NO MUSIC, NO LIFE. ■売れる力とは?

2023/11/2516:49229人が見ました

アナログレコード三昧

 

 

自宅にお見えになった方はご存じかと思いますが、私は音楽を聴くのが好きです。そして、その「聴き方」のバリエーションを豊富に持っています。CDやアナログレコードなどの音源・再生機器・スピーカーはもちろん、聴く場所・聴く時間も合わせると、無限の組み合わせがあります。自宅で仕事ができるようになって、より楽しめているのがこの趣味です。

 

自宅には、アナログレコードを始め、CD・カセットテープ・ミニディスクなど様々な音楽メディアが山ほどあります。若い方々からは「これ、何ですか?」などと聞かれたりするので「博物館状態」です。最近では記録メディアを必要としないストリーミングが主流になって「時代も行くところまで行ってしまった」と思っていましたが、ここのところアナログレコードが復活しているそうです。

 

既にストリーミングが圧倒的シェアを持つアメリカでは、2020年にはアナログレコードがCDの売り上げを抜いているそうです。日本ではそこまでではないようですが、アメリカ同様CD売り上げは年々減少し、アナログレコード売り上げが上昇中です。最も少なかった時期と比較すると10倍以上の規模になっているそうです。

 

レコード盤を作る際、最初に溝を切る原盤を「ラッカー盤」といいますが、そのラッカー盤を世界で唯一製造しているのが長野県宮田村にある「パブリックレコード」です。そして、レコード針のメーカー「ナガオカ」は接合針と呼ばれるレコード針で世界シェアの約9割を誇っています。最盛期の1/10まで落ち込んでいた苦境に耐え、現在では生産量が劇的に増えているそうです。すごいですね。

 

「パブリックレコード」の記事

 

https://www.phileweb.com/review/column/202002/14/956.html

 

「ナガオカ」の記事

 

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/192995?display=1

 

 

FM番組でアナログレコード時代をよく知る音響技術者 小鉄 徹 さんが出演されていました。知る人ぞ知る「いぶし銀」を思わせる達人です。未熟であった頃のレコード制作の話は面白く、アナログならではの「マスタリング※1」→「カッティング※2」の苦労話はマニアックでした。

 

※1 マスタリング:録音による音楽作品制作において、ミキシングして作られた左右の2トラック音源を、オーディオ・エフェクト機器を用いて加工し、音量や音質、音圧を調整することです。

 

※2 カッティング:レコード製作の最初の工程で、録音によって得られた音源は、まずカッティングマシンで柔らかなラッカー盤(凹)に刻まれます。その後は凹、凸の型取りを繰り返しメタルマスター(凸)、メタルマザー(凹)、そして最後のスタンパー(凸)でプレスしてレコード盤ができあがります。

 

達人の苦労は、このような内容でした。洋盤はマスタリング技術が先行していて、日本で作られる初期のレコードにはその技術がなく、しょぼい音だったそうです。有線放送やFM放送でオンエアされた際に「音が小さい」と「負けた」気がしたそうです。

 

当時、洋盤と比べて大幅に音圧が低かったのです。そんな背景もあって、アーティストや音響技術者の中では壮絶な「音圧競争」みたいなものがあったそうです。アナログレコードにはどうしても一定のノイズが入りますので、音圧が低いとノイズも目立ってしまう訳です。

 

音圧とは、簡単にいうと「プレーヤーの音量を一定にした場合の聴こえる音の大きさ」のことです。やたらに音量を上げて録音すると歪みが出てしまうので、ピークの大きい音だけを調整する作業が必要になったのだそうです。これがマスタリング段階での技術者の仕事です。

 

マスタリング技術に目覚めた達人は、音を歪ませないでいかに音圧を上げるかを追求していきます。アナログレコードは、円盤の上の溝に音の信号を記録するメディアです。それが回転してレコード針で音を拾い上げる仕組みです。故に、外周部分ほど時間当たりに記録できる距離が長くなりますから情報量(音質)が上げやすく、内側に行くほど情報量は少なくなり音質的には不利になります。

 

そういった事情から、アナログレコードの多くで「勝負曲」や「情報量の多い曲」はA面、B面の最初に録音されているのだそうです。このあたりの制約が、アナログならではであり、その制約の中で何とか良いものにするという飽くなき挑戦がエンジニア魂なのです。山下達郎さんなどは、この点の要求がすごかったようです。番組では、苦労したトラックの紹介で達郎氏の「RIDE ON TIME」がかけられました。達郎氏は、今だにアナログ重量盤※3なる珍品を再発売されているほどのこだわり屋さんです。(ちなみに私買ってしまいました)

 

※3 アナログ重量盤:通常盤のアナログレコードは、素材のビニール材料が120g、重量盤は同じく180gとなっています。自身の重みでレコードの回転が安定し、ピッチの揺らぎを抑えられ、曲を忠実に再現することができます。 達郎氏の再発重量盤は、1枚のLP音源をリマスタリングし2枚に分けてありました。レコード盤の溝の長さを2倍確保して音質を上げるためです。。。

 

音楽づくりの専門家たちは、最高の音楽体験の再現に真剣に取り組んでいたのです。そういう先人の下地があったからこそ、アナログレコードの復活があったのだと思います。

 

 

 

↑右がアナログ重量盤。分厚いです。

 

 

 

音質の「本質」

 

 

自宅にはちょい高級なオーディオセットがあります。古くてでかいです。それなりにこだわって買い揃えたものですが、今となってはこれも博物館的な品々です。ここでは音楽つながりで、オーディオマニアでよく言われる「トリヴィア」とその実際を2つご紹介します。ひとつはアナログ派のあるある、もうひとつは(プチ)デジタル派のあるあるです。

 

アナログ派のオーディオマニアの中では、真空管アンプが珍重されていたりします。ヴィンテージアンプだけではなく、新型の真空管アンプの発売もされています。そして、その音はやわらかく、スピーカーへの駆動力のあるサウンドとされています。もちろん価格もピンキリですが、高級車並みの価格のものもあります。私自身も何度となく真空管アンプの音を聴かせてもらった経験はあるのですが、同じ音源で聴き比べた訳でもなく、あまり違いは分からなかったというのが正直なところでした。

 

最近では様々な音響を発生させたり測定したりする機器が、安価で手に入るようになってきました。そして、ネットで多くの検証結果が見れるようになりました。それらを見ていると、どうやら真空管アンプの音には半導体アンプに比較して音質上有利な点は何もないようです。最新の測定機器で出力波形を検証すると、そのような「夢」のない結果が得られるのです。

 

現実には、出力周波数特性に癖(低音・高音が持ち上がる)が出て、歪みが増えるだけのようです。半導体アンプより原音から遠ざかり、音質的に有利な面はないとの結論です。記録されている信号に対して忠実に出力するという点において、原理的にも半導体アンプの方が優れているそうです。。。

 

 

 

つぎに、(プチ)デジタル派のをもうひとつ。最近よく聞かれるハイレゾ(High Resolution)音源の再生についてです。

 

ハイレゾ音源は夢の高音質オーディオと言われていますが、そもそも規格の定義がちょっといい加減です。①CDのスペックよりも「サンプリング周波数」「ビット数」のどちらかが超えている。(CDはサンプリング周波数44.1kHzビット数16bit)②フォーマットは「ビット数」24bit「サンプリング周波数」96kHz以上、またはDSD方式(「ビット数」1bit「サンプリング周波数」2.8224MHz)といった①ゆるめ②きつめの定義があるようです。また、再生機器に関しては高音が40kHz以上出ていればOKのようです。(これも都合のいい、ゆるい定義です)どっちでもハイレゾと呼んでいいそうです。

 

※ ①はJEITA(電子情報技術産業協会)②はJAS(日本オーディオ協会)のハイレゾの定義

 

おそらくは「おとなの事情」というやつでこんな事になったのではないかと思いますが、①と②ではぜんぜん違います。肝心な耳に聞こえる音はどうなのか?ですが、ここにも根本的な問題があります。

 

音源の要素には2つの軸があります。ひとつは音の高さの範囲(周波数レンジ)、もうひとつは音の大きさの範囲(ダイナミックレンジ)です。

 

人の可聴周波数レンジは20Hz〜20kHzまでで、ほとんどの人で高音は15kHzが限界と言われています。CDでも20kHzまでは記録されています。ハイレゾ音源には人の聞こえる限界を超える高音成分が含まれています。そもそも再生機器で高音を40kHz以上出して聞き取れるのか?という問題があります。

 

いっぽう、人の聞こえるダイナミックレンジは0〜120dBと言われています。16 bitCDに記録できるダイナミックレンジは96dBまでです。人の聞こえる範囲をカバーできていないのです。ということは、CDの課題はダイナミックレンジにあると言えます。ハイレゾ音源では②の基準でのみ、ダイナミックレンジが120dB以上確保されています。(①の基準で16 bitの場合はCDと同じ96dBとなります)

 

しかし、半導体アンプではどんなに高級品であっても108dBが限界です。一切アナログ回路を介さないフルデジタルアンプであれば120dBをクリアできるそうです。つまり、ハイレゾ音源の音質は真空管アンプは論外として、従来のどんな半導体アンプでも再生しきれないという事です。

 

さらに実際に音を出すスピーカーの性能としてはどうでしょうか。実は、超高価なハイエンドスピーカーのほとんどが120dBの幅はカバーできません。(若干機種あるそうですが)
物理的に振動板と鼓膜が近い、ヘッドホンやイヤホンの方がカバーしやすいようです。どうやら「良い音」というのは、かなりの部分で「思い込み」が占めているようです。認証マーク・価格・豪華さ・重さなどにより、いい音に聞こえてしまうのですね。。。

 

ここで他業界の闇が見えてきました。「足りていないダイナミックレンジに手を付けずに、聞こえない高域だけ伸ばして商売をする」これが、ハイレゾ周辺音楽業界の実態です。このような商売が発展していくような気がしませんね。

 

 

 

↑ハイレゾマーク:出展は日本オーディオ協会(上記①でも②でもこの認証マークがついています)

 

 

 

経営者と「ハイレゾの闇」

 

 

ついついマニアックな話をしてしまいましたが、社長、他業界の人ごとではありません。住宅業界も、新しい基準が次々出来上がる業界です。また、新しい基準によって官民一緒に新しい需要を喚起してきた歴史があります。

 

経済対策と銘打ってカンフル剤を打ってもらえる点ではよかったかもしれません。しかし、次々と新しい基準に乗り換える「現金な」振る舞いの繰り返しによって、長期的な信頼を失ってきた業界でもあります。

 

少なくても、自社がお客様に提供する商品のもたらす結果やお客様への利益については、可能な限り検証した上で提案したいものです。まちがっても「ハイレゾ」のように、お客様への利益が乏しいことが技術的にも分かっているのに、業界挙げて、あたかも良いもののように振る舞うことは真似したくないものです。

 

例えプロセスが大変であったとしても自分の耳を信じ奮闘してきたアナログレコード時代の「つくり手の真摯な姿」を見習いたいものです。

 

 

 

社長の会社では「お客様が商品から受け取る利益」を確認されていますか?「利益」がある気分になるだけの商品になってしまってはいませんか?

 

 

 


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