賃貸や民泊のオーナーに「スマートホームにしましょう」と提案しても、なかなか響きません。オーナーが知りたいのは機器の便利さではなく、家賃が保てるのか、空室が埋まるのか、管理が楽になるのかだからです。
結論から言うと、収益物件のスマートホームは「鍵」から始めて、説明は「下げずに済む家賃」で組み立てるのがおすすめです。この記事では、築50年の団地のリノベーションや賃貸の部屋の改修に携わってきた経験をもとに、工務店が収益物件のオーナーにどう提案するかをご紹介します。
リンクは、鍵の例として、私が使ってきたSwitchBotの現行品を載せておきます。
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スマートホームは「機器を詰め込んだ家」ではない

築古の団地をリノベーションした部屋のリビング
私は2018年から、bentoというスマートホームのブランドを手がけています。最初の物件は、広さ約50平方メートルの築古の団地でした。公開後は100組を超える企業や個人の方が見学に来られ、国土交通白書にも取り上げられました。

改修前の団地の部屋(上)と改修後(下)
そこで学んだのは、スマートホームとは機器をたくさん入れた家ではなく、「無駄な時間を減らし、快適な時間を生み出す家」だということです。トイレ掃除の手間を減らしたいなら、ロボットではなく洗剤や手入れの工夫が正解のこともあります。機器は手段のひとつにすぎません。
この考え方は、収益物件でそのまま使えます。入居者にとっての無駄な時間、オーナーにとっての無駄な手間を一つずつ減らす。その積み重ねが、物件の価値になります。
「下げずに済む家賃」で説明する
オーナーにいちばん伝わるのは、設備の機能ではなく家賃の話です。
私が関わった賃貸マンションの一室では、家賃を6万円に下げるしかないと見られていた部屋が、改修によって8万4,000円のまま借りていただけました。差は月2万4,000円、年間で28万8,000円です。実際に手を入れたのは、床の素材と床暖房、照明だけでした。これはスマートホームの事例ではありませんが、「全部を新しくしなくても、選ばれる理由をひとつ作れば家賃は保てる」という点で、考え方は同じです。
オーナーへの説明では、次の3つを数字で並べると話が早くなります。
- 何もしなかった場合に、下がると見込まれる家賃
- 設備と工事にかかる費用
- 何か月で回収できるか
たとえば機器と工事で20万円かかっても、月1万円の値下げを避けられれば、20か月で回収できる計算です。もちろん、どれだけ家賃を保てるかは地域や物件によって変わるので、ここは断定せず、近隣の募集賃料を調べて「見込み」として示します。
最初の1台は、鍵にする

bentoの部屋に組み込んだスマートホームの機器
何から入れるかと聞かれたら、私は鍵をおすすめします。入居者は毎日使いますし、オーナーや管理する側にとっても、鍵の受け渡しや紛失時の対応が減ります。私自身、スマートロックを7年以上使ってきました。
ただし、後付けのものを選ぶときは注意が必要です。以前使っていたスマートロックでは、両面テープが本体の重さに負けて、7年間で4回ほど落ちました。うまく開かず、物理キーで開ける場面が3割ほどあった時期もあります。入居者が使う物件で同じことが起きれば、それはオーナーへの問い合わせになります。
後付けのスマートロックには、工事がいらず原状回復がしやすいという良さがあります。一方で、物件の設備として長く使うなら、次の点は事前に確かめておきたいところです。
- ドアのサムターンの形に対応しているか
- 電池が切れたときに、どうやって開けるか
- 入居者が替わるときに、暗証番号や登録をどう消すか
- 物理キーを誰が持っておくか
便利な機能より先に、「動かなかったときに誰が何をするか」を決めておく。これが、自宅と収益物件のいちばん大きな違いです。
民泊の無人運用は、法令の確認が先
民泊では、鍵の遠隔管理が無人運用の入り口になります。ただ、鍵だけで無人にできるわけではありません。
住宅宿泊事業法にもとづく民泊では、宿泊者それぞれの本人確認が必要です。対面でなくても、顔と旅券が画像ではっきり確認できることなどを条件にICTを使う方法が認められていますが、対応は地域の条例で変わることがあります。また、事業者が住宅を離れる場合は、原則として住宅宿泊管理業者への委託が必要で、人を泊められるのは年間180日までです。消防法令への適合も、物件ごとに消防部局への確認が必要になります。
工務店の立場で大切なのは、ここを自社で判断しないことです。制度は改正されることがあるので、計画の早い段階で、観光庁の最新の情報と、自治体の窓口、消防部局に確かめるようオーナーにお伝えします。その上で、工事で対応が必要になる部分(火災報知設備の配線や、ネットワーク機器の置き場など)を見積もりに入れておくと、後から慌てずに済みます。
入居者が喜ぶのは、説明がいらない設備

説明がなくても使える、モニター付きのインターホン
賃貸では、入居者の満足も大切です。ここで気をつけたいのは、アプリの設定が必要な設備をたくさん入れないことです。入居者が使わなければ、ないのと同じになってしまいます。
私がおすすめするのは、何もしなくても効果がある設備と、使い方の説明がいらない設備です。
- 全室に電波が届くWi-Fiの環境
- 暗証番号でも開けられる鍵
- 手で操作する普通のスイッチを残した照明
- アプリがなくても動くエアコンや給湯
もうひとつ、室内にカメラやマイクの付いた機器を設備として固定しないことも大切です。入居者のプライバシーに関わりますし、「見られているかも」と感じさせた時点で満足は下がります。見守りが必要な場合は、入居者が自分で選んで入れられるように、電源と通信だけを用意しておくのが安心です。
物件を選ぶ段階から、相談に乗る

豊橋市の賃貸の部屋。土間やパントリーまである間取り
2022年当時に関わった愛知県豊橋市の賃貸のプロジェクトでは、共益費と駐車場1台込みで家賃8万4,800円という部屋を選びました。土間やウォークインクローゼット、パントリーまである間取りで、都内ではまず考えられない内容でした。駅からは離れていますが、車で動く暮らしなら大きな問題にはなりません。
これはあくまで当時の例で、今の相場とは違うと思います。ただ、「場所を少し動かすだけで、同じ費用でも選べる物件の質が大きく変わる」という考え方は、今も有効だと考えています。

同じ部屋のキッチン
収益物件でも、古いものを全部そのまま使おうとしないことが大切です。それまでの設備を前提にすると、どうしても発想が今までの延長になります。私が依頼を受けるプロジェクトでも、まずゼロから考えてみることをおすすめしています。
提案のときに伝えたいこと
ここまでの話を、提案の順番に整理すると次のようになります。
- 先に、家賃・空室・管理の手間の悩みを聞く
- 近隣の募集賃料から、「何もしなかった場合」を数字で見せる
- 最初の1台は鍵にして、入れる機器を絞る
- 動かなかったときの対応と、入居者が替わるときの手順を決める
- 民泊なら、法令と条例の確認を計画の最初に入れる
「スマートホームにしませんか」ではなく、「この部屋の家賃を下げずに貸し続ける方法を一緒に考えませんか」と切り出す。こういう提案をオーナー様にできると、他社と差別化できます。
機器の名前は、最後に出てくれば十分です。オーナー様が知りたいのは最新の機器ではなく、数字で説明できる理由です。そして、入居者が替わったあとも動く仕組みまで一緒に考えられる工務店は、まだ多くないと思います。
まとめ
収益物件のスマートホームは、入れた機器の数では評価されません。家賃が保てたか、空室が埋まったか、管理の手間が減ったか、で決まります。
まずは鍵から始めて、説明は「下げずに済む家賃」で組み立てる。民泊なら、法令の確認を先に入れる。この順番さえ守れば、古い物件でも、入居者に選ばれる理由を作ることができます。改修の相談を受けたときに、ぜひオーナー様への提案のひとつに加えてみてください。
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