とある「展示会場」にて ■売れる力とは?

2023/08/1222:04137人が見ました

 

『丸投げ系』ITサービス百花繚乱

 

東京ビッグサイトのリフォーム系展示会でのことです。

 

そのときの主な出店企業は216社でしたが、その中で「業務支援サービス」「業務支援テクノロジー」といった分野が77社と1/3強を占めていました。いわゆる「DX」を含めた外部活用型サービスです。

 

その中で、気になったのは「アフターサービスの外注化」を謳うサービスでした。「大手企業なみのアフター体制を外注化で実現!」といった打ち出しで、複数の企業が出店されていました。担当の方に話を聞いてみると、地域密着の小さな会社が次々に導入しているようです。

 

アフターサービスを外注化してしまって、うまくいくのか?最初はちょっと理解に苦しみましたが、それほどに経営者として頭が痛い問題なのでしょう。法律の運用も徐々に強化され、社会的責任が重くなる中で「社内に担当者を充てる程の採算性が見込めない」「サービスの継続性が担保できない」というところだと思います。

 

「業務支援サービス」「業務支援テクノロジー」分野には、集客代行、広告代行(SNS・動画)、間取り作成、プレゼン作成、クラウド管理など1日では見切れないほどブースが出店されています。新手のサービスとしては、ローン手続き代行、施工管理者教育代行といったものまでありました。

 

さすがに、これらのサービスを全部利用する社長はいないかもしれませんが、こんなに外注していたら工務店に残るのは「契約」と「施工」のみになります。そして経費も積み上がってしまうことでしょう。これでは「元請け」形式の「下請け」みたいなものです。

 

旬が過ぎたのか、VR(ヴァーチャルリアリティ)系は以前ほど目立たなくなった気がしました。

 

 

↑展示ブースを訪れても一体何のサービスなのかよくわからないものも多くなってきました

 

 

 

『客寄せセミナー』の「公開収録化」現象

 

こういった大きな展示会のもうひとつの目玉は、会場で行われる様々なセミナーです。

 

2日間の会期中になんと123本ものセミナーが開催されるのです。その中で93本が無料で参加できるものでした。「●●●●による■■■■で売上10億円!」「激変する○○○○業界で次は何が流行るのか?」「チャンネル登録者数□□□□人突破!」といったキャッチコピーが並びます。

 

登壇されるスピーカーの中には著名な方も多く「客寄せ効果」や出店企業への「レコメンド効果」も大きいものと思われます。しかし、ふと考えてみると、別にその時間に会場へ足を運ばなくてもセミナーは視聴できるようになっているのです。現にライブ配信でリモート視聴できるものもありましたし「見逃し配信」まで用意されているものもありました。

 

親しくしているある社長は、会場に居ながらもロビーに座ってスマホでリモート視聴されていました。「ひやかしだと悪いかなーと思って」との事でしたが、「リアルタイム配信あるある」なのかもしれません。

 

あるセミナー会場では、会場参加に対してリモート視聴申込みは10倍以上とのことでした。せっかく喋ってもらうのですから、それは多くの人に見てもらえる方がいいです。「見逃し配信」はリモート視聴申込者に対して1ヶ月間行うとのことでしたから、延べの視聴数は2日間の会場限定とは比べ物にならない数になるものと思われます。(集中して聴いているかは別としてですが)

 

セミナー会場の裏にまわってみますと、思った以上の数のスタッフと機材が配置されていました。「会場視聴チーム」と「リモート配信チーム」に人も機材も分けて、それぞれの仕事をしていました。2日間べったりの過密スケジュールと会場・リモート同時進行は放送局なみです。登壇者もぶっつけ本番に近い人もいて結構いろいろな事が発生するようで、きつそうでした。裏方さんはいつも大変です。

 

これも今日的なの形なのかもしれません。従来は、著名人のセミナー参加のついでに会場の出店ブースにも寄ってもらうという『客寄せセミナー』であったものが、実質的にはひとつの「公開収録」の場となっているのです。

 

出展企業としては同時のライブ配信に加えてアーカイブとしてちゃんと収録しておけば、後々様々な機会での利用が可能です。結果として会場への集客数の伸びには貢献しにくいことは容易に想像がつきますが、このあたりは主催者としても頭の痛いところかと思います。

 

 

↑従来「客寄せ」であったはずの会場セミナーも「公開収録」形式に

 

 

 

じわじわ骨抜きにされる「経営者」たち

 

この展示会の主なターゲットは「経営者」であるはずです。しかしながら、若い人向けのダイエット関連商品や、高齢者向けの健康維持関連商品のような「キャッチー」で「即物的」な訴えかけが以前より増して多くを占めていました。(セミナータイトルしかりです)こういった打ち出しの方が反響が多いのでしょうが、ターゲット層それぞれに向けた表現の使い分けが崩壊しているように感じるのは私だけでしょうか。

 

以前に人の脳が持つ「Xシステム※1」と「Cシステム※2」のお話をしました。こういう傾向は、まさに「Xシステム」に訴えかけるものです。これも、情報量の増加が著しい現代でのトレンドなのかもしれません。

 

 

※1「Xシステム」: 自動的に高速で働く直感的な思考。考えるのにほぼ努力が不要で、自分の意識でコントロールしている感覚は一切ない。印象を感じたり、発想や連想することが得意である。なんとなく一貫性や辻褄が合うことを好む傾向が強い。

 

※2「Cシステム」: 論理的、統計的な思考。意識して働かさないと「Xシステム」が作り上げたそれらしい連想をよく確認しないままスルーしてしまう傾向がある。「Cシステム」は自分の記憶にない知識を用いた思考を行うことはできない。

 

 

「経営者」も人間です。自分の記憶にない分野では「Xシステム」が優勢になるのは無理もありません。展示会場でも話題だったDXなるものは、ひょっとすると我々「経営者」の「Cシステム」を封じ攻略する技術なのかもしれません。

 

脳が持つ「Xシステム」と「Cシステム」については 見込客とスタッフの『脳科学 に詳しい内容があります。ご参照ください。

 

 

限られた時間の中で会場ではどなたのお話を聴くのか選択を迫られました。その中で、直接お話を聞かせてもらって感じるところのあった「談」をいくつかご紹介します。

 

 

①某VC社長の「談」

 

VC社長は「加盟店の加盟料、年会費を大幅値上げしたんです。それでも加盟店は増えています。もちろん、値上げ以上にサポート内容は充実させてます。既存の加盟店にも順次、新しい契約に切り替えてもらっています。」と近況を話してくれました。

 

加盟はするが販売はしない「幽霊加盟店」に対する販売エリア内での入れ替え対策もあるのだと思います。この話から、外部の「業務支援サービス」の対価もずっと一定ではないことも念頭に置いておかなくてはなりません。最初は安いと思って加盟しても、依存度が増してから値上げされるという事があり得るということです。

 

 

②ある工務店の社長の「談」

 

数あるセミナーの中で、ある工務店の社長のセミナーを聴かせていただきました。 その社長は二代目で、先代から会社を引き継ぐにあたってある「選択」をされました。その「選択」によって必要になる「目的・基準・手順」を社長になってからの手探りの運営の中で獲得していきました。その上で、だからこういった「ツール」「システム」を採用したという話でした。

 

極めてシンプルな話ですが、その手探りから獲得した「成長と限界」の『感触』が肝なのだという事を伝えたかったのだと思いました。そういった経営者としての『感触』なく「楽になりたい」「丸投げしたい」という感覚で「業務支援サービス」を導入している経営者が、仲間の中でも多いのだそうです。

 

 

③某業務支援サービス社長の「談」

 

さらに、某「業務支援サービス」を提供する会社の社長のセミナーでは、こういった話が聴けました。「高額・多機能・重装備なクラウドサービスを導入しても図面・写真・日報の共有しかしていないような会社は枚挙にいとわないですよ」「現場に出向くのを品質管理上必然性のあるタイミングに絞って現場管理者の現場訪問回数を減らすためのツールなのに、写真を撮るために行く回数が普通に増えてしまっているんです。そんなことしていたら、そりゃ社員辞めちゃうでしょう」

 

意外にも「システムだけでは何にもならない。その前に『考え方』がないと失敗します」という事なのです。前出の2代目工務店社長と通じる内容です。そういえば、「業務支援サービス」のこの会社の「成功事例」として登場する工務店は以前から同じ会社でした。その工務店の名物社長のお話はとても上手なのですが、うがった見方をすればそれ程に「成功事例」が少ないということかもしれません。

 

そのような疑念を持ちつつも、その「常連さん」の名物社長の話も注意深く聴かせていただきました。やはり、話の主題である『何が成功の源泉か?』は「サービス導入」そのものではありませんでした。(そこは絶妙に遠回しでしたが)やはり、肝になるのは「サービス導入」以前の手探り期間で得ている、経営者としての『感触』のようなものであったのです。

 

 

 

社長の会社では最近導入した外部サービスはありますか?導入前に、そのサービスを活かす社内の「目的・基準・手順」はありましたか?

 

 


最新のコラムを見る

 

 

一覧へ戻る