以前、東京から鹿児島の自宅にお見えになったYさんが、家のまわりが木に囲まれているのを見て「吉岡さんの家は、なんか酸素が濃い気がします」「いや、たぶん濃いです!」と話してくれました。その時は笑い話でしたが、そう言われてみて初めて「酸素濃度」を意識することになりました。これまで「空気のきれいな家」と言ってお客様に勧めてきましたが、空気そのものの組成にはノーマークでした。ちなみに、空気中の酸素濃度は約21%だそうです。
※自宅見学者のいろいろな声は、自宅見学者の『意外』な感想 でご紹介しています。
植物と「酸素」
実は、植物も人間などの動物と同じように「呼吸」をして酸素を吸い,二酸化炭素を出しています。また、光を浴びて「光合成」をする際には、二酸化炭素を取り入れ酸素を出すはたらきもしています。植物はこの両方をやっている訳です。
この両方のはたらきの差し引きをすると「光合成」によるものの方が大きいので、小学校では,「植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐く」と習いました。Yさんに自宅へ来てもらわなかったら危うく小学校の知識そのままになっていたところです。もう、いい歳になってしまいましたが、認識を正すことが出来てよかったです。
植物も「呼吸」は生きている間はずっと、昼も夜も行われます。「光合成」は光を受ける時間帯だけです。つまり、植物は光が当たっている昼間は「呼吸」と「光合成」の両方をやっているということです。
植物が十分に光を受けているときは「呼吸」によって取り入れられる酸素や出される二酸化炭素の量よりも、「光合成」によって取り入れられる二酸化炭素と出される酸素の量のほうが多くなります。夜間は呼吸だけを行っているので、酸素を取り入れ二酸化炭素を出しているのです。
これらをグラフ化するとこうなるそうです。最近の中学理科の教科書では出てくるみたいです(下図)光の強い場所でよく成長する植物が「陽性植物」、光の弱い場所でも成長できる植物が「陰生植物」というそうです。
↑植物は「呼吸」と「光合成」の両方やっているのですね
環境と「酸素」
最近では日常的に「酸素」よりも「二酸化炭素」が圧倒的に多く耳にします。しかも多くの場合「二酸化炭素」は気候変動を起こす悪者として扱われています。一般に入手できる情報源の多くでは、現在の大気中の「二酸化炭素」比率は0.04%です。また、大気中の「二酸化炭素」は徐々に増えていて、年間のペースは平均2ppm(0.0002%)だそうです。
いっぽう「酸素」は徐々に減っているようです。その減少量は年間にすると平均4ppm(0.0004%)程度だそうです。現在約21%ある「酸素」は、このままのペースで減り続けると2,500年後に20%を割り込むという計算です。
1999年から2011年の間のこの関係をグラフ化したものが下図です。
「二酸化炭素」の増加ペースである年平均平均2ppmという水準は、化石燃料の消費量等から予想される二酸化炭素排出量(下図A 点)より40%程度少ないそうです。(下図B 点)
それは、地球上では海洋と陸上生物圏で「二酸化炭素」が吸収されているからだと考えられています。陸上生物圏では植物が「二酸化炭素」を吸収し「酸素」を排出していますので、酸素濃度の減少もいくぶん和らいでいるというのが、現在の科学的解釈のようです。
↑1999年を起点とした12年間の大気中の「酸素」と「二酸化炭素」の濃度変化の説明【国立環境研究所 地球環境研究センターニュース 2012年11月号より】
大気中二酸化炭素濃度は冬に高く、夏に低いパターンを繰り返しながら年々増加しています。それに対し酸素濃度は冬に低く、夏に高いパターンを繰り返しながら年々減少しています。
それぞれの年間変動パターンは、陸域生物圏の呼吸量/光合成量のバランスで決まっています。例えば、夏は光合成が呼吸を上回るため二酸化炭素が減少し、酸素が増加しています。この変動パターンの振れ幅は、日本では寒冷な地域のほうが大きいようです。おそらく鹿児島の自宅では、比較的振れ幅は小さいのでしょう。
また、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出が二酸化炭素濃度増加の主原因であると同様に、化石燃料の燃焼によって酸素が消費されることで、大気中の酸素濃度の減少が続いていると考えられます。
↑波照間島(沖縄県)と落石岬(北海道)における大気中の「酸素」(青色)と「二酸化炭素」(赤色)の観測結果(点は実際の観測値、各グラフの山と谷の真ん中の線はトレンドを表しています)【国立環境研究所 2008年1月23日記者発表資料より】
↑波照間島(沖縄県)と落石岬(北海道)観測点の位置(日本の北と南の端のほうです)【国立環境研究所 2008年1月23日記者発表資料より】
人体と「酸素」
人は大気中に含まれる「酸素」を肺に取り込んで、血液の中のヘモグロビンと結合させ体じゅうにに運びます。通常、肺ではヘモグロビンはほとんど100%酸素と結びつきますが肺を通らない血液もあるので、酸素飽和度を測定すると98%くらいになるのだそうです。酸素飽和度は「ヘモグロビンの何%に酸素が結合しているか」を%で表したもので、病院などで指先に挟んで測るアレです。
人の呼吸によって肺までやってきた酸素の中には、血液中のヘモグロビンと結びつけず再び吐く息で体外に出される酸素もあります。実際に人が吐き出す呼気中の酸素濃度は15%くらいも残っているそうです。
大気中の酸素濃度は約21%であると紹介しました。登山やロープウエイで高度が上がると酸素が薄くなり、息苦しくなったり高山病になったりしますが、ここで問題です。富士山山頂の酸素濃度は何%くらいになるでしょう?
ぶっぶー。やはり21%なのです。
それは、酸素だけが薄くなるのではなく、大気の密度が低くなって空気全体が薄くなるのです。つまり酸素と他の気体の比率自体は変わりません。ちなみにその比率は、窒素約78%、酸素約21%、アルゴン約0.9%、二酸化炭素は0.04%と言われています。
平地では上空からの空気の重みで空気自体が圧縮されていますが、高所に行けば行くほど上からの空気の「おもし」が減るため、圧力(気圧)が減り、圧縮されない分一定体積内に含まれる気体の分子の数が減る(空気が薄くなる)ので、その結果、酸素の絶対量は気圧に比例して減ります。
仮に、平地の気圧を1013hPaとすると富士山頂の気圧は約650hPaとなり、平地の約64%となります。これは、平地で21%×64%=13.4%の濃度の酸素を吸っているのと同じことになるのですね。
↑そりゃ富士山に登るのはしんどいはずです
呼吸する空気中の酸素濃度が約8%まで低下すると失神し、7分から8分以内で死に至ります。逆に高濃度の酸素を吸い続けると酸素中毒になる場合があります。長時間吸い続けることにより痙攣や意識喪失等を引き起こし、最悪死に至ります。
また、酸素は他のものの燃焼を助ける性質(支燃性)があり、空気中で不燃性の物質でも可燃性にし物質を激しく燃焼させます。高濃度の酸素は衣服の繊維の隙間に入り込み、火種があった場合には衣服が火薬のようになってしまうのです。コロナ禍の最中、途上国の病院で患者吸入用の酸素が爆発してしまう事故が、多数発生したそうです。
↑命を救う「酸素」は、危険物でもあるのですね
ちゃんと調べてみると、どうやら物事にはプラスとマイナス、よい面とよくない面の両方が混在するようです。お手軽な情報には、そのどちらかだけが強調されていることが多いようです。
社長の会社では、自社の扱う商品にまつわる基礎的な原理を顧客やスタッフに教育していますか?そもそも、社長ご自身が根っこのところから十分理解・納得されていますか?
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