません。支払う建築費に「窓口」への報酬が入っている訳です。

 

これは請負契約金額の3%とか5%とかという水準ですから、請負金額が2000万円の時に60万円〜100万円というオーダーになります。納得はしていたとしても請負契約金額が「対価」として妥当なのかどうかは施主にとって判断の難しいところです。まさに、それゆえ成り立つ仕組みとも言えます。

 

「窓口」は、提携している建築会社から最も手数料収入の上がる会社、且つ契約確率の見込める選択をするのが自然です。提携会社以外の建築会社に顧客の請負契約が流れるのが、最も最悪のシナリオだからです。

 

ちなみにですが、大手「住まい相談窓口」の正社員求人記事に以下のような記載がありました↓

 

<仕事内容欄> *不動産業務ではないので、業界未経験・不動産知識ゼロから挑戦できます。
<給与欄> *固定給以外に別途「達成インセンティブ制度」あり。
<アピールポイント欄> *現在活躍しているスタッフのほとんどが未経験入社。

 

「経験豊富なアドバイザー?」「中立?」おいおいって感じですね。

 

 

『住まい相談窓口』は『建築会社』の味方なのか?

 

では「住まい相談窓口」に支払う側の建築会社としてはどうなのでしょう。

 

会社の財務状況から広告宣伝費の原資が確保できない会社や、自社で集客・営業する力に乏しい会社では、「住まい相談窓口」の人気は高いようです。事業全体で「広告宣伝費」という名目で「経費」として支出するか、物件毎の「紹介手数料」という名目で「工事原価」として支出するかの違いなのです。決して成果が出る確証がない「広告宣伝費」よりも、成功報酬としての「紹介手数料」のほうが手堅いという判断です。

 

販売系の住宅ビルダーから独立したばかりの会社によくあるパターンですが、集客は「住まい相談窓口」まかせ、ローンの申し込みは「住宅ローン専門会社」へ外注、敷地調査は「測量事務所」へ外注、設計は「設計事務所」へ外注、施工管理も「フリーランスの施工管理マン」に外注、といった仕事の組み立ても珍しくありません。

 

社内ではいったい何をするのでしょうか?社内スタッフはお客様との打合せが主な仕事になります。そして、こういうスタイルでお仕事されている人たちは「住まい相談窓口」からお客様が紹介されてくることを「送客」と言います。私には馴染みのない、いささか違和感のある「単語」です。どうもマーケティング用語から来ているようで、以下のような意味があるそうです。

 

「送客」:マーケティング段階から営業段階(インサイドセールスを含む)に対して、リード(見込客)を引き渡すことを指します。

 

建築事務所登録も建設業許可もない会社なのかもしれませんが、こういう会社も「住宅情報誌」や「住まい相談窓口」では”いっぱし”の扱いになっていますので、「施主」は着工するまではまずその実態には気がつきません。

 

こういうスタイルの会社の方から言わせると、それが「仕組み」なのだそうです。可能な限り「固定費」をかけずに「変動費」として経費を抑えつつ、スタートアップする最適な形なのだそうです。確かに自分たちにとっては「リスクヘッジ」かもしれませんが、何も知らない「施主」にとっては「リスク」の塊です。

 

 

いっぽう、確固たる自社の提供価値を持ち発信することで「指名買い」される会社は、そもそも「住まい相談窓口」どころか、情報誌への有料掲載などもあえて行わない傾向があります。「ブランド力」「集客力」がある会社の掲載は、されるとしても出版社から優遇されていて無料であったりします。情報誌の「看板」(客寄せパンダ)にもなるからです。

 

(情報誌については、前回の『三代都市圏』注文住宅事情(その1)をご覧ください)

 

鹿児島で長らくお世話になった会社は、明らかにこちらの方の会社でした。社長は「わざわざお金を使って…他の会社と区別がつかないような広告を出して…誰彼と来てもらっても困るのよね」と言い放ってはばからない腹の据わった”本物”の「経営者」でした。

 

 

最近では、情報誌の編集者もネットの情報やインスタグラムの投稿などを見て、掲載のオファーを出してきたりします。昔は紙媒体は絶対的存在でした。ハードルの高い紙媒体に掲載されさえすれば、あとは拡がっていくというような世界でした。ひと昔前とは、メディア毎の掲載順も価値も逆になってきているのです。

 

多くの「広告宣伝費」をかけてメディアが作り上げた「企業イメージ」や「ブランド価値」をネットにも展開していた時代から、無料のネット投稿から消費者が認めた価値をメディアが欲しがる時代に変わりました。

 

そういった企業は、価値創造のための「時間」や「研究開発費」を常に惜しむことなく投資し続けています。だからこそ、無料のネット投稿からでも多くのユーザーやプロからも認められるのです。

 

 

結論として「住まい相談窓口」は、弱い「建築会社」にとっても、強い「建築会社」にとっても必ずしも味方とは言えないようです。

 

なぜなら「集客」の段階を金銭的な対価で支配されることは、「建築会社」の存亡に係る大問題だからです。「住まい相談窓口」に限ったことではありませんが、企業たるもの決して他人に「生殺与奪権※」を握らせてはいけないのです。

 

※生殺与奪権:他人に対して「生かす」か「殺す」かを選択できる権利のこと。国王や統治者が臣民や奴隷に対し、罰則や懲戒として裁判などを経ずに死刑を実施する様子や、その権利を掌握している影響力のこと。

 

それ以前に「業界」として、こういった「存在」は不名誉なものでもあります。できることなら、住宅産業における「住まい相談窓口」なるものは必要とされないようになって欲しいものです。決して「住まい相談窓口」に恨みはないのですが。

 

 

社長の会社は「自己集客」うまくいっていますか?集客を「他社に依存」する状況が徐々に強まっていたりしないでしょうね?

 

 

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