成功事例検証インタビュー ALLAGI(アレジ)①

2020/03/1917:061588人が見ました

地方工務店にとってもPR 機能が不可欠となった昨今。「どう知られたいか」まで目的を定め、中長期的なPR 戦略を行うことが必要だ。そんな中、小さな工務店が思い切ったリブランディングと広報活動によって存在感を発揮し、驚きの成長を遂げるケースが増え始めた。そこで今回は、ブランドを意識した広報活動を展開している全国各地の工務店を訪ね、ブランディングや情報発信の考え方、手法をコマツアキラさんがインタビューし、地方工務店の可能性を探る。

今回は「世界を幸せに」を理念に掲げるアレジを訪ね、同社社長の谷上元朗さんに話を聞く(前編)。

 

成功事例検証 インタビュー

ALLAGI(アレジ)[大阪府和泉市]代表取締役社長 谷上元朗さん

 

ALLAGI 谷上元朗社長

 

リブランディングを機に急成長

 

コマツ 先代を引き継いだ谷上工務店からリブランディングを図られてどのくらい経過しているのでしょうか。

 

谷上 5 年です。新卒を採用することにし、IT・マーケティング部のリーダーが入社したのをきっかけに、一緒にチラシ制作などを進めたのが起点でした。そこから一気に社員数が増え、売上げも増大しました。現在、社員数は128人、中途採用7 割、新卒3 割で、年間1500 人ほどのエントリーが来るようになりました。売り上げは41億円(2019年実績)、この5 年でおよそ3.4 倍となっています。

 

コマツ 我々工務店も、エースホテル※のように建築業からライフスタイル産業へとリブランディングしていくことが求められると考えます。サンプロの場合は、どちらかというと経営やビジネスに重点を置いたリブランディングを展開してきましたが、アレジさんを拝見していると、人にフィーチャーしたリブランディングをされているようにお見受けします。その点がこのエースホテルに似ているかなと感じます。ちなみに「アレジ」とは、どんな意味なのでしょうか。(※エースホテル<Ace Hotel>アメリカ・ポートランドに本社を置く。90 年代初頭にホテル業の定義を崩し、ホテルをコミュニティ・カルチャーの拠点と位置づけた。その結果、クリエイターやアーティストが中心となって滞在、存在自体がブランドになって今に至っている)

 

谷上 ギリシャ語で「変化」を意味する「アレギ」が語源です。音感がいいので「アレジ」としました。介護事業も展開しているため、欧文の「ALLAGI」が「AllAge =すべての世代の人」に近い点も、いいじゃないかと。

その前に、2006 年から谷上工務店の「STYLE HOUSE(スタイルハウス)」として、注文住宅事業を展開しています。10 年を経過し、このスタイルハウスが地域に認知されたところで2017 年に社名を「アレジ」にしました。今もってスタイルハウスという名前の認知度が高いので、ブランドとしての切り分けは割とふわふわしている感覚です。

 

谷上工務店時代に「STYLE HOUSE(スタイルハウス)」として事業化。約10年後に「ALLAGI」に社名変更し、リブランディングを加速させる

 

自分たちの価値を伝えるための情報発信

 

コマツ 谷上さんは、以前からものづくりへの思いや取り組みを自ら発信されていたとうかがいましたが、なぜそうしようと思われたのでしょうか。

 

谷上 先代社長の父は根っからの職人でした。そこに集まる社員も、やはりいい職人たちで、みんなまじめに質の高い仕事をしていました。にもかかわらず、どんなにがんばっても給料が上がらない。不幸ですよね。二代目として、このままの経営でいいのかと真剣に思ったのが発端です。

 しかし、私にできることなどほとんどありません。それでも自分たちがどんな思いで家づくりに携わっているのか、現場にどんなこだわりを注いでいるのかを少しでも多くの人に伝えなくては、知ってもらわなくてはとの思いからブログを始めました。

 

コマツ 変化を感じたターニングポイントはどこですか。

 

谷上 スタイルハウスを発足し、下請けからメーカーになった時ですね。それ以前からものづくりには自信がありましたが、逆にものづくりにしか自信がない状態でメーカーに転身したわけで、まさに試行錯誤でした。けれど、一つひとつやるべきことをやっていったら順番にかたちになった。「やってみればできるんだな」というのが正直な実感です。

 もっとも、実際にかたちになってきたのはここ34 年。それまで土の中で必死にがんばってきたというイメージですよ。

 

創業時のALLAGI(谷上工務店時代)の社屋

 ALLAGI創業時(谷上工務店)の社屋

目指すのは、誰もが成長し、いい人生を送れる企業

 

コマツ アレジさんは「人を幸せにする」を企業理念とし、「人は誰でもよくなれる。 やればできる」という言葉を前面に打ち出して、人の後天的な力を信じた人材育成に力を注いでおられますね。

 

谷上 たしかに、この会社に来たら「絶対に成長できる」「いい人生を送れる」そんな会社にしたいと考えています。しかしながら社員すべてがそうなれるだけの実力が、まだ当社に備わっていないのがジレンマです。現在は個々の先天的なものを見ながら後天的な素養を育てていくという方針ですね。ただし、いったん入社してくれた人は決して見捨てることなく、成長を後押しする考えです。

 

コマツ サンプロの場合、この数年、成長の曲線が飛躍的に上がっています。リブランディングの成果でもありますが、一番の要因は、優秀な管理職が増えたことと確信しています。入社する人材をより成長させることのできる土壌ができたのでしょう。

 アレジさんの社員の方々を見ますと、皆さん、たたずまいがいいですね。単に服装がおしゃれというのでなく、非常にいい空気を漂わせていると感じます。採用にあたって独自の基準をお持ちですか。

 

谷上 実は、よくそう言っていただくのですが、採用で特に個々の雰囲気を意識しているわけではありません。採用説明会で私が話して思いを率直に伝えますので、それに共感できない人は次の段階には来ません。そのため結果的にうちの空気に合う人が集まっているのでしょう。その一方で、より優秀な人、いい意味で尖った人も来ないという傾向はあるように思います。

 

 

広報の専任部署創設は自然な流れ

 

サンプロ広報責任者 コマツアキラさん

コマツ 採用にも深く関わるところですが、広報とプロモーションの明確な違いを理解し、使い分けて発信している地方工務店はまだ少ないと感じます。そのなかで、アレジさんは「当社を知って信用してほしい」という明確な意識を持って生活者とのコミュニケーションをとっておられると感じます。また、社内に広報の専属部署があり、各人がしっかりしたミッションを持って活動している点も全国的にあまり例がありません。このような体制にするきっかけは何だったのでしょうか。

 

谷上 会社の規模が小さい時は、あらゆるメディアへの発信からブログまで全部私が管理していました。当社がどんな会社で、どんなミッションのもとに事業をしているのかは、会社にとって一番重要な部分ですから、社長がやるのが当然だと入社した時から思っていました。

 しかし社員が増え、事業規模が拡大すると、物理的に難しくなっていきます。かといって一番大事なところがブレてはいけない。そのため経営やブランドの意識を社長と共有できる専門部署を置くことは、ごく自然な流れでした。現在、広報を担当するIT・マーケティング部には6 人おりますが、もっと充実させていかなくてはいけないと思います。

 

コマツ 多くの工務店は性能的にもデザイン的にも価値ある住宅を、誇りも自信も持ってつくっています。しかし、業界として戦略的にブランディングを考えてこなかったために、生活者に本当の価値が届いていないという実情があります。その価値を取り戻すのはプロモーションではなくPR、つまり広報活動だと、私は考えています。その点、アレジさんはまさに価値を生活者に届ける広報活動を展開し、ブランドが地域に浸透していますね。

 

谷上 自分でやっている時は、考えていることをそのまま発信すればよかったのですが、社員がやるようになって、少し薄れるなと感じることはありました。それで外注した時期もあるのですが、仕上がりはカッコよくても、こちらの思いがきちんと入らない。結局、デザインは多少見劣りしても、理念を理解した社員が作った方が思いが込められると気づき、広報は社内でやることにしたのです。 それには人を増やす必要があるし、社内の制度も整えなくては、ということで現在の体制にしました。(つづく)

 

>後編に続きます。

 

 

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