『さとり世代』考 ■売れる力とは?

2023/12/0219:55148人が見ました

「古巣」の異変

 

 

久しぶりに大阪時代の「古巣」の同僚と会食をしました。私が離れてからは、もうかれこれ22年経っています。その間に会社の資本構成は大きく変わり、大株主は東京本社のO社になっていました。アパレル企業から中途入社した私が、初めて住宅にかかわるきっかけになった会社です。本社があった大阪には現在支店があるそうです。

 

付き合ってくれたのは、Y取締役とT部長でした。Y取締役は新卒採用でしたので年下ですが、中途入社の私にとっては先輩です。T部長も新卒採用組で私が辞める頃はまだ2年目のフレッシュマンでしたが、今では立派な幹部です。お互い22歳も歳をとっているのに、久しぶりに会うと当時のような若者同士のような話し方になります。それはそれで、またいいものです。

 

O社は、ビル事業を中心とした住宅・不動産事業を展開しています。長期的戦略と大きな資本が必要な事業です。O社のビル事業は関東・関西地域で展開していて、高収益率で安定しています。「稼ぐ力」は一般的な住宅系事業者とは次元の違うものです。一般論として「事業の筋」がいいと言えます。それゆえに、22年前の在籍メンバーの多くが今でも活躍しているとのことでした。

 

Y取締役は、本社管理系部門を取り仕切っています。T部長は現在その直属のようです。その日の新橋界隈はたくさんのサラリーマンで賑わっています。こぎれいな檜の内装を纏った店のテーブルで、お酒も進んできました。ひと通り、近況などで盛り上がった後こう言ってみました。

 

 

吉岡「以前は弱かった関東でもビル事業をしっかりやれているのなら、退職までみんな安泰やね」

 

Y取締役「そうなんすけどね。人材的には結構やばいんすよ」

 

吉岡「え。なんで?新卒の定期採用もずっとやってるんでしょ?」

 

Y取締役「やってます。でも、辞めちゃうんですよ。2・3年で。だから、おっさんと新人ばっかですわ」

 

吉岡「ええ?イマドキそんなに酷く働かせたりしないでしょ?給与水準も悪くないだろうし」

 

T部長「そうなんですけどねー。最近、転職エージェントがえぐいんですよ」

 

 

T部長もたまらず話し出しました。

 

 

T部長「みんな同業の有名どころにどんどんステップアップしていくんです」

 

吉岡「へー。2・3年で?すごい行動力やん」

 

Y取締役「転職エージェントって登録しておくと、じゃんじゃんオファーのメール送ってくるんすよ。ったくもう。。。」

 

T部長「さとり世代が、欲がないなんてのは嘘ですよ嘘💢

 

 

2人とも、グラスは氷だけに。だんだん飲み干すのが早くなりヒートアップしてきました。T部長は、ぼやきながらもテーブルのタブレットでテキパキ追加注文します。

 

 

 

『さとり世代』とは?

 

 

『さとり世代』とは大きな目標や夢などのための行動ではなく、現実的に必要最低限の生活を求める傾向がある世代のこと。1980年代の後半〜2000年代初頭にかけて生まれた世代だと言われています。育ってきた環境が不景気だったことから、社会の現実を「悟っている」ということから『さとり世代』と呼ばれています。

 

『さとり世代』の特徴としては「欲が無い」「ブランドによるステータスを求めない」「デジタルネイティブ」「競争意識が低い」「無駄遣いをしない」「気の合わない人とは付き合わない」ということが挙げられます。また、仕事にもスタイルがあると言われていて、「効率を重視する」「指示に忠実に従う」「プライベートを重視する」「自己実現の意識が高い」といったことが挙げられています。

 

名付け親の原田曜平氏は、こうした若者の特徴について「経済が成熟した国で見られる気質であり日本に限った事ではない」と述べています。

 

ただ「欲がない」という特徴に対しては反論意見があります。三菱総合研究所「生活者市場予測システム」の調査で平成世代は「金持ちになり、高級品を持ちたい」人は「とてもそう思う」「そう思う」の合計で39%(男女計)、「人生の勝ち組になりたい」も51%であり、氷河期世代の41%やバブル世代の34%よりかなり多いというデータが出ています。

 

こういったデータを元に「社会経済的地位の上昇意欲は、若いときは高いが年をとるにつれて低下すると考えるべきであり、特に平成世代が上昇意欲が低いとは言えない」との指摘です。この見方は、的を得た分析ではないかと思います。Y取締役とT部長のぼやきは、三菱総合研究所の調査を裏付けるような内容です。『さとり世代』の表面的イメージは、メディアによって面白おかしく演出されていた面があったものと思われます。

 

 

↑日本の世代論の中での『さとり世代』

 

  【光文社新書 原田曜平著 Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?】より

 

↑のんびりしているようでも、やることはやっている?

 

 

柾目のテーブルには、追加の品々が運ばれてきました。いつの間にか、広い店内は満席になっています。Y取締役が続けます。

 

Y取締役「毎年ね。同業同士で就職説明会を合同開催してるんすよ。でもね、やっぱ有名どころに集中しますよ」

 

 

吉岡「O社もまあまあ有名どころじゃあないの?」

 

Y取締役「いやあ、関東じゃまだまだですわ。合同説明会も、かろうじて数人来るかなみたいな感じっすよ。有名どころのついでに。。。」

 

T部長「採用後も、本当に一番先に帰りますよ。新人が。。。まあ自分は何も言わないっすけど。すぐパワハラとか言われるんで」

 

T部長「O社ってね。結構各個人の事情を聞いて人事するんですよ。家族構成とか親の面倒とか」

 

吉岡「いい会社やねー。なのに辞めちゃうんや」

 

Y取締役「だから、こいつ(T部長)なんかはめっちゃ残業してますわ。あんま事情のない“ひとりもの”なんで(笑)」

 

T部長「大阪支店の事業部関係への異動希望出してるんですけど。。。いちおう大阪に母親がいるんで。もう帰りたいです。。。」

 

Y取締役「もう何年も希望出してくるんですけど、他に優先度の高いやつがいっぱいいるからなあ。なかなか実現しないかも(笑)」

 

吉岡「あらー。。。」

 

 

 

恐るべし「転職エージェント」

 

 

現代の企業が採用戦略の1つとして利用するのが転職エージェントです。エージェントは、企業の特徴や事業戦略、必要な人材の詳しい要件、入社後に実現可能なキャリアプランなどを、企業の担当者にヒアリングします。そして、転職希望者との面接の中で、その経験やキャリアプランが企業の人材戦略に合致していると判断した場合は、あたかもその企業の採用担当であるかのように活動します。

 

転職エージェントが自分たちの代わりに自社の説明をしてくれるだけではなく、人材戦略に合致しているか否かも確認してくれるため、全て自社で採用業務を行うよりも希望に合致した人材に効率的に出会えるのです。支払う報酬は決して安くはありません。しかし、採用のための人員を抱えずに選抜作業の負荷を軽減でき、さらには宣伝広告費も抑えられることを考えると、トータルで見ればメリットが大きいのです。

 

気になる報酬額ですが、転職者の入社時想定年収の35%前後が標準です。仮に年収400万円の求人が決まった場合、手数料は140万円となります。年収が高い人材を多く紹介すればするほど、収益性が高まる仕組みです。故に、高年収の業界の中堅企業が狙い撃ちにされる訳です。転職する本人とエージェントも年収アップでWin-Winなのです。

 

人材紹介業は、極端に言えば自宅とPCと携帯電話があれば始められます。事業資金や資格取得など一定の条件はあるものの、創業に当たり厳しい条件は求められないことから、参入障壁が低い業界といえます。また、企業への営業も転職希望者との面談も、その後の転職支援の全てのプロセスも1人で対応できることから、社員数が110人未満の会社が無数にあります。

 

一方、世界的に見ると日本では転職に対する抵抗が未だに根強く、転職する人の数はそれほど多くありません。そのため、転職活動をする人の数に対する転職エージェントの数は既に過剰になっているのです。つまり、エージェント同士が激しく競争する状況になっているそうです。

 

実際、電車やWebサイトで転職エージェントの広告を見ない日はありません。転職サイトに登録すると、多い人はエージェントからのメールが1日に数十通も届くのだそうです。中には希望分野以外のオファーも含まれてきます。こうしたことからも、エージェント間の競争の激しさが見えてきます。

 

 

↑お昼休みや通勤時間にはオファーメールがどんどん来ているのかもしれません

 

↑O社は職歴欄に書くのにはいい会社だった???

 

 

 

社長は会社の『目的』を語っているか

 

 

一般的に言ってO社は優良企業です。どうして、せっかく入社した社員が数年で出て行ってしまうのでしょうか?本人の「ステップアップ志向」や「転職エージェントからの誘惑」の影響もあると思いますが、O社内部の要因はないのでしょうか?

 

私が思うには、以下のような要因があると思います。

 

①経営者が親会社からやってくる組織構造なので、ビジョンが組織維持的になっている
②幾度かの合併により、中高年の人材が固定化されている
③結果として若年層には「自己実現の意義」が見出しにくい

 

大組織のグループ企業では、こういった傾向は避けられない面もあります。いっぽう中小企業はこうった面を決して真似てはいけません。社会的に十分に見える「待遇」をもってしても人材流出を回避できない状況は、経営者にとってはすごく恐ろしい事のはずです。

 

中小企業の社長は会社の『目的』を自らの言葉で語るべきです。若い社員にも恥ずかしがらずに語るのです。会社の『目的』といっても定款に書いてあるようなのではダメです。彼らが、もっと具体的でリアルに感じ取れるものでないといけません。そして、社長自身の言葉で伝えるのです。社会に対する存在意義に共感してもらうためです。

 

O社の実情を見る限り、『さとり世代』にも必ずその熱意は伝わります。むしろ、O社に足りないのはその部分であると思います。若い頃「古巣」を飛び出した身である私には、『さとり世代』の彼らの心情が分かるのです。

 

 

 

社長の言葉で会社の『目的』を語っていますか?社会に対する『存在意義』を社員が理解してくれていますか?

 

 

 

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