首都圏マンション事情通信 からつづく
セールス現場の「非接触化」最新事情
個人的興味で東京の新築マンションの資料請求をしました。
怖いもの見たさで、タワマンや高級物件のものも申し込んでみました。
順次資料が届き始めて気がつきました。思ったより封筒が薄く軽く、大判の葉書になっているものも多くあるのです。中身を見てみると物件エントリーと称してQRコードとパスワードが印刷されていて、部屋の間取りや面積・価格詳細は会員サイトで見るような仕組みになっていました。これなら情報の追加や変更に対応しやすいし、何よりコストダウンになります。また、VR動画などの動的コンテンツは紙では表現できないので、そういった点でも必然だったのかもしれません。
また、ネットで会員登録するとコード番号が発行され、モデルルームに訪れた際には備え付けのiPadにメールアドレスとそのコード番号を入力すると面倒な現地でのアンケート記入が不要になるという仕組みにもなっています。同じ会社なのに何回も個人情報を書かされるのは面倒なことですし、ここへ来てようやくあたりまえにデータを活用できるようになってきたようです。
QRコードをスマホで読み込んでウェブサイトを見てみると、リアル・リモート両方でのモデルルーム案内の申し込みについて分かりやすくガイドされていました。首都圏にある新築マンション販売センターのこういった取り組みはかなり洗練されている印象を持ちました。
新築マンションのモデルルームはほとんどの場合、実際の建設現場とは別の場所にある仮説の販売センター内に設けられたものです。それなら、特に足を運ばずリモートで接客してもらう形でもぜんぜん問題なさそうです。販売センターにわざわざ出向いたとしても建物は未完成なので、結局そこで準備してあるCGやビデオを見せてもらうことになるのですから。
ちなみに、実際の建物内にあって現地での環境下で見れるのは「棟内モデルルーム」というやつで、販売会社が完成までに「完売」することに失敗した場合のみ設置されます。即ち、ある意味で販売に「失敗」した物件ですから、この段階になるとこっそりディスカウントがあったりします。
一般公開されている情報と、個人情報を取得できた人に対してのみ限定公開する情報を二段階にしているのは、さしずめオートロックみたいなものです。新築マンションの販売現場においては、こういった見込客のランク分けをある程度自動化する仕組みがあたりまえになりつつあるようです。
「ラグジュアリー化」するマンション環境
物件情報の中身を見てみると、デザインも生活環境もラグジュアリーホテルのような世界観です。高級物件ほどその傾向は強くなっています。自分の予算をはるかに超えていたとしても、ついつい気になって見てみたくなるものです。デザイン的には、床から天井までの大きなFIX(はめ殺し)ガラスの窓に石と高級家具をダークな雰囲気の色合いでまとめた内装イメージばかりです。
リアルにバブル世代である私には、こういう感じはどうしてもバブルっぽく見えてしまいますが、これらが ”日本人”の持つ「ラグジュアリー感」を表す「符号」なのかもしれません。タワーマンションの高層階では風が強かったりしてどっちみち窓は開けられませんのでFIXガラスになる訳ですが、床から天井までが全部ガラスになっていたりすると映画で見るニューヨークっぽくてアッパーな「成功者」的な雰囲気をあおります。
人が感じる「感情」は、人類共通といえるような特定の脳内信号の法則は当てはまらないようで、後天的なその人の「経験」から来る「社会的合意」といった要因によって決定づけられているそうです。その人の脳がその人の「経験」を使って「予測」して作っているのがその人の「感情」なのだそうです。人であれば共通であるように思える「感情」についてさえ、実は人それぞれに違った反応のロジックがあるのです。
言い換えると、社会的に他者から受ける多くの「刺激」や「経験」が、その人の感情表出にも多大な影響をしているということです。そう考えると、目にする新築マンションの情報がことごとくニューヨークっぽく写真が絶景で住まう人が幸せそうに見えたりすると、見せられたその「価値観」が、購入する「喜び」に結びついていくことは、何も不思議なことではありません。
耐震・免震・制震などの構造要素や、資材の高騰によってマンションの建築コストはどんどん膨らんでいるようです。その高い販売価格を正当化すべく豪華に感じるための内装・仕様、これでもかと用意された共用施設などで「レジデンス感」MAXのプロモーションがされています。
共用施設には、渋谷スクランブルスクエア(本コラムトップ画像)の屋上のようなガラス張りのスカイデッキ、室内のスカイビューラウンジ、巨大スクリーンのあるゴルフラウンジ、会議ができるカンファレンスルーム、居住者専用ライブラリー(図書室)、ワーク&スタディブース、レクリエーションルーム、フィットネス、カフェ、キッズルーム、パーティールームまさしく「会員制」の日常生活を現していて、限りなく高級ホテル住まいに近い生活イメージになっています。新しいプロジェクトが始まる度にどんどんセレブで生活感のないコンセプトになっていって、目指すはドバイという感じです。
↑高さを競い合うようなアラブ首長国連邦、ドバイのタワーマンション群
↑ドバイの市街地空撮(海上の埋め立てリゾート地を含めCGではなく実写です。左下に上の画像のタワマン郡が)
特有の「スペック」と「仕様」
最近建築されている高層マンションは、建物だけではなく、外部の植栽を施した公園のようなランドスケープを特徴としているプロジェクトが多くなっています。外観はより大胆に特徴的なデザインがなされ、ガラス張りの曲面などをコーナー部分に採用した商業ビルのような目を引く外観も多くなってきています。
採用されるガラス仕様はペアガラスにはなっているものの、ガラス面積が大きく部屋によっての温熱環境のばらつきはかなりのものであると想像できます。そういったことは新築マンション販売の現場ではあまり気にされていないようです。プロから見れば不思議なことですが、購入者は「全ての住戸が同じ性能」もしくは「高い住戸ほど性能がいい」ぐらいに思っています。そこには触れず、特に否定しないのが販売現場での姿勢です。
多くの物件で床暖房が採用され、エアコンは天井埋め込みタイプが増えています。最新の節電・節水などの省エネ設備が装備されているのは無論のことです。ある水道業者さんの講義で、超節水便器は排水管の詰まりが多く発生していて問題があるとの話を聴いたことがあります。排水勾配がギリギリのマンションで頻発していて、トイレットペーパーを多く使う家庭はとくに要注意とのことでした。
その方は、世の中が売るためのお墨付きを得るのに「省エネのスペック」ばかりに傾注してしまい、「実用」に対する販売者の意識が一層欠落してきていると、警鐘を鳴らしておられました。実際に各社の最新型節水便器での排水実験動画も見せてもらいましたが、排水管の途中に汚物に見立てた物体がおもいっきり残っていました。
↑各社競うように水の使用量を減らした便器を発売していますが、水面下では問題が…
建築される年代に沿って、様々なことが確かにイノベートされています。販売段階ではそのほとんどの部分が「新築マンションを購入すべき理由」として説明されています。しかし、イノベーションに見えるその事が、必ずしも住む人にとっていいことばかりではない面もあります。
ほとんどの場合、望む望まないにかかわらず、お客様には新しいものについての情報が多く入ってきます。「新しいものを知り、古いものと比較し評価する」といったプロの知見が必要とされます。新旧ともに理解することで、はじめてニュートラルな判断ができるようになるのです。常に新しいものの本質を知るということは、必要なことなのです。
社長の会社ではマンションリノベーションを事業化されていますか?また、今建てられている物件の仕様や技術的なイノベーションをたまにはチェックされていますか?
首都圏マンション事情通信(3) につづく
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