静かに置き換わる「盛り土」の常識(前編)■土地みたて

2024/02/1016:21220人が見ました

あるテレビ番組での戦慄

 

 

テレビで防災についての特集をやっていました。その日のテーマは盛り土宅地の危険性でした。最近も、大雨時に盛り土崩壊による被害が発生、大きく報道されていました。個々には報道されていませんが、熊本、福島、新潟、神戸など大きな地震時にも多数の盛り土崩壊が発生しました。

 

番組では、阪神・淡路大震災での盛り土崩壊事例が報告されていました。そこは小学生の頃、遠足で何度も出かけた場所でした。出演されていた専門家は、次のようにコメントされていました。

 

 

「コンクリートはメンテナンス不要の永久構造物という考え方があったが、現在では寿命があることになっている」

 

「盛り土に設置された排水管は劣化して、メンテナンスが必要になるものである」

 

「盛り土は一度つくってしまうと、徐々に締め固まっていくと信じられていた(そんなことはない)」

 

「現在不十分とされている施工も、当時の基準では違法ではないものが多い(既存不適格)」

 

「盛り土など土地の履歴は、現在でも不動産取引の際の重要事項説明の対象外である」

 

「民法上20年経過したものは、責任を問えなくなる(時効)」

 

 

昨日の「常識」は、今日の「非常識」になってしまっているのです。法律上の基準は、時期を追うごとに厳格化されています。過去の「適法」は現在の「違法(不適格)」といったことも常態化しています。決まって何かあってから騒がれるのです。いつの世もそうです。

 

工事の性格上、民法上の不法行為20年の時効は決定的に被害者にとって不利に働いています。万一何らかの被害が発生しても、施工後20年経過してしまうと、ほとんどのケースで行政にも当事者にも責任を問えない構造なのです。

 

しかし、盛り土を支える擁壁などの所有者は無過失であっても他人に被害を与えたら賠償義務があります。こちらのほうは20年経とうが50年経とうが免れることはありません。所有者は行政が「この盛土は危険性ありませんよ」と評価したからといって、滑動して他人に被害を与えれば損害賠償しないといけないのです。

 

盛り土の排水管については、実際には工事中に既に機能していなかったものも多数あるようです。当時の工事関係者の中でも「施工中の段階で土砂が詰まっていて、完成時点で既に機能してなかったものが多いと思う。排水口部分だけ清掃して、見かけ上機能しているようにして検査を受けていた」という証言もあるそうです。

 

国は「大規模盛り土造成地の耐震化事業」を推進していますが、その要件は大規模な盛り土に限定されています。

 

①盛土部分の面積が3,000㎡以上であり、盛土上に10戸以上の家屋が存在するもの
②盛土をする前の地盤面の勾配が20度以上であり、盛土の高さが5m以上、盛土上に5戸以上の家屋が存在するもの

 

実際にはこの要件よりも小規模なものが多く、何倍何十倍もの数が存在すると思われます。出演されていた専門家は要件外の小規模のものを「隠れ盛り土」と呼ばれていました。

 

「大規模盛り土造成地の耐震化事業」の手順は以下のようなものです。

 

大規模盛り土の抽出・公表(1次スクリーニング)
⬇︎
危険性の把握(2次スクリーニング)
⬇︎
危険性ありの判定
⬇︎
対策工事(国1/4を補助、個人・自治体負担は協議)

 

番組によるれば事業の進捗は、 危険性の把握(2次スクリーニング)の完了が全体の5.5%、対策工事完了はたったの3地区のみとのことでした。

 

番組に出ていた自治体担当者からは「国に自治体がついていけない」「調査を行なって危険性が判断されても、自治体としての費用の負担の目処が立たず住民に周知することすらできていない」「道筋も見えていなければゴールも見えていない」といった悲痛な声が漏れていました。

 

 

 

こっそり共有される防災情報

 

 

自治体は「大規模な盛土造成地(3000平米以上など)」をマップで公表することになっています。「まずは、自宅が大規模な盛土造成地にあるかどうかを確認しましょう」と国土交通省のWEBサイト『重ねるハザードマップ』を紹介しています。先述の「大規模盛り土造成地の耐震化事業」の大規模盛り土の抽出・公表(1次スクリーニング)の一環です。

 

『重ねるハザードマップ』↓

 

http://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=36.261992,139.130859&z=5&base=pale&ls=daikiboumoritsuzouseichi_multi%2C0.8&disp=1&vs=c1j0l0u0t0h0z0

 

 

実際にはこの要件よりも小規模なものが多く、何倍何十倍もの数が存在すると思われます。専門家が「隠れ盛り土」と言われていた小規模な盛り土は『重ねるハザードマップ』には出てきません。より細かく調べる時は『今昔マップ』を利用します。『今昔マップ』は現在と過去の地形図を見比べることができるサイトです。現在と昔の地形図を見比べることで、等高線から盛り土を判別するのです。

 

『今昔マップ』↓

 

https://ktgis.net/kjmapw/

 

 

国土交通省は『我が家の擁壁チェックシート』というものを公開しています。 イラスト付きのチェックシートにそって擁壁の確認を進めると、対策の必要性を点数で評価してくれるというものです。

 

『我が家の擁壁チェックシート』↓

 

https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001466510.pdf

 

 

 

盛り土のダブルスタンダード化

 

 

ここからは、より専門的な内容です。心ある専門家が指摘する重要な矛盾を含んでいます。具体的には以下のような点です。

 

■実績として4割の箇所が変動しているのに、第二次スクリーニングが終わったところでは、危険性のある盛土として抽出された率が0.14%しかない。

 

 

↑滑動崩落実績と変動予測結果の乖離(ほんまかいな)

 

 

■第二次スクリーニングの評価方法に明らかに甘い(危険性なしという結果が出やすくなる)点がある。

 

①滑り面が液状化しないこと前提としていること

 

②盛り土強度を、盛り土中心部の一番硬いところで得ていること

 

③盛り土の下の旧表土層を地山扱い(不動層)していること

 

 

↑大規模盛り土の概念図(評価の前提を少し変えるだけで結果は大きく変わるのだそうです)

 

 

 

■宅地盛り土の評価基準は甘く、高速道路盛り土の評価基準は厳しくなっている。

 

具体的には、宅地盛土は地下水が地表近くまであっても、締固めが緩くても決して液状化したりしないという前提であるが、高速道路の高盛土は十分締め固めても地下水位以下にあると液状化するものと考えて解析・対策するということになっているようです。

 

勘ぐって見ると「宅地盛土は民間人が住んでいるだけだし対象があまりに多過ぎるので、いたずらに危険性のある箇所を増やさないほうがいい」「高速道路の盛土は、滑動崩落したら事業者である旧日本道路公団であるNEXCOに責任が及ぶ。液状化が起きないように万全の設計をしよう」という意図が感じられます。

 

 

 

技術基準には客観性・公正さがあるようで、中身は忖度だらけなのです。専門家から見ると合理性がなく、結論ありきで理屈を後付けしている形跡があるという訳です。

 

つまり、お上の決める法令遵守(罰せられない)の線引きと、本来の技術的な安全性には、時として大きな隔たりがあることを知っておかなかればなりません。事が大きくなればなるほど「大人の事情」が入り込んでくるのです。日本人は法律を遵守すること=安全性の保証 と考えがちですが、必ずしもそうではないのです。

 

 

 

社長の会社の盛り土宅地の安全性評価は何をもって判断されていますか?技術的な安全性のレベルと法令遵守のレベルを分けて捉え顧客対応されていますか?

 

 

 

静かに置き換わる「盛り土」の常識(後編) につづく

 

 

 

 

 

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