『住宅設計』の手がかりとは?                                            ■土地みたて

2021/03/1221:04581人が見ました

大阪の大競合時代

 

大阪の営業マン時代、千里住宅公園(上はその衛星画像です)に出入りしていました。

 

関西の方はご存知かも知れませんが、千里住宅公園は1970年の大阪万博跡地にある関西圏最大の総合住宅展示場です。(そう、あの「太陽の塔」のすぐ近くです)

現在でも55棟のモデルハウスがずらりと並ぶ住宅メーカーの戦いの場です。展示場は3つのゲートがあって、どこから入っても全メーカーのモデルハウスにアクセスできます。中に建ち並ぶモデルハウスは3つのブロックに分けられていて、各ブロックは各ゲートのアンケート情報がまず配布され、2週間後に他の2ブロックのアンケートも配布されると言うシステムになっていました。

 

2週間遅れで他の2ブロックのアンケートのお客様にアプローチしても、既に10数社の猛烈なアプローチを受けた後で、とりつく島もない状態でした。ピラニアのような営業マンがウヨウヨいるこの展示場では「情報を得たその日に訪問・報告」はあたりまえでしたから、自社のモデルハウスのあるブロックのアンケートであってもほぼ同様でした。ですから、検討のテーブルに載せていただくには、自社のモデルハウスに入ってきていただいて、いかにアンケート記入をしていただくかが絶対条件になっていました。

 

大手のメーカーさんは3ブロックに異なるタイプの商品のモデルハウスを建てて、3つ全てのゲートの情報を時間差なく獲得する体制を取っていました。但し、同じメーカーさんでもモデルハウス毎に別組織ですから、ピラニア営業マンにとっては商売敵であることは変わりありません。

 

↑千里住宅公園のピラニア営業マン軍団(イメージ)

 

 

そういう環境下ですから、各社モデルハウスを設計する際には「いかに中に入ってきていただくか」と言う大命題に最適化するかに苦心していました。店舗のようなFIXガラスに囲まれたリビングや、強化ガラス製の自動ドア付きの玄関などもこの頃お目見えしていて、絶大な集客効果を上げていました。まるで、獲物を捕食するためにイソギンチャクが小魚の気を引く色・形・動きに進化していく様のようでした。バカでかい敷地なのに駐車場もない、へんてこりんな設計のモデルハウス住宅にお客様が次々と飲み込まれていく光景は今でも忘れません。

 

↑住宅展示場モデルハウスと重なる多様な進化を遂げるイソギンチャク(イメージ)

 

 

住宅展示場のモデルハウスは住まいではなく、住まいの皮をかぶった集客店舗であって、それはそれで用途・目的に対しての合理性はあります。しかし、お客様の欲しい、家族で住むための住まいとはいささか違ったものである事は疑う余地のないところです。今よりはずっと景況感は良かったのですが、当時の営業マンはそんな環境で多くのライバルと競合、いかに競り勝つかということに日々向き合っていたのです。

明らかなことは、向き合う相手はお客様ではなく、お客様の周りを取り巻く競合他社だったことです。

まさに、野生の生態系の如くですね。

 

千里住宅公園のゲート 10社競合あたりまえ!ここが当時の主戦場でした

 

 

住まいのための『土地みたて』

 

一方、本当に住み暮らすための住宅を考えるためには、その住宅の建つ場所の要素がそこでの居心地にどう影響するのかは、大切であるはずです。そういった場所固有の要素を認識していくことを『土地のみたて』と呼んでいます。

 

『土地のみたて』の要素は、お医者さんでいう血液検査や画像診断のようなもので、診療対象の個々の状態を知る手がかりとなるものです。そういった情報なくして現代の医療水準は成立しないわけですが、どういう訳か私たちの住宅業界では土地のみたての要素はかなり軽視されていると言わざるを得ません。

そう言われてしまうと「なくてはならないもの、ないと始まらないもの」という気がしてきませんか?

 

できれば多くの工務店さんにその重要性を見直して欲しくて会社を立ち上げました。

住宅設計の考え方には、

 

徹底して規格化を行い、可能な限りどのような条件の敷地にも適合するよう考えられたもの

 

もあれば、

 

一定の規格化はしつつ、敷地とその周囲のもつ個性を読み込んで適合させることで最大のパフォーマンスを目指すもの

 

徹底的に一軒一軒完全カスタマイズで設計するもの

 

などがありますが、の方向性に挑戦した工務店がこれからの時代から選択されるのだと思います。

それは、これまでそういう意識を持たず敷地にプラン集から間取りを当てはめてきた人たちにとって、おそらくハードルの高い取り組みになります。住まいとしての品質をともなって、且つ再現性・収益性を保つという視点でどううまく仕組みにしていくかは複雑で困難な道のりです。

 

しかし、だからといって安易に

 

敷地とその周囲のもつ個性は無視しつつ、単に規格化したり、違う想定条件の設計を盲目的にあてはめる

 

ことは避けるべくだと思いますが、日本の新築住宅にはこのケースが実に多いのです。

 

大半のお客様にとって、入居する前にはもちろん、何も形になっていない契約前にこういった違いを理解して見破ることは至難の技かと思います。 でも住んでしまえば、その住宅がうまく出来ているのかどうかは、じわじわっと分かってくる事でもあるのです。一年も住めば営業マン以上の体験と裏づけを持つことになります。

 

工務店としては、需要構造が変化・縮小していくこれからの時代、将来の次の仕事を生むために入居後の評価には注意を払うべきであるということは明白です。ホームページに良いことばかり書き並べていても安心はできないのです。

 

ところで、皆さんは①②③④どれをやっていますか?

 

 

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