今回は二代目に事業を承継する過程で、リノベーション事業へ本格参入し、会社のDNAを活かしながら、活路を見出している2つの取り組み事例について紹介します。※写真はクライアント企業のリノベーションモデルハウス前にて
■M社(福島県)
母体は大工育成や県産材など自然素材にこだわりを持つ地域工務店。現在でも10数名の社員大工をかかえています。東日本大震災発生後は新築工事も増える一方で、福島県が他県へ移住する人もいました。そのような背景があり、「福島で豊かさを築く」という思いのもと、リノベーションで大切な思い出が詰まった実家を受け継ぎたいという顧客像をコアターゲットとして設定し、事業展開されています。
<リノベーション事業立ち上げの主な取り組み>
・2017年 自社の社屋をリノベーションし、体感スペースを開設(当時の売上はほぼ新築のみ)
・ 〃 同時にリノベーション専門サイトを開設
・2021年 リノベーションモデルハウスを開設(HEAT20G1グレード相当)
・2022年 リノベーション事業年商3億円(平均単価2000万円)
近年は隣接する市町村から築100年、200年といった古民家再生需要も取り込み、リノベ単価4500万円の案件をはじめ、受注単価は年々アップしている状況です。「リノベーションはハウスメーカーではなく、自分たちこそが向き合うべき領域だ」という工務店の矜持と「リノベーション事業は工務店にとってラストチャンス」という危機感、そして、新築という本業にとらわれないフレキシブルな姿勢で時流適応しながら、堅調に業績推移されています。地元の大学でリノベーションのカリキュラムを担当する非常勤講師の就任も内定し、アカデミックな場へも活躍のフィールドを広げています。
■E社(静岡県)
母体はやはり県産材やホタテ漆喰などこだわり素材を標準仕様とする地域工務店。近年はリノベーション事業への本格参入により、新築とリノベーション双方において相乗効果が出ており、マーケティング担当(女性スタッフ)によるアウトプットの最適化、見え方のコントロールも功を奏しています。新築の強みやブランドイメージを業際に位置するリノベーション事業で(乖離することなく)そのまま活かしている点も見逃せないポイントです。
<リノベーション事業立ち上げの主な取り組み>
・2019年 リノベーション事業の仕組み構築をスタート
・ 〃 リノベーション専門サイトを開設
・2020年 リノベーションモデルハウス(HEAT20G2グレード相当)と新築モデルハウスをWオープン
・2022年 リフォーム+リノベーション事業年商2億円(立ち上げ当時から5倍)
「建て替えかリノベーションか」というニーズを集め、客観的なポジションに立つことで、新築とリノベーション事業とも受注残を着実に蓄積されています。現在、事業承継に向けて、アーキテクトビルダーとして会社が蓄積してきたDNAへの融合と、二代目となるご子息が得意な仕組みづくりと数値管理により、パズルのように補完しながら全体設計をされています。とは言え、リノベーション事業は立ち上げてからまだ数年とスタートしたばかり。私も気を引き締めて、取り組んでいきます。
■上記2社の共通項
・創業当時から貫かれているDNAを受け継ぎながら、(反発・否定するのではなく)融合・補完するという事業承継としての本質の理解
・大工力や設計力など新築で蓄積した強みを、隣接市場のリノベーションでできる限り活かす「ズラし」という考え方
・快適な暮らし、豊かな暮らしの提供といった大義の一環でリノベーション事業への本格参入があり、大義実現のための売上目標であることの理解
・市場ニーズ、類似コンセプトの競合、自社資源の適合という3条件を見据えたポジショニング
・大手中心に他社が徹底できていない、お客様にとって良いことという差別化の意義
・モデルハウスだけつくる、リノベサイトを開設するといった部分最適ではなく、全体設計の中で位置づけられている事業化という発想
以上、事業の語源は「時代に応じて、変化させること」と言われている通り、時流適応こそが事業の本質であり、上記2社の事業承継という大きな節目において、強みを活かせるリノベーション事業が未来を切り開いていく上で今後も大きな役割を担っていくと強く感じています。
クライアント企業の社長からは「元々、リノベーションに対応するための建築知識や施工力はあったが、事業化の考え方とやり方を学んだ」というお声をいただくことがあります。やり方も大切ですが、今回の内容が考え方のヒントを提供できていれば幸いです。