間違えるな!『マンション床施工』                                 ■マンションリノベ

2021/08/1501:151544人が見ました

無知のままで突入するマンションリノベーション

 

初めてマンションリノベーションの設計を自分でやってみたのは買取再販物件でした。

 

築30年以上の古いマンションだったので、現場に通っているとホールには次々に他の部屋の工事あいさつの貼り紙が増えたり減ったりしていて様々な作業服を着た業者さんたちが常に出入りしていました。自らの物件の工事を依頼する業者さんのあてもなく、何をどう始めればいいのか?本当に段取りが分かってなかったので、どこかの部屋から音が聞こえるてくるとそそくさと缶コーヒーを持って走っていくのでした。

 

 

段取りが分からないのにマンションリノベーションに取り組むことになった経緯は人生最大の「むちゃぶり」から得たものでご覧ください。

 

 

缶コーヒーを持って訪ねていった部屋(気の良い大工さんでした)

 

 

この写真は、その頃見せてもらった同じマンション棟内の部屋のひとつ。大工さんがひとりで床の下地をつくっているところでした。

 

見せてもらった時は「ふーん、こうやってつくるんや」という感じで光が差してきた思いでした。差し迫った興味をむき出しにして色々質問をさせていただきました。「床板は何を使うんですか?」という問いには「マンション用のクッションのついたやつ。遮音フロア。」というような返答でした。

 

新築マンションのギャラリー(モデルルーム)にたくさん通って、パンフレットをもらったりして勉強はしていましたので「ふむふむ」という感じでした。最近のマンションの床の仕様、施工方法は、床板の裏もしくはコンクリートスラブに立てる支持脚に音や振動を伝えにくい柔らかい素材を使用することで遮音性能を確保しているという説明がもらってきた資料にも書いてありました。その時は、材料に性能の表示があるものを使えさえすれば、実際の性能も確保されるものだと思いこんで話していたのです。自分もその大工さんも。

 

この大工さんの床の組み方は、まさに戸建木造住宅のコンクリート基礎の上に1階床を組む際のやり方です。コンクリート部分からアンカーボルトが立ち上がっていて穴あけした角材を並べているところで、これに直接厚い構造用合板を敷き込んでクッション材付きの床板を張る予定とのことでした。

 

 

買い取った物件ではどうしよう?

 

工事を予定していた物件では、無垢の杉材で床を仕上げるのが大前提でした。新築をさせていただいた住まい手に「この部屋ならぜひとも住みたい!」と言ってもらえる部屋にするというのが、社長からのオーダーだったからです。そのためにはどうしても、素足で過ごせる気持ちのいい床でないといけませんでした。よって、床板自体には遮音対策が施されていませんので、床下の支持脚に緩衝材の入ったもので施工する考えでした。

 

その物件の真下の住戸のオーナーはご年配の方でその部屋には住んでおられず、長らく空き部屋にされていました。子供さんご家族がそのうち住むようになるかもしれないのでということで「人に貸すのもなんかイヤだし」とおっしゃるなんとも余裕のある方でした。管理費や修繕積立金などの負担なども、ぜんぜん気にされていないご様子でした。いつもお留守でその方には工事のご挨拶も出来てませんでしたが、管理人さんが連絡役になってくださり部屋に来られた際に合わせてご挨拶に伺うことができました。

 

その際、工事のご挨拶をするのと共にお部屋の中にも入れていただき、真上にある工事予定物件の着工前での床の生活音をいっしょに体感させてもらうこともできました。そのオーナーご夫婦とかわりばんこで上の部屋で物を落としたり走ってドンドンしてみたりしてみたのです。その際の感じは、どこで何をしているのかがわかるぐらいの音で「まあまあ聞こえるなー」という印象でした。その時は正直「ビフォーがこのレベルならハードルは低いな」というふうにも思いました。

 

その後、実際に解体が始まり床を剥がしてみると、元の施工は床板の中ほどに床面に対して垂直方向に切り込みが入れてあって裏側には柔らかい材料が貼り合わせてあるものでした。しかし、これがどのような性能の代物なのかは竣工図面の仕様書などをみても特定はできませんでした。どうやら竣工時のものではなく、何年か前に改装された際に張られたもののようでした。

 

解体途中の既存の床組みの様子です

 

よく見ると床板の断面に切り込みが入っています

 

 

新築当時からお住まいの方々にお話を聞いてみると、このマンションが竣工した当時は居間は畳敷きが主流だったようで、実際にはそれほど他の部屋の音は気にならなかったそうです。その後、居間(茶の間)にあたる部分の畳をフローリングにして広く繋がったリビングダイニングスタイルに改装する部屋が増えてきて、管理組合へも音の問題についての苦情・相談が増えてきたそうです。

 

このマンションの管理規約を確認してみると、遮音等級など床からの音についての基準は謳われていませんでした。利便のいい立地なのでオーナーが賃貸に出す、いわゆる分譲貸し賃貸物件になっている部屋も多くなっていました。そうして自らは居住していないオーナーが増えてくると、床の遮音についての議論はそう盛り上がらなくなってしまうようです。

 

その後、工程が延びに延びた末にその部屋は完成し、棟内の皆さんに真っ先にお披露目をしました。真下の部屋のオーナーご夫婦にも来ていただいて、新しい部屋を見ていただくのと合わせてもう一度下の部屋での音の様子をいっしょに確認してみました。あくまで感覚的な評価ではありますが、ビフォーよりは静かになったとのご夫婦一致したご感想で、ホッとしてその日はお別れしたのを憶えています。今から思えば、真下の部屋でビフォー&アフターの音の確認をできるチャンスはとても限られますので、ちゃんと音量測定をしておけば良かったと後悔することしきりです。

 

 

実際に使用した「支持脚に緩衝材の入ったもの(黒い部分)」です

 

 

露呈する「無知」の度合い

 

それからしばらく後に、マンションでの遮音に関する自分の認識が全くもって浅いことに気付かされることになります。

 

具体的には、

 

マンションの床騒音は『軽量床衝撃音』(スプーンなどを落とした音など)と『重量床衝撃音』(ドスンという足音など)がある

一般的に管理規約などで規定されているのは『軽量床衝撃音』のみである

床衝撃音の遮音等級は『推定L等級』が規約などに謳われているが2008年に『ΔL等級』に変更されている

『推定L等級』はメーカーに有利な試験成績が出やすい傾向があり、実際の施工条件に近い試験方法に変更され『ΔL等級』にJIS規格が変更された

『推定L等級』などの表示のある材料を使っても駆体状況や施工方法で実際の性能には違いが大きく出てしまう

 

以上、すべて知りませんでした。

 

 

けれども、幸運にも詳しくエビデンスとともにマンションの遮音について教えてくださる 「師匠」に出会え、教わることができました。「メーカーカタログに書いてあったから」「みんながそうやってるから」という理由だけで「根拠不明」なことをやりかけていた私の可哀想な脳みそを救ってもらったのです。危ないところでした。

 

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