人生最大の「むちゃぶり」から得たもの                              ■マンションリノベ

2021/03/1913:19853人が見ました

「むちゃぶり」が人をつくる

 

会社員時代には、多くの経営者の方からチャンスをいただいて様々な事業立ち上げに携わらせていただきました。 任された当時はお先真っ暗で「どうしよう・・・」と途方に暮れるようなことばかりでしたが、仕事に熱中して一生懸命働くことができましたし、それまではよく分からなかったことが、ひとつひとつ分かるようになりました。そうしてきたからこそ、その先の今があるのだと思います。

 

いちばん最後(最も直近)にまかされた仕事が、フルリノベーション専門のマンションリノベ事業の立ち上げの仕事でした。 「お金は出してあげるから、全部自分ひとりでやってみなさい」「社内スタッフに頼らず、協力業社さんも自分で見つけてきなさい」とのお達しで、これまで取り組んできた思いのある業務や案件についても「とにかく、これまで担当している仕事は全て他の人に引き継いで新しい事業に専念するように」ときっぱりと退路を絶たれ、あっという間に追い込まれてしまいました。

 

収益がない中で広報・営業・設計・積算・発注・現場管理など次々切り替えてやらないといけない毎日は、すぐさま自転車操業みたいな雰囲気になってしまいました。 いかに自分が「分業前提の歯ぐるま」であったかを思い知ることになりました。売り上げがないのに見る見るお金が出ていくおそろしい経験もしました。

 

ひとり親方的に働いたことがない自分がドタバタする様はなんとも情けない心持ちで、家に帰って床についてからもやらないといけないのにやってないことが次々思い出されて、何度も起き上がってはメモる落ち着かない日々を過ごしました。

 

これまで会社のお金について心配をしたことがない私は「経営者は大変や・・・」と思うばかり。覚悟のないものにとって全部自ひとりでやるということは、大変ストレスの多いものだったのです。脱サラして自営業をやっていた父親のことを、ふと思い出すことも増えました。

 

 

 

偶然この手につかんでいたもの

 

慣れない仕事で行き届かないことも多く、現場では毎日のように問題発生連発でモグラ叩きのようでした。 自分にとってはぜんぜん余裕のない中でしたが、ふと振り返ると、多くの方の力添えでなんとかその日を乗り切るという日常。共に取り組んでいただく皆さんと現場で一緒に働いて、小さな一歩を喜びつつ11日を終える日々。それはそれは手応えのある豊かなものでした。最初はこのむちゃぶりに「これはいじめや!」と感じていましたが、だんだんと「経営者に相当な信念と余裕がなければ、こうはさせられないよな」と思うようになるのです。

 

散々いろいろあって、やっとの思いで現場が仕上がり「もう2度と仕事は受けてもらえないやろな」と思っていたのですが、職人さんたちが次々とご家族や仲間の職人さんを完成した現場に連れこられて「居心地いいっしょ!どうよ!」と得意げに説明してくれている姿は一生忘れることのできない光景で、この仕事の最大のご褒美でした。 それと同時に、これほどまでに居心地を変えられるマンションリノベーションの「事業」としての可能性を強く確信した瞬間でもありました。

 

毎日毎日、必死で目の前の仕事と格闘していて偶然につかんでしまっていて、気がついて手を開いてみたら「事業のたね」が手の中にあったのです。

 

いったい日本にマンションの部屋ってどのくらいあるのでしょう?

 

 

 

「食わず嫌い」のマンションリノベーション

 

受注して請け負う側の工務店としては一般的にマンションリノベーションの仕事のことを、

 

近隣クレームが多く、休日や時間の制限が多くて仕事の出来高が伸びない

解体してみないと見えないところも多く見積りが難しく、工期も読みにくい

部材の選定が難しく、解体資材や材料の搬入・搬出が大変

 

といったことなどから敬遠されがちです。そういう私自身もそう思っていましたし、気持ちは「敬遠」していたかもしれません。実際に取り組んでみてどうだったのか?と言われますと「これはいける!」と思えることがたくさんありました。

 

に対して

 

マンションの部屋のフルリノベーションとなりますと、工期は当然長くなります。また、工事時間も9:00〜17:00とか規約で決めてあったりします。さらに土日祝は仕事はできません。エレベーターや廊下など他の居住者の権利もある「共用部分」を使用させていただいて出入りするわけですから当然と言えるかもしれませんが、つくる側としては厳しい話です。戸建ての感覚で1日の出来高を計画することはできませんし、工程がズレたら取り戻すことは困難です。

 

工程管理はご想像の通り「いばらの道」です。工事期間中「うちは休みが水曜日なの」とか「夜勤があるので午前中寝ている間は静かにしてほしい」とか、色々言われます。そんなの聞いてたら「いつ工事すんねん!」みたいなことにもなりますし、工事中いろんな方からたくさん怒られます。

 

でも、最善を尽くしてやり切れば、意外と後で評価が上がっていくのです。工事が終わって、別の部屋の工事で次の業者さんが入った時に事態は好転していきます。かなりの確率で次の業者さんが酷いからです。

 

に対して

 

確かに解体してみないと分からないところが多いのがリノベーションのつらいところです。同じ建物の同じタイプの部屋で2軒目の工事ができれば最高ですが、そんなことはまずありません。しかし、これも100%そうである訳ですから、お客様にもなぜそうなのか?をしっかり説明して解体完了後に工事費確定するようにすれば利益率低下のリスクは解消することができます。最初からそういうシステムにするのです。リノベーションの場合は見切り発車は厳禁です。

 

に対して

 

部材の選定は最初よくわかりませんでした。しかし、とにかく実践して見る中で「新築とどこが違うのか?」が分かってくると「何を選ばないといけないのか?」はおのずと見えてきます。それ以外は新築で実績があるものがあるなら同じでもいいということになリます。最初にここをとことん自分の頭で考えることは大変ではありますが、その後に多くの場面で必ず生きてくるのです。

 

⇅完成した部屋は当時の『新建ハウジングプラスワン』に取り上げてもらいました(励みになりました)

 

実際にマンションリノベーションをやってみて、結構大変でした。

でも、お客様の期待値に対して提供できるものを考えると、例え工事中苦労したとしてもそれらを遥かに超えて余りある仕事だと思いました。他にないので受注を高額化できるのです。実際には建築的にやれることは限られていますが、それに相反して新築よりも期待値に対する提供価値のギャップは大。マンションだからということで諦めかけていたクライアントさんに、住む人の将来にわたる生活価値の提供ができるということ、高額受注で手間に見合う利益を確保できるということを確信するに至ったことは大きな発見でした。

 

 

私が社会に飛び出した頃は、まだまだ坂の上の雲を見ているような時代でした。まだインターネットもなく、社会全体に「まあ、色々やって経験してみなさい」というような包容力のようなものがあったように思います。しかし、最近では学生も新入社員にじっくりと現場で経験を積む余裕を与えてあげることができない雰囲気になってきています。これから社長は経験を上手に獲得してスタッフにシェアすることを前提にしていく必要がありそうです。

 

ただ、その経験が本物”  であることは言うまでもなく絶対条件となります。本物を常に見分ける目がないと話にならない結果となっていきます。

 

 

あなたの会社では本物と呼べる経験を新しいスタッフたちにシェアできていますか?また本物が本物であり続けるために常にアップデートしていますか?

 

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