通りすがりの『住宅団地』にて                                   ■新・戸建分譲

2021/08/0700:50840人が見ました

行った先々で気になる『住宅団地』

 

お手伝いしている工務店さんの地元で現場に連れて行ってもらう道すがら、いつも右手に見えてくる戸建住宅の団地があります。

 

そこは、ゆっくり左にカーブしていく幅の広い新しい道路沿いでこころなしか空が大きく見えます。左手には大きな工場がありますが敷地が大きく建物は見えなくて、右手にずらずらっと行儀よく並んだ新しめの戸建住宅が過ぎ去っていきます。いわゆる「ニュータウン!」という雰囲気の漂う景観です。

 

 いつも通る現場への道中、こんな景色が見えてきます

 

現場に向かうときは北上する方向で、右手に見える住宅には2階バルコニーが続いて見えます。道路がゆっくりカーブしているせいかこれが何だか圧巻なのです。建物の色合いは統一されていて全部同じ家かと思いきや、Googleで上から見てみると一戸一戸は微妙に違うプランになっているようです。

 

上から見てみるとこんな形の住宅団地でした

 

 

「街並みをつくる」ということ

 

屋根材や外壁材の質感やメインカラーは統一されていて切妻屋根もあれば寄棟屋根もありますが、太陽光発電パネルは屋根のデザインを問わず採用されています。ざっと全体の半分以上に載っています。全戸、造園も施されているところを見ると建売分譲もしくは団地内協定のある建築条件付き分譲であったことが分かります。比較的高級な物件のようです。

 

デベロッパー(不動産開発業者)の方は、「街並みをつくる」という言葉が好きです。以前在籍していました会社もそうでした。見通しの良くない塀を排除して生垣を多用したオープン外構などを想定した団地内協定をつくることで、街並みの乱れを防ぐという考え方は少なくても30年前とほとんど変化していません。何だか、小学生が同じ体操服を着て校庭に整列しているさまのようにも見えます。

 

大規模住宅地開発における画一的な戸建て住宅において、むかしは我が家を隣家と間違えないようにするために無理やり屋根形状を変えたりしていました。(冗談抜きです)形状・プランがほぼ同じになってしまう場合は外壁やサッシ・玄関ドアの色を変えたりして何とか個性を演出することもありました。

今でもそうかもしれませんが。

 

ストリートビューによると団地内は全住戸に造園も施されているようです

 

この場所の衛星画像は落葉樹と陰のようすから秋頃のお昼前のようです。

寒い時期の貴重な日照がどの家で得られているのか、答えあわせのようによく見てとれます。

 

ここは団地の中の道路もカーブしていて区画毎に少しずつ方位がずれていくのですが、建物プランとしては北入り、南入り、東入り、西入りと4区分のどれかにあてはめられているようです。このあたりも30年以上変わっていません。何しろ、そもそも設計者の手持ちプラン集にはその4区分以外のプランは載っていないのですから。

 

道はカーブしていて敷地の向き(方位)は微妙に変化しています

 

 

何を設計するのか?

 

ご存知のように太陽は1年を通じて日の出、日の入の方位や高さ(地平線からの角度)が変化し続けます。よって実際に各住戸単位で日照により得られる熱や光の条件は、建物や窓の配置と方位によって大きく変わります。「だいたい南側であろう向きさえあけとけば良い」というものではない事は明白です。方位を4区分で扱うこと自体が各住戸の温熱環境を整える視点からは不合理なことですが、これも永年の業界における伝統のようです。

 

Googleで上から見てみると、さらにいろんなことが見えてきます。

南北(あくまで設計者の解釈で)に並んだ家は意識的に出来るだけ感覚をあけるように配置されているようですが、東西(あくまで設計者の解釈で)に並んだ家は隣家とかなりくっついているように見受けられます。

 

ひとことで南入りの土地と言っても実際には西寄りや東寄りに様々な角度がありますので、東西と南北がこんがらがったような建物もよくあります。断熱・気密など同グレードの設定であっても実際の住戸ごとの温熱環境はかなりの差があることは容易に推察できます。

 

南北とみなされる間隔は出来るだけ取られているようです

 

東西とみなされる間隔はけっこう詰め詰めになっています

 

 

世の設計者の中には徹底的に住まい手の生活価値にコミットして

 

経年とともに深まる居心地や住まう人の感情を豊かに満たす術を磨き続けている人たち

 

 

温熱環境を客観的に数値で評価、その場所でのベストな環境性能の確実な実現、その建物が解体されるまでの総合的な経済性までデザインする人たち

 

 

も少数派ながら実在します。(ある建築家曰く、感覚的にその実数は確実に全体の1%を切るとのことです)

 

これでは住まいづくりをされるユーザーにとっては100発中99発弾が出るロシアンルーレットです。「家は3回建てないと」などと言ってる場合ではありません。

 

せっかくこれだけの規模で一住戸ごとに設計するのであれば、可能なかぎり全戸ベストな室内環境になるよう夏至の日射の取得をコントロールしたり、豊かな感情を生む視界や居心地を追求したいものです。残念ながら、そういった目的意識を持って設計された住宅はいま現在でもほとんど建っていないのが私たちのこの国の現状です。

 

このあいだ自宅のポストに入っていた住宅・不動産のチラシを見ていましたら、建築条件付き宅地のこんなコピーの広告が載っていました。

 

 

全区画陽当たり良好です!(更地の分譲地の写真付きで)

 

 

ある意味で秀逸な広告ですが「そりゃ家建つ前は陽当たり良好やろ!」と突っ込みたくなるのは私だけではないと思います。もちろん、チラシに載っている区画図には方位も隣接地状況の掲載もありません。プロならば更地の状態ではなくて、設計した住宅が建ってからの日射の取得や調節をうたって欲しいものです。

 

住まい手の生活価値を実現する。

その術は複雑なようで分解していくとそれぞれは単純で分かりやすいものです。そこにはちゃんとした理由があり、一度覚えてしまうとその後は末永く応用ができるものが沢山あります。すべての対価を負担する人、すなわち住まう人のために腰を据えて身につける価値は十二分にあります。

 

 

 

あなたの会社ではその敷地での住まいの最適化を本当に考えて設計されていますか?できあがる建物での生活価値に自信を持てる設計をされていますか?

 

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