土地みたてのトレーニング法(3)ひな壇にて ■土地みたて

2022/03/2622:00611人が見ました

 

土地みたてのトレーニング法(2)角地にてからつづく。

 

 

『住宅双六』の時代

 

年代の古い住宅地では、広めの土地を多く見かけます。

 

造成当時、山の上の新興住宅地は必ずしも誰もが住みたい場所ではなかったはずです。「手が届く価格でゆったり庭付き住宅」といった広告宣伝で『住宅双六』のゴールに設定されていた時代だったのです。自動車のCMも「いつかはクラウン」というようなコマーシャルが流れていました。

 

住宅双六:「フリダシは新婚時代の小さなアパート 子供が産まれる頃に広めの賃貸マンション やがて分譲マンション できれば就学前にマンションを売って庭付き一戸建でアガリ」といった価値観を双六に重ねて表現したもの(若い人は「双六」がわからないのかもしれません)

 

これは、高度成長時代の世の中の空気感でした。

当時は、誰もがマイナス成長はおろか低成長など考えもしない雰囲気だったのです。日本の総人口・生産年齢人口ともに増加中であり、右肩上がりを疑うことのない時代でした。しかし、日本の外の様子を一般人が正しく知る術は今よりずっと限られていて、報道や広告を総動員した「集団洗脳状態」のような社会でした。(日本の外の様子を知る術は格段に増えましたが「集団洗脳状態」であることは現代も同じようなものかもしれません)

 

 

ふたごの建売住宅

そうして生まれた住宅地に最初に建てられた住宅は数十年を経て、次々に空き家になっています。その中でも、ある意味で「運のいい物件」は建て替えられて次の世代の住処になっています。その「運のいい物件」の特徴のひとつに「土地の広さ」があります。道路に接する間口が広ければ「なおよろしい」ということになります。そうです。ふたつの宅地に分割して販売価格を下げて2組に販売できるからです。うまく行けば、ひと組のお客様に全部買ってもらうよりも2組のお客様に高い坪単価で販売して、利益を増やすことができるかもしれません。

 

当然、土地が半分になると建物の自由度は限られますし、住宅としての「品質」では諦めないといけない点も増えます。しかし、購入することができる対象者が劇的に増えることには代えられません。商売ですから。造成された頃に比較すると土地の価格は跳ね上がっていますから、土地の小型化はやむをえない方向性かもしれません。

 

そうして半分になって新しい2軒の住宅が並ぶ光景は皆さんの街でもよく見かけるものだと思います。気にして見ていると次々に目に入ってきます。普段は気にしていないと、見ているようで脳みそが認識していないそうです。いざ、何軒かの「ふたごの建売住宅」に注目してみるとワンパターンであることにすぐに気がつきます。

 

土地が小さくなって建築条件が限られている上に、売れる総額に抑えるためプランも仕様も最低限ということになっていくと、ある傾向に収斂していくのです。その際は道路と地盤面の高さによらずワンパターンになっていきます。共通して平面的な視点だけで計画がなされている事が、外から見ていても想像できます。販売価格ありきなので致し方ないかもしれませんが、これで「アガリ」かと思うと土地の神様にも住む人にも気の毒な気がしてきます。かつての憧れのニュータウンにこういう家が増加していくのはやはり残念な事です。

 

ほぼ段差のない敷地の、ふたごの建売住宅(よくある感じです)

 

段差80cmぐらいの、ふたごの建売住宅(まあ、ワンパターンです)

 

段差3m級の、ふたごの建売住宅(ここまでいけば戸建でなくエレベーターのあるマンションの方がいいのでは?と思ってしまいます)

 

数十年の時を経て、新しい住まい手が増えていかない住宅地では、何とも言えない寂しさが漂う場所があります。道路に対して高低差の大きい宅地では建て替えが進みにくい傾向があり、同じ団地でも場所によって明暗がより分かれていくことでしょう。

 

左手はほぼ段差なしですが、右手は3mほど地盤面が上がっています

 

街路樹が枯れてしまったのか、切られて植え込みスペースが埋められています

 

 

2段擁壁オンパレード

バブル時代にかけて住宅地は平地周辺から、より傾斜のきつい山の中腹に拡張していきました。そういった場所で上へ上へと攻めていった造成地と山の境界あたりの住宅を見ていますと、思わず唸ってしまうような「難所」に出くわすことがあります。

 

しかし、このような場所では構造的な強度や安全性という点ではリスクがてんこ盛りです。見慣れた原風景とも言える年代物の擁壁や見地ブロック・石垣などは、住宅が建築される前提ではほとんどアウトだと思われます。なぜかというと、住宅の荷重に耐え得る必要強度を持たないものが多いからです。仮に強度が十分であったとしても、それを裏付けるものがないと強度が不十分であるとみなされます。古い宅地は、築造された時代のレギュレーションが甘かったことに加えて審査や検査の仕組みも不十分でしたので、現代ではそのような扱いになってしまいます。

 

再建築する際が安全性是正のチャンスなのですが、厳しい指導をし過ぎるとコストと時間がかかりすぎてしまい事実上家が建てられないような事態にもなります。また、「こんな造成を許可したのも役所だろ!」と怒られたりもするので、穏便にグレーな処理をしているケースもあったりします。今でも自治体や担当者によってこのあたりの運用にかなりの差があると思われます。

 

左手は2〜3m地盤面が下がっていて、右手は3〜4m上がっています(難所です)

 

このように新しい道路をつくっても、両サイドともに段差があるような場所は元々の斜面が相当な傾斜です。とにかく売れるので無理やりでもつくってしまった感があります。また、基本的には擁壁の上に新たな擁壁を築造されている「2段擁壁」は構造的に認められません。ほとんどの場合、元の擁壁がそれほどの荷重を受ける想定がされていないからです。

 

見知ブロック(谷積み)+石積みの2段擁壁

 

見知ブロック(谷積み)+見知ブロック(布積み)の2段擁壁【左側の家】

 

 

こちらは塗装を施してありますが、強度的には同じものです

 

垂直のRC擁壁を施工して敷地の有効面積を最大化していますが、これも2段擁壁のようです

 

以上、「全員アウトー」です。新たな住宅建築の際には、どの擁壁にも「住宅の荷重はいっさいかけてはいけない」とされますから、基礎の設計のくふうや杭工事の検討が必要になってくるでしょう。場合によっては擁壁のやり直しを前提とするなど、建築確認の際には様々な条件がつけられるかもしれません。

 

造成時、元々はこのような状態であったと思われます(ここは駐車場利用なので法面をセメントで固めてあります)

 

こういったことは、住宅のプロの方々であれば皆さんよくご存知のことだと思いますが「こういった土地をどう活かすか?」頭の痛い問題です。しかし安全性の確保は当然のこととして、どうせなら利用価値も劇的に改善したいですよね?どんな土地でもそうなる訳ではありませんが「高くても欲しい」「待ってでも欲しい」とお客様に言ってもらえる選択をしたいものです。

 

そういう仕事には社長の意思と根気とともに『土地のみたて力』が必要です。土地の選択と利用価値向上に成功した実例は、新築後数十年間その意気込みと価値を放ち続けます。その数十年の間に「その仕事が、どのくらい次の仕事を生み出すか?」を常に意識したいものです。

 

 

 

社長の会社では宅地の造成から工事するケースはありますか?その時には、長い目で見た利用価値向上のための理想を具体化されていますか?そういった提案をお客様にされていますか?

 

 

このコラムについて問い合わせる

 

 

一覧へ戻る