「うちデザイン住宅なんです」
知人と話している時のことです。ご自宅の話になりました。 「うちデザイン住宅なんです。バルコニーもありませんし、一軒家ですけどバーベキューもできません。建売のデザイン住宅買っちゃったんで。。。」一瞬リアクションに困りました。「デザイン住宅」という言葉が自慢ではなく、どうやら自虐的に使われているようです。明らかに残念そうに話すトーンで分かりました。
「デザイン住宅」という言葉は、元々は良い意味の言葉であったと思いますが、最近では「残念な住宅」というニュアンスで使われ出したようです。知人は住宅関連業界にいた人で業界全般の様子にも精通しておられるので、特にそういう言い方だったのかもしれません。
そもそも、こういった流行り言葉の類は定義があいまいなことが多いのですが「デザイン住宅」もご多分に漏れずのようです。調べてみても「注文住宅の中でも一つのコンセプトに沿って設計されたデザイン性の高い住宅のこと」とか「デザイン住宅とは建築家や建築デザイナー等によって設計されたデザイン性に配慮された住宅」「デザイン住宅とは工務店や建築家がイチからプランニングしたコンセプト性の高い住宅」といった「自称」みたいな定義が多く出てきます。言った者勝ちといった様相です。そもそも最近では建築家や建築デザイナーが「自称」職種ですから。
「注文住宅」と「デザイン住宅」はどう違うのか?という説明を読んでいて面白いものがありました。「デザイン住宅は建物の至るところまで設計者がこだわって考え抜いた住宅。オリジナル性に富みデザイン的にもこだわった設計で住まい手の好みやご要望を丁寧に聞きながら設計しますので、結果的に個性豊かな家に仕上がる」のだそうです。
いっぽう「注文住宅」は一般的に間取りにはある程度の制約があり、壁紙やフローリング材などの素材もいくつかの選択肢の中からチョイスしてつくる住宅。「デザイン住宅ではあらゆる素材から自由に選ぶことができるのに対して注文住宅の場合はメーカーや工務店のもつ選択肢の中から選ぶという制約があり、間取りについても一般的な形状の住宅に仕上がることがほとんど」とありました。
「デザイン住宅」ではデザインへのこだわりが詰まっていて「注文住宅」はオリジナリティはありつつも生産性を重視した住宅なのだそうです。こうしてみると「デザイン住宅」は「注文住宅」そのもののことを言っているように思えますが、どうやら現代の「注文住宅」は規格化が進み制約の多いものになっていて、昔でいう「注文住宅」的なものは「デザイン住宅」と呼ばれるようになったかのようです。
↑「デザイン住宅」検索で出てきた画像(イマドキなのが多いです)
↑「注文住宅」検索で出てきた画像(違いが分かりますか?)
次々と生み出される奇天烈『フェイク』単語
近代歴史的にみても商業用『フェイク』単語は各分野で次々に生み出されています。その多くは『フェイク』と知られることなく生き残っているものもあります。多くの『フェイク』単語を擁する木材業界で例を挙げると、サクラ、米ヒバ、米マツなどがあります。
ミズメ、カバ類は家具に加工されるとサクラと商品表示されます。ミズメザクラ、カバザクラと表記されている場合もありますが、何れもサクラ属ではありません。現在家具や建築内装の方面でサクラといっているものはマカンバが多く、サクラ属の材であることはほとんどないそうです。逆のパターンとして樺(かば)細工の皮はカバではなくヤマザクラが使われているそうです。
米ヒバはヒノキの同類です。日本のヒバはアスナロ属に属していますので、米ヒバがヒバの名を使っているのは大変まぎらわしいことです。かつて米国から輸入した木材の中に日本のヒバによく似た木材があることを発見した人々が、ベイヒバとしたといわれています。
米マツはマツという名がついていますが、アカマツなどのマツ類とは別の類の樹種で、日本で相当するものとしてはトガサワラになるそうです。したがって、本来であればアメリカトガサワラと呼ぶべきものです。このように木材は「通称」「俗称」が正式名称になってしまっているものが多い分野です。
↑「サクラ 木材」検索で出てきた画像(木材になっちゃうと分かりませんね)
また、同様に多くが「通称」「俗称」が正式名称になっているものに魚があります。特に鯛はおめでたい魚の代名詞であり、「●●ダイ」という名前は日本産魚類図鑑をめくってみると約300種も出ているそうですが、「タイ科の魚」で日本近海に棲息するのは実際には13種だけなのだそうです。
そうです。あとの290種ほどの連中は名前だけ便乗している「フェイク」ダイなのだそうです。これは現在の「デザイン住宅」にも言える状況かもしれません。「フェイク」ダイの中には本物の真鯛を凌ぐ美味しさの高級魚もあるそうですが。。。
↑「鯛」検索で出てきた画像(随一の便乗組を有する魚です)
話を戻しますが、住宅業界は昔から『フェイク』単語の多い業界です。意図してかどうかは別として、海外には通じない独特の和製英語の世界が拡がり定着しています。
RCなど堅牢な構造の大規模集合住宅の代名詞である「マンション(mansion)」は英語で不動産物件を指しますが、物件の規模は「大邸宅」。日本で言うならば「お屋敷」に近いイメージです。分譲マンションで日本と同規模の物件である場合は「condominium(コンドミニアム)」が近いイメージになります。「間違った使われ方」&「不動産業界の広告イメージ」により、現在に至ります。
マンションに比べて小規模で、木造やプレハブイメージの「アパート(apart)」は英語です。本来の意味は「離れて」という意味になってしまいます。日本語の「アパート」と同じ意味合いで使われているのは「apartment house(アパートメントハウス)」です。でも、こちらは日本のマンションのような大規模な集合住宅を指す言葉です。イギリスでは「flats(フラッツ)」も使われるそうですが、こちらはローグレードなニュアンスなのだそうです。
↑「マンション」検索で出てきた画像(やはり大型物件が多いです)
↑「アパート」検索で出てきた画像(全体に規模感が違いますね)
さらに、物件の区分や名称にもよく見られるものについて。 「コーポ」は英語の「共同住宅・集合住宅」を意味する「コーポラティブハウス(cooperative house)」からできた、和製英語です。「コーポラティブハウス(cooperative house)」本来の意味は、建物を居住者組合が所有する賃貸住宅です。ちなみに日本国内では区分所有が主流になっています。和製英語の「コーポ」は軽量鉄骨造や木造で2階建ての共同住宅を指すことが多いです。
次に「ハイツ(heights)」は英語で「高台・丘」を意味します。小高い立地に建てられたマンション、アパートに「ハイツ」という名がつけられたのをきっかけに、徐々に日本では建物名として普及していったのではないかと言われています。しかし、実際にはハイツと言っても高台にあるとは限らず、プレハブ製で2階建ての共同住宅がまとめてそのように呼ばれているようです。
↑「コーポ」検索で出てきた画像(このへんになると混ぜ混ぜですね)
↑「ハイツ」検索で出てきた画像(こちらも混ぜ混ぜです)
「言葉」と「賞味期限」
このような「フェイク」言葉は綿々と生き続け、次々に出現しています。消えていったものもありますが、意味不明のまま定着し生き残っているものも多くあります。それらの成り立ちには罪のないものもありますが、意図的に売り物をよく見せようという「優良誤認」を狙ったものも多数見受けられます。
現代では、景品表示法により事業者が自己の供給する商品・サービスの取引においてその品質、規格その他の内容を一般消費者に対し、
(1)実際のものよりも著しく優良であると示すもの
(2)事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
で不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。
ここで例に挙げたように過去に「優良誤認」を狙った表現がそのまま定着してしまったケースもあります。古き良き時代には「優良誤認」の真偽は多くの時間を経過しないとバレない時代でした。しかしながら現代では決定的にそのスピードは違っています。また、地域を超えて情報が拡散する現代ではちょっとした「フェイク」言葉が大きな「信用失墜」に結びつくことも多く発生していることはご存知の通りです。
自社のサービスに「名前」がついているのは良いことです。その「名前」が拡散することも大いに結構です。しかし「名前」で身の丈以上の評価を得ようとするその前に、「品質」が賞賛されて会社の売り物の価値を高めていく努力を惜しまないようにせねばなりません。
社長の会社の売り物に「名前」はついていますか?お客様に提供した「品質」が固有名詞になるぐらい賞賛されていますか?
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