眩しくなった「現代の照明」 ■売れる力とは?

2024/06/2301:36201人が見ました

 

省エネがもたらした「眩しさ」

 

 

白熱電球・蛍光灯や、屋外や施設照明でよく見かけた水銀灯などは生産中止になって、その多くはLED光源に置き換わっています。「チリも積もれば」ですから、全国レベルではかなりの節電効果が出ているはずです。しかし、LED電球の性能が向上してどんどん明るくなっていて、1灯あたりの消費電力もじわじわと高くなっている気もします。コスパが良くなって、白熱電球・蛍光灯時代よりも夜の室内が明るくなったのです。

 

そして、それにともなってあかりが眩しいことも多くなってしまいました。特に、暗い屋外で感じる外灯や自動車のヘッドライトの眩しさは、多くの人が感じています。外灯は補助金もあって全国で急速にLED化されています。自宅前の道の外灯も何年か前にLEDになって、夜中じゅう家の中まで明るくなりました。全国的な普及度合いを感じさせます。

 

 

↑夜の日本の衛生画像(やっぱり鹿児島県は暗いですね)

 

 

LEDの外灯って光源はかなり眩しいですが、その割には地面が暗い気がしませんか?ランプがむき出しで眩しいから、幻惑されて暗く感じるのかと思っていましたが、そうでもないらしいです。光源を見たときの「まぶしさ」は目に向かってくる光の強さに比例するため、その方向でのカンデラ値※が大きい光源の方がまぶしく感じることになります。

 

いっぽう人が感じる「明るさ」のほうは、照明器具から出た光がどれだけ面に反射して目に入射してくるかのルクス値※によって決まると言われ、同じ光量でも発光面積が狭いLED電球は受光面で反射して目に入る光は少なく、白熱電球や蛍光灯と比べて部屋が暗く感じるのだそうです。「LED電球はまぶしいけれど暗い」と感じるのは、こうした理由からです。納得。

 

ちなみに、照ランプのパッケージにはルーメン値※の表記がありますが、これは光源から放たれたすべての光「光束」の量を表す単位です。3つの値は、図示すると以下のような関係になります。

 

 

↑ルーメン・カンデラ・ルクスの違い

 

 

※カンデラ値(cd)とは、光源から出る光の強さ「光度」を表す単位です。照らす範囲の一番明るい箇所の数値です。

 

※ルーメン値(Lm)とは、光源から放たれたすべての光「光束」の量を表す単位です。

 

※ルクス値(Lux)とは、照らされた場所に、どれだけ光が入っているかを表す「照度」の単位です。光源から遠ざかるほど数値は小さくなります。

 

白熱灯や蛍光灯は全方位に光が拡散する構造です。なので、天井に埋め込んで床方向を照らすダウンライトなどでは、反射板を使って上方向の光を下方向に集光しているため多くの光量(ルーメン値)を無駄にしています。

 

いっぽうLED電球はルーメン値が低くても一定方向へのカンデラ値を確保しやすく、エネルギー効率がいいのです。それは光の総量(=ルーメン値)が同じでも光の出る方向を絞り込んだ方が、一定方向に出ている光の強さ(=カンデラ値)は大きくなるからです。

 

 

↑自宅前の外灯(おかげで夜も枕元が明るいです)

 

 

近所に新しい戸建住宅やアパートがポツポツと建っています。昼間はそうでもないのですが、夜になると気づきます。なぜかというと、照明が周囲の家よりパキッと明るいからです。より正確に言いますと、室内から漏れる明かりもさることながら、外部の照明が眩しいから気づくのです。

 

従来の白熱灯や蛍光灯の照明器具の時はそれほどでもなかったはずですが、LEDの器具が取り付けられるとすぐに分かるのです。そりゃ衛生画像もどんどん明るくなるはずです。

 

 

↑通行人を幻惑する高輝度照明(カバーつき器具でも眩しいです)

 

 

↑バックミラー越しでも眩しい新築アパートの駐車場ライト(防犯を兼ねているのか、24時間まぶしく点灯しています)

 

 

そういえば、最近の自動車のヘッドライトも明るくなりました。少し前は明るい車が近づいてくると決まって高級車でしたが、最近では軽自動車だったりします。新型の軽自動車は腰高デザインが多いので、よけいにそう思うのかもしれませんが、とにかく眩しい車の比率が上がってきたことは確かです。

 

えらく眩しい車がゆっくりゆっくり来るなあと思って待っていたら、近づくと新型の軽自動車に乗ったおばあちゃんだったりします。明るいヘッドライトの反射光で、ハンドルより前に顔が来ている様子が割とよく見えるのです。

 

ちなみに、30年以上お世話になっている愛車は、ヘッドライトが暗すぎて車検に通らなかったことがありました。。。元々電球が暗い上に反射板が劣化して基準を下回っていたそうですが、最近の車に比べるとロウソクのようです。

 

 

↑最近は軽自動車も立派に眩しいです

 

 

 

増加する「光害」

 

 

光源の入れ替わりによって、夜の光による弊害もクローズアップされています。「光害」(ひかりがい)というそうです(振り仮名がないと「こうがい」と読んでしまいますね)街灯などの照明の強すぎる明かりによって起きる問題のことをいうそうです。具体的には、市街地方向の星空が見えにくくなったり、農作物の収量が減少してしまったりすることが全国的に広がっているそうです。

 

「光害」が広がっている要因として考えらるのが、街灯が各地で増設されていることです。防犯意識の高まりなどを受けて、地方においても増加傾向です。また、LED化が進んで街灯の一つ一つが明るさを増していること、コンビニなど深夜まで営業する店舗が増えていることも影響していると考えられています。

 

植物は、昼夜の光の長さを感じることによって花を咲かせたり、実をつけたりする性質があります。夜間の照明によって、植物が季節を勘違いしてしまい、予定の収量が得られなくなるのだそうです。「光害」は、稲のほか、ホウレンソウや小松菜、枝豆などでも確認されています。

 

 

↓農作物の光害に関する山口大学の資料(2ページ目左下の写真がすごいです)

 

http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~iwaya/hikarigai.pdf

 

 

 

「住まいの照明」は大丈夫か?

 

 

ところで、住まいの中の照明はどうでしょうか?元々、行燈など火を使ったあかりから裸電球への移行が電気を利用した照明のスタートです。その後、照明器具は進化・変遷してきました。

 

シンケン時代、大光電機さんの照明プランニング講義を受けたことがありました。講師は高木 英敏さんという方です。現在でもご活躍の照明デザイナーです。住宅屋の照明への理解のなさを、関西弁で激しく糾弾する様は今でも忘れません。その後、高木さんの著書をすぐに買って勉強したものです。いま読み返しても実務的なポイントがとてもよく整理された良書ですが、10数年を経て照明器具そのものの特性は大きく変わってしまいました。

 

 

↑大好きな「照明指南本」(帯も激しくて好きです)

 

 

↑冒頭見開きにある著者のメッセージ(右側の小さな文字部分に注目。今もたいして変わっていないかもしれません)

 

 

↑高木さん、書籍中でも関西弁で激しく糾弾されています(感動)

 

 

振り返ってみて、住宅業界の「照明計画力」はさほど向上していない印象があります。高木さんが、冒頭見開きに書かれていた「怒りのメッセージ」は現在でもそのまま言えてる状態です。照明器具は進化しましたが、住宅業界は進化していないのです。進化していないところに器具の特性変化があり、照明計画での難易度は更に増したと言えます。業界の実力は、時代にどんどん置いていかれているのです。

 

それは、従来と同じようにやっていると「ミスの度合いも酷くなる」ということを意味します。「ミスの度合いも酷くなる」競合他社が増えている訳ですから、キチンと出来る会社は「以前よりも増して価値がある」ということになります。

 

 

 

社長の会社では照明計画に際して、照明器具の特性の変化を意識されていますか?まさか、「定価○○万円でこの住宅の照明計画おねがいしまーす!」などと言って、丸投げしたりしてないでしょうね。

   

 

 

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