見込客とスタッフの『脳科学』3 ■売れる力とは?

2023/05/1311:43145人が見ました

 

見込客とスタッフの『脳科学』2 からつづく

 

 

「同調圧力」を生む土壌

 

同調圧力とは「少数意見を有する者に対して暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導すること」を指します。SNSなどの発達により、この意味を考えさせられる事象が多く認識されるようになりました。

 

人間が、いかに周囲の動向に流されやすいか。その事を確かめる実験で有名なのが、ソロモン・アッシュという心理学者の行ったものです。内容はこのようなものです。

 

7人グループの被験者に、誰が見ても明らかな視覚的問題を出します。ただし、被験者7人中6人はアッシュ先生の助手、いわゆる「サクラ」です。実験では「サクラ」が揃って、わざと間違った答えを出すように指示されています。その上で「サクラ」ではない1人の被験者が正しい答えを出せるかどうか、という「ドッキリカメラ」のような実験です。

 

他の人の回答を聞かずに単独で回答してもらった結果は99%以上の人が正解だったのですが、7人グループで被験者が6人の「サクラ」の「同調圧力」にされされると、誤回答率が36.8%になったのです。

 

「同調圧力」に屈することなく12回出された問題に対して一度も間違えなかった人は全体の25%にすぎませんでした。12回の実験を行う中で75%の人が「同調圧力」を受け入れてしまい、結果として「サクラ」にミスリードされてしまったのです。

 

ちなみにこの実験は1955年に行われたものだそうです。こういう事って、実のところ昔から知られていることのようです。

 

 

↑ソロモン・アッシュの実験で使用された視覚的問題

 

 

もう一つ、このような実験結果もあるそうです。

 

被験者に「デタラメな間違ったルール」を指示してから、ある作業を行ってもらうというものです。被験者は実験に参加していることは認識していますが「ルールがデタラメで間違っている」ことは知らされていません。

 

しかし、作業中に「指示されたルールは違うのではないか」ということにみんな気づき始めます。そのときに「実験なんだし言われた通りこのままやろう」という人たちのAグループと「気づいた以上は指示とは違うが正しいと思うルールでやろう」というBグループに分かれます。

 

それぞれの選択を行なった人たちの遺伝子を調べていくと、遺伝子的に違いがあることが分かったそうです。Aグループと、Bグループはそれぞれ、遺伝的に脳の特定の場所にドーパミン※が残りやすい性質を持つグループとそうでないグループであったそうです。

 

ドーパミンが残りにくい性質の人は「意思決定」が楽しいとは感じにくく、前例やあらかじめ決められたルールに従うほうが良いと感じる傾向が強いのです。Aグループ)

 

いっぽうドーパミンが残りやすい性質の人たちは自分で「意思決定」することが楽しいと感じられ、従前からのやり方を踏襲することにあまり魅力を感じないのだそうです。Bグループ)

 

※ドーパミンとは、脳の中で分泌される神経伝達物質で、“快楽物質”とも言われる。頑張って結果を出したときの達成感や満足感をもたらす。旅行の計画中にワクワクしていたり、美味しいものを食べたりした時にも分泌されるそうです。

 

ここでの2つのグループの割合を調べると、自分で意思決定することを楽しいと感じる人は日本人では27%しかいないそうです。残りの73%はどちらかというと自分で意思決定するのが苦痛な人たちなのです。

 

いっぽう、ヨーロッパでは6割近くが自分で意思決定したいタイプだそうです。どうしてこのような違いが生じるのかは、はっきり分かっていないそうですが、文化・習慣の違いだけではなく、もともと生まれながらに「遺伝子的」な違いを持っているということは「事実」のようです。

 

 

楽をしたいみんなの「脳」

 

日々生活していると、1日は選択の連続です。目や耳から入ってくる情報量は大変な量になってしまっています。しかし、私たちの「脳」はできるだけ「楽をしたい」と、思考停止できるチャンスをうかがっているのだそうです。

 

脳はカロリー消費の大きい臓器で、人間の1日の総消費カロリーの1/5程を使ってしまいます。人間の体は、燃費の悪い「脳」での消費エネルギーをできるだけ節約するような仕組みになっているようです。最近の自動車に搭載されている「アイドリングストップ機能」的なものです。

 

ここでも有名な実験を紹介します。アイエンガー教授らは、アメリカのスーパーマーケットにジャムの試食ブースをつくり、24種類のジャムと6種類のジャムを数時間ごとに入れ替えて提供し、買い物客の反応を調べるという実験を行いました。

 

その結果、24種類のジャムを並べたときには、買い物客の3%しか購入しませんでしたが、6種類のジャムを並べたときには、買い物客の30%近くが購入しました。このことは「人は必ずしも自分で選ぶことが好きではない」という考え方を支持する内容とされています。

 

24種類のジャムは、確かに選ぶ「負担感」がありますね(住宅情報誌や住宅展示場もこんな感じですよね)

 

 

人の「脳」はできるだけ「思考停止」したいけど、私たちは間違いたくはないのです。その時に「横断歩道、みんなで渡ればこわくない」といった行動が取られがちです。「みんなの行っている方についていけば大丈夫だろう」という判断です。

 

本当に73%もの日本人が自分で意思決定するのが苦痛な人たちだとすると、国政選挙の投票率や、メディアによる価値誘導、オンライン占いの流行などの社会現象は必然なのかもしれません。

 

脳科学者の指摘のとおり「自分で進むべき道を自分で決めたくない」という思いが、多くの人の潜在意識の中にあり「誰かに決めて欲しい」という無意識の願望があるとしたら。。。危うい限りです。

 

多くの社長は「オレはちがう」と仰るかもしれません。仮にそうだとしても、あくまで「少数派」なのです。

 

 

「多様性」にどう向き合うべきか

 

ニューヨーク市立大学バルーク校の研究グループが、マクドナルドの模擬店舗を用いて興味深い実験を行いました。

 

その模擬店舗を訪れた被験者には、用意された2種類のメニューリストから一方が渡されます。2種類のメニューリストはサラダなど健康を連想させるメニューが載ったものと、それが載っていないものです。その上で被験者が、最も高カロリーで太りそうな「ビッグマック」を選びオーダーする割合について調べました。

 

すると、予想外の結果が出ました。サラダが掲載されていないリストを受け取った被験者では約10%だったビッグマックの注文率が、サラダが掲載されているリストを受け取った被験者では約50%にも上ったというのです。

 

この結果に対する研究グループの考察では、人間が「良いこと」または「倫理的に正しい」なにかを想像しただけで「免罪符」を得たような意識になってしまうことを表しているというのです。

 

サラダが載っているリストを目にした人たちは、そこで「健康」という倫理的正しさをイメージします。ただそれだけのことで、「私は健康について倫理的に正しいことを考えている」と脳が判断、「だから、ビッグマックを食べてもいいや」と自分を許すのだそうです。

 

このマクドナルド模擬店の実験でビックマックを選んだ約50%の人たちは、その時サラダもいっしょにオーダーしたのでしょうか?気になるところです。

 

↑「免罪符」付きのメニューは「超強力」です

 

 

サラダが載っていないリストならばそんなことは起きないのに、なまじ載っていて目にしただけなのに心の「免罪符」を得てしまうという訳です。この傾向については身近なところでも心当たりがあり、日本人にも十分に当てはまる気がします。そして、このテクニックはすでに国内の様々な販売ツールに応用されている気がします。

 

住宅のチラシやパンフレットに入っている「自然素材」「省エネ」などのワードや、写真に合成されている取って付けたような不自然な緑の背景なども、ひょっとしたら心の「免罪符」に一役買っているのかもしれません。

 

 

「多様性」と言えば最近よく目にするキーワードです。人の「多様性」というと千差万別という印象を持ちます。千差万別をアイエンガー教授のジャムの実験のように「色々ありますから」と言って「思考停止」するのではなく、その傾向を知り自分の周りがどうなのか?を観察してみる価値はありそうです。

 

 

社長はスタッフに対して「どうしてみんな自主的にやってくれないのか?」と感じたことはありませんか?また、お客様に対して「どうしてウチの商品を選んでくれないのか?」疑問に思ったことはありませんか?それは、ヒトのちょっとした『性質』によるものかもしれません。

 

 

見込客とスタフの『脳科学』4 へつづく


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