マーケティングは論理的な科学である

2018/11/1918:50198人が見ました

 新築市場が縮小するなか、人と同じことをしてたら生き残れない。その会社にしかできないこと、すなわち「らしさ」が求められる時代になった。だが「らしさ」は与えられるものではなく、自ら気付くもの。本稿では、そのヒントを建て主の思いや物語から学んでいく。

 

ある工務店からの質問

「先日セミナーを受けに行ったら、先生が『これからはいろいろなお客様に対応できる住宅を持たないと生き残れない』と、ある工務店の社長が同意を求めるように話しかけてこられた。

 私は即座に「それはどうでしょうか。少なくともあなたの会社の場合はその方向はよくないと思いますよ」と言ったら、思ってもいなかった反応だったのだろう。『えっ、なぜですか?』と、鳩が豆鉄砲でも食らったような表情をした。

 年間20棟前後の新築を建てている工務店である。私は7~8年この会社の様子をみているが、この間、18~22棟の間を行ったり来たりしている。地方の人口15万人くらいの商圏で、よく健闘している方である。

 小学5年生の時に父親を亡くし、母親1人に育ててもらったというこの社長から私は、父親が家を残してくれたから母に大きくしてもらうことができた、だから私は住宅を建てる仕事をするようになった。そして地域の人たちに助けられてここまできたのだと、何度も聞かされた。情熱的に明るく話すこの社長が、私は大好きである。

 地域の人たち、とくに子ども、お年寄りのためにというこの社長の熱い思いには、そんな背景がある。

 独居老人のリフォームを無料で行ったり、川の掃除を続けたり、子どもたちのスポーツイベントを行ったり、さまざまなボランティア活動で毎年、市の社会福祉協議会から感謝状をいただくような会社である。最近、大人と子どもの遊び場のような家を古い酒屋を解体した材料でつくった。そこでも多様なイベントが行われている。

 地域における知名度、よいイメージは、測定(調査)したわけではないが、相当なものだろう。

 そんな会社がなぜ、世の中が変化している、市場が縮小しているからといって、多角的な、低価格をうたった戦略を展開する必要があるのだろうか。

 私はむしろ今のような時だからこそ、この地域での、この会社のさまざまな展開が強みとなって、顧客の信頼がアップすると考えている。「間違っても、そんな展開をしてはいけませんよ」と申し上げた。

「らしさ」がなければ

「住宅マーケティング」という観点から本書を書いていこうと思う。マーケティングとは何か、いまさら申し上げることもないと思うが確認しておこう。簡単に言えば「だれに・なにを・どのように」ということを考える論理的な科学だと私は思っている。なぜいまさらマーケティングを取り上げるかというと、あまりにも「何かいい方法がないですか」と質問される方が多いからだ。いわゆる「HOW TO」である。

 これまで、ハウツーばかりで生きてきた会社を、私は企業の大小にかかわらず嫌というほどたくさん見てきた。だからこの質問をされるたび、まず「私にはわかりません」と答えることにしている。「あなたの会社のことをよくわからないのにどうすればいいか、無責任なことは言えません」と。

 業績が落ちている、会社の運営がうまくいかない、これらにはすべて原因がある。その原因を具体的に「なるほど、そうか」というところまで確認できたら、問題の解決は自然と見つかる。その作業をしないで手っ取り早く効果の上がる策は簡単にはみつからない。

 さて、話の先を急ごう。

「らしさ」である。なぜ私がこんなことを言い出したか。市場が縮小していくことが明確だったからである。市場が拡大している時には人(他社)のすることを真似して、遅れないでついていけば世の中の波に乗って自分(自社)も成長できた。しかし市場が縮小している時には、人と違ったことをしないと生き残れない。いや、お客様に選んでいただけない。人と同じことをしていたら同じように潰れていく。近年、そんな会社がたくさんあった。それが今の世の中である。これからますますそうなっていく。

 人と違う方向とは何か。まさにあなたしかできないことである。あなた「らしさ」のあることをすればいい。当たり前のことである。しかし、どのような「らしさ」があるのか、ということが多くの会社の課題になっている。

あなたのお客はだれか

「マーケティング」に戻ろう。「だれに・なにを・どのように」である。「らしさ」を考えるには、まず「あなたのお客はだれなのか」から入らなければならない。だれの家をつくってきたのか、つくるのか、である。

 この質問をした時に「住宅を求めている人すべてです」という答えが返ってきたことがある。あるいは「我が社に来てくれるすべてです」という人もいる。そういうことを言っているから事業環境が厳しくなってきたのである。なぜ私は「住宅マーケティング」とうい言葉にこだわるのか。それは、自社の今後の経営・事業展開において「だれに・なにを・どのように」をセットにして論理的にアプローチする癖・習慣をつくってほしいからである。マーケティングの世界に40年携わってきた人間として、何かお役に立つところがあると思っている。

 さて、まずは「あなたのお客様はだれか」を考えてみよう。別に特別なことをするわけではない。まず、こんな質問をしてみたい。

「あなたは、あなたのお客様が、なぜ、どのように、あなたの会社にたどりついたのか、ご存知ですか?」「そのようなことを具体的に『なるほど』と納得いくような情報として確認したことがありますか?」「それらの情報を定期的に収集・分析していますか?」「その結果をあなたの会社の家づくりに、お客様への伝え方、アプローチにどのように生かしていますか?」「活動結果のノウハウをどのように整理していますか?」……。

 いかがだろうか。

 本書では、お客様の「住宅建築に至ったストーリー」を取り上げていく。私が調査・取材したもので、客観的な立場からお客様の本音を聞き出すことができた事例だと思っている。具体的な氏名、場所、検討した会社名などは省かせてもらうが、この事例をもとに、読者の皆さんと一緒に何を学べるか考えてみたい。マーケティングは論理的な化学だと述べた。具体的な事実を前に対応のあり方を考えてみよう。本書がそのような癖をつけていただく一助になればと思っている。

(本稿は「住宅マーケティングの教科書」からの転載です)

 

(新建新聞社発刊の同名書籍からの転載)

アマゾンからご購入いただけます。

https://amzn.to/2SeO1hx

一覧へ戻る