首都圏 注文住宅 事情通信 ■売れる力とは?

2022/06/1122:51224人が見ました

「反響」に最適化された構成

注文住宅の情報誌の東京版を買いました。
マンションの情報誌が面白かったので、戸建てのほうも読みたくなったのです。注文住宅の仕事を長い間やってきましたが、これまでは「地元版」ばかり見ていました。「東京版」を読むのは実は今回初めてです。

 

買った号の特集は「ベストプラン実例100」というテーマで、

 

KITCHEN/DINING
LIVINGBATHROOM
TOILETBEDROOM
CHILDREN`S ROOM
GARAGE
ENTRANCE/EXTERIOR
FACADE

 

といったカテゴリー別になっています。これはそそります。「つかみ」は十分です。

 

さっそく本を開いてみますと、80ページもの紙面に豊富な写真・平面図を中心にモデルハウスではない、実際の住まいとして建てられた実例が紹介されています。思ってたより見応えがあります。前後に行ったり来たりして、はまって読んでいるうちに気づいた事がありました。

 

掲載事例のほとんどが「設計事務所」らしきクレジットがある

 

この本の目玉は「ベストプラン実例100」という巻頭の特集です。この本に料金を払って広告や記事を掲載しているのは工務店・ビルダーですが、巻頭の特集の掲載物件の大半が設計事務所が手がけたものです。工務店・ビルダーらしきクレジットはほぼありません。要するに「映え」のするもので固めてあるということかと思います。いつも料金を払ってもらっている「お得意様」である工務店・ビルダーの実例では、紙面が成り立たないということを暗に物語っています。

 

「反響」に徹し最適化されているので「当然の事」として、こうなるのだと思います。最近では「人のふんどしで相撲を取る」的に「他社の実例で受注を取る」ことがあたりまえ、ぜんぜん平気な事業者が多くなってきています。ということもあって、各社どんどん似てくる訳です。そうして、さらに他社事例を使わないと紙面構成できなくなってきているのかもしれません。実際に提供しているものと「広告素材」のギャップに拍車がかかっているのです。

 

掲載事例のほとんどに施工者のクレジットがない

 

そして、どの物件にも必ず「施工者」が存在するはずなのですが、実例の物件を請け負った会社が設計施工の場合以外は「設計者」のみが紹介されていて「施工者」は紙面には登場しません。これは綿々と引き継がれているメディアの作法です。どうしてなのでしょう?工事請負契約やアフターサービスは「施工者」が行なっているはずなのに、違和感を覚えます。現代でも、受注の「顔」としての「先生」以外は表に出ないお約束があるのでしょうか。

 

業界内では「注文を取れる者が偉い」というヒエラルキーが継承されているように思われます。そして、誰が施工したものかは関係なく集客できる広告素材(実例写真や図面・文)を持っていることがメディアの中での強みにもなっているようです。

 

東京版であるが物件は全国あちらこちらの実例である

 

紹介されている実例の東京都率は低く、数えるほどしか登場しないのはやはりロケーション的なものでしょうか。この雑誌は全国各県版がありますので、全国での取材素材を総動員して再編集したのでしょう。おそらく、他県版でも巻頭を飾っているものと思われます。

 

ネット記事との連携や編集作業の効率化を考えると当然の成り行きかもしれませんが、こういったメディアの広域化が住宅の地域性・個性を失わせる一因になっていることは間違いなさそうです。

冒頭の特集「ベストプラン実例100」はさしずめ「Pinterest」のようです

 

 

営業マンより頼りになる「家づくりスタートブック」

 

住宅の営業マンをやっていますと、お客様に同じ話をする機会が多くあります。その中でも家づくりの流れや手順といったテーマは必須です。各社・各担当者でこういったものは準備していると思いますが、網羅するには場合分けも多く、わりと複雑なものです。また、お客様と直接会って長い時間を過ごしにくい昨今では、個別の課題解決により多くの時間を充てるためにも、ここで時間を取らない様に事前に済ませておきたい分野でもあります。

 

この本には「家づくりスタートブック」なる綴じ込み付録のようなものが付いていました。この部分だけ異なるページサイズで15ページほどで家づくりの流れ・手順・チェック項目などが見やすくまとめてあります。また、家族で話し合いながら意見やチェックを書き込めるようになっています。広告や記事を掲載している工務店・ビルダーの営業担当者に成り代わって初期対応をしてもらえるようになっています。親切です。

 

そして感心したのは、

 

何社ぐらいのイベントに参加したか?
何社に見積もりを取った?
自己資金はどれくらい準備した?

 

といった読者が「普通どうなんだろう?みんなどうしてるのだろう?」と思うであろう点をそっとデータとして載せてあることです。1〜3年以内に注文住宅を建築した人を対象に2018〜19年にアンケート調査したもので、背中を押す効果が見込めそうです。おそらく全国の大半の営業マンは自社のお客様の範囲でしか回答できないでしょう。そして紙面ではモデルハウス紹介や資料請求ページに続きます。絶妙な順番です。

 

全体としては「良くできているなー」と感心しましたが「これじゃダメだな」と思う点もありました。

 

そもそも居心地のいい住まいに必要な要素がチャック項目に入っていない
長期的な視点での生活価値に関する内容には触れられていない
全体として一見客観性のあるデータでまとめてあるので、上記欠陥に気づきにくい

 

このようなことは、市場の大半を占める一般的な事業者は意に介さないことかもしれませんが、注文住宅で最も大切な要素が欠落していると思います。反響や集客を目的に最適化・編集されている雑誌なので、完全に紙面まかせで家づくりに臨むのはやはり危ういものがあります。そもそもメディアはコミットしている対象が違う訳ですから、少し考えてみれば当然の事です。

 

中綴じで読者をそそる「家づくりスタートブック」

 

 

「実例ラインナップ」の巧み

 

紙面の後半には「実例ラインナップ」という「本丸」に続きます。料金を払ってこの本に掲載している各社の実例ページです。ここまでの前半で十分な「露払い(つゆはらい)」を終えて読者が現実的に候補を選択する場所です。

 

ここまで来るといつの間にか、かなり建物のグレードやセンスが低下しています。「夢」から「現実」に引き戻された感があります。しかし、せっかくここまで読み進めてきた読者が本を閉じてしまわないように、ここでもシッカリ「工夫」がされています。

 

そうです。価格帯別表示です。
この本では、

 

〜1500万円
1500万円〜2000万円
2000万円〜2500万円
2500万円〜3000万円
3000万円〜3500万円
3500万円〜4000万円
4000万円〜

 

といった7段階に分けてありました。

 

こういうふうにまとめてあると、ついつい「怖いもの見たさ」で高い価格帯も含め全体を見比べてみたくなりますよね。そうして、私もまんまと術中にはまり全体を見比べていましたところ、またも「違和感」を感じました。

 

どう見ても価格帯と実例の内容が合わないものが多数見受けられるのです。本体価格として見ても「東京でこの価格ではとても無理だろう」と思えるものが散在しています。しかも消費税込みだそうです。

 

「本体価格と一言で言ってもどこまで入ってる値段なのか?」という疑問が湧いてきます。各ページにはそういった表記はありませんがページをめくってあちこち探してみると、ありました。小さいフォントでこのコーナーの中表紙に書かれていました

 

「本体価格が表示されている場合、内容は会社によって異なります。詳細は各社にご確認ください。」

 

このあたりも業界の「伝統」です。

 

このコーナーの中表紙に書かれてた「業界の伝統」

 

しかし「免責事項」文中の、

 

「本誌では掲載企業の責任において提供された住まいおよび住まい関連商品等の情報を掲載しております。本体価格・坪単価など情報の内容を保証するものではありません。」

 

「表示されている価格帯および本体価格は施工当時のもので、現在の価格と異なる場合があります。」

 

とか、すごいですね。なるほど。私には「フェイクも入ってます」というふうに読めますが、皆さんはいかがでしょうか?

 

 

社長の会社では、住宅を販売する「目的」が全社で共有されていますか?まさか「集客のための雑誌」と同じ目的意識になってしまっていないでしょうね?

 

 

このコラムについて問い合わせる

 

一覧へ戻る