モノリス株式会社の田近秀敏と申します。企業のチームマネジメント、そのためのコーチング研修などを中心にサポートを行ってきました。このルームにて、少しずつ住宅会社のスキルアップのための情報を発信して参りたいと思っています。しかし今回は、新型コロナの影響で住宅業界も「ニューノーマル」に入ろうかということで、このコロナ禍に関する内容をお伝えさせていただければと思います。
景気の悪い時に何をするか
私の恩師である松下幸之助の発言として、すでに世の中に知れ渡っているものがあります。
そのひとつは、「景気よし。不景気さらによし」という言葉です。
不景気もまた良いものだ、などと普通は鷹揚に構えてはいられないものです。しかし経営の神様の発言ですから、立ち止まって自分事にしてみましょう。
景気が良ければ当然経営も潤います。繁栄への期待が高まり、投資意欲も大きくなります。まさに景気の良い話が出てくるのです。
では「不景気もまた良いものだ」とは、どういうことでしょうか。不景気だからこそ、商品サービスの見直しができる。お客さんの困りごとに謙虚に耳を傾けることもする。もっと機能する組織体制を試してみる。暇な時間を人材育成の機会にする。そのように捉えると、不景気の時期が次の段階への準備となる。
だから、会社を存続させていくためには不景気も必要なのだと考えたわけです。
逆に言えば、不景気の時期に何を意図して、どのように取り組むのかが次の景気の波をいち早く捉えることに繋がるとも言えます。
ビジネスモデルの転換期
世界は変わりました。新型コロナウイルス感染が収束していき、やがて終息しても世界は完全には元に戻りません。人の動きが変わりました。ビジネスモデルの転換が必要になります。
証券業界でも対面営業をしてきた野村、大和、SMBC日興の収益が軒並み下がっているのに対し、ネット証券上位5社は今年1月から3月までに新規口座開設が2倍以上になりました。証券業界各社は対面営業によって、短期の金融商品売買に焦点を当てて手数料を稼ぐ従来のやり方から脱却して、資産形成層の息の長い投資マネーを呼び込み、薄く広く長く収益を上げるビジネスモデルに転換を図ることになります。数年後には証券業界の勢力図が変わることになるかもしれません。
住宅業界はなくなりません。しかしビジネスモデルの転換が求められています。正解は分かりませんが、ヒントは現場にあります。
この数年、働き改革が叫ばれていましたが、コロナ禍によってその流れが加速していきます。
「テレワーク」や「リモートワーク」という言葉が注目されている昨今ですが、そこにはどのような可能性があるでしょうか。ヒントは「オンライン・コミュニケーションの質を上げる」ということです。
コロナ禍でも実績を出している住宅会社はある
私が今年から「チームコーチング」で支援しているリノベーションの若い会社があります。年初に行った戦略会議で、前年度実績の2倍の売り上げをつくろうと決定しました。かなりのストレッチです。その後、新型コロナウイルス対策で対面営業自粛という流れになりました。これは厳しいなと正直なところ思いました。
ところが4カ月を経て、実績はすでに前年度の実績に並びました。
カギはテレワークの質にあります。
一例をあげると、関西にビルを所有している方が、趣味が高じてスポーツジムを始めることになりました。3階建てのビルをすべてジムにするための内装工事の相見積もりをしました。私のクライアントは利益を30%乗せて提案しましたので、それほど安いとは言えないということでした。
女性営業社員がお客様とオンラインの商談をしました。その結果、4月に商談がまとまり、約3千万円の内装工事代金を打合せの段階で支払ってくれたのです。
そこまでお客様の購買動機を高めたものは何だったのか。それは、お客様が理念に共感をして、心が動かされたということなのです。
理念やビジョンが差別化になった
私のクライアントであるこの会社は、年初の戦略会議で、企業理念、ビジョン、戦略を見直すことにしました。その中で、「私たちはお客様の次のステージへの支援をする」ことに喜びを感じて、この仕事をしているのだと定義したのです。
不動産の売買、住居の建築、転居の背景にお客様の人生の物語があります。その物語に耳を傾けることで、お客様にとっての成功を支援するという真摯な関わりをしていくのです。
ただのスローガンにしてはいけません。きれいごとに本気になるのです。そうすれば、お客さんの方でオンラインではなく、実際に面談してみようという気になります。新型コロナ問題が収まると再び、対面が可能になります。リアルな人間同士の距離の取り方や印象操作などを含む相互行為を、オンラインのコミュニケーションで実現することは困難です。ですから、リモートワークの簡便さを学ぶと同時に、やはりリアルな人間関係の良さを再認識する過程の中にいます。
ステイホーム期に住まいが見直されている
さて、もうひとつの現場からのヒントです。
コロナ禍における有効な対策はステイホーム。人は家にいることを学んでいます。一方で家に籠ることから生じるストレスが悲しいことに家庭内暴力を増やしています。
このことからふたつのことが分かります。ひとつは、家族関係の作り方、関係性の質をどのように高めていくのかという学びが必要だということ。
もうひとつは、住居の環境です。家族といえども人は他の人から干渉されない時空を必要としているのです。
クラフトマンシップを大事にしている工務店さんに依頼して、数年前に自宅に隣接した土地に私の別会社の木造社屋を作っていただきました。実際には、そこは仕事の現場というよりはゲストハウスのような環境です。会議やコーチングで訪ねてこられた人々はそこでくつろぎます。
ステイホームの時期ですが、私たち家族は、自宅とゲストハウスと庭を自由に活用し、楽しみを工夫しながら家族で過ごしています。家に籠ることのストレスがほとんどありません。幸福感をもって家族との時間を有難く過ごしているのです。
コロナ禍の状況で、人々は家族とともに過ごすことの価値を見直す機会を得ています。
さて、ふたつの視点でヒントを差し上げました。「オンライン・コミュニケーションの質を上げる工夫をする」ことと、「人が戻っていくべき家の環境づくりへの新たな提案が可能になっている」ということです。
皆さんの工務店ではアフターコロナの世界にどのような発信をしていくのでしょうか。
住宅業界全体が変わっていくのには時間がかかるでしょう。おそらくは痛みが伴います。
でも工務店単位で見たら、新しい世界に対応することができた企業と対応が遅れて苦しむ企業に分かれることになるでしょう。
モノリス株式会社 代表取締役会長 田近秀敏
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