職人目線の講演者。
私は職人上がりの工務店経営者で、建築業界の中では珍しく、実際に工務店の実業を行いながら研修事業や講演活動を行なっていることもあり、工務店や建設会社、リフォーム事業者の安全大会、協力業者会によくお声掛けを頂きます。私の話はいつも現場主体の職人目線であり、現場で働く人達にとってリアルな事例が多く興味を持ってもらいやすいからだと思いますが、とかく安全大会の講話というと夕方から現場作業で疲れた身体を引きずった職人さんが集まってきて眠たくてしょうがないもので、私も昔、ハウスメーカーの下請けをしていた頃、毎回ぐっすりと眠っていたものです。
協力業者さんを集めて会を主催する元請けの社長(担当者)にすれば、眠たい話を聴かせるのは職人さんに申し訳ない気持ちになるでしょうし、聴き手と同じ職人目線の私の話はウケが良いというよりも、自分たちが伝えたい事を理解ある職人が話してくれるというイメージなのかもしれません、
これからはこれまでの延長じゃない。
先日も、とあるリフォーム会社の協力業者会で講演を依頼され、短い時間ですが職人さんたちに向けて熱く語らせてもらいました。通常2時間の講演をするのですが今回はかなり短時間で、随分内容を絞って話しました。私がそこで皆さんにお伝えしたのは、大まか3つだけで、まず1つ目は、IT革命、テクノロジーの圧倒的な進化が建築業界にも波及しており、これからの時代は、今まで通りとは全く違うフェーズに入り、これまでの延長線上にないということです。AIやロボットが建築現場に使われ始めている例をもとに、言われた事をやるだけの、技術だけの職人なんか必要がなくなるという話で、それは職人よりも施工管理者の方が顕著で、これから建築現場で働く実務者はAIや機械にはない、人間ならではの強みを磨く必要があると伝えました。今まで通りでは全てとは言いませんが仕事は機械に取って代わられ、存在価値がなくなりますよ、という事です。
一度の過ちが致命傷となる。
2つ目は情報革命により、インターネットに誰もがいつでも情報発信をすることができ、かつ、あらゆる情報を受け取れるようになったという事で、昨年東京で判決がおりた元工務店社員が顧客を殺害して床下に埋めた衝撃的な事件を引用して、「御社の社員が人殺しをしたらどうします?」との問いかけと共に、一度犯した過ちはインターネット上では絶対に消えることがなく、不祥事を起こした会社は二度と地域で商売ができなくなるという厳しい現実に向き合ってもらいました。また、リフォームを考えているユーザーはそのような事件を知った上で、おっかなびっくりリフォーム会社に問い合わせをしているのを理解して、あらゆるところに細心の注意を払って顧客への対応をする必要性を訴えました。
職人不足は誰のせい?
最後に、建築業界を取り巻く環境のおさらいをして、新築市場は右肩下がり、リフォーム市場は内訳の増減はありながらもあまり大きく増減しない近年のデータを示すとともに、市場の縮小よりも圧倒的な速度で職人不足が広がる現実に目を向けてもらい、「現在の職人不足が起こったのは一体誰のせいか?」と問いかけました。会場の反応は水を打ったように静まりかえりましたが、私が「その答えは私です。私が職人の一人として若者たちに大工になりたいと思ってもらえるような働き方をできていないのがその原因です、すみませんでした。」と申し上げると食い入るような真剣な眼差しで私の言葉に皆さん耳を傾けてくださいました。
大事なのは責任の所在よりもこれからのこと。
第二部の懇親会の会場で乾杯を終えた後、隣におられた防水工事会社の社長は、「高橋さんの言う通りです、職人がいないのは私の責任です。」と、男らしく言ってくださいました。今の職人不足を生み出した責任の所在はともかく、今後のことを考えたとき、今、現場で働いている職人たちが生き生きとそして安心して働き、豊かな暮らしを実現していなければ若者はやっぱり建築業界には寄り付きません。社会保険や厚生年金等の他業種では当たり前に付加されている社会保障を担保するとともに、もっと稼げる職種に建築職人はならなければなりません。
職人が価値を増す方法。
懇親会の席でもずいぶん熱く語りましたが、建築業界に「相場」というものがある以上、職人の所得を上げるには今のままの職人の働き方では限界があり、決して満足な所得を得られるようにはなりません。職人自身が「自助の精神」に目覚め、働き方を見直し、言われたことを言われた通り、図面に描かれたままに行うだけではなく、もっと大きな付加価値を現場で生み出すしか方法はありません。元請け、下請けにかかわらず職人がその仕事を認められ、圧倒的な顧客満足を得ることが出来れば指名を受けて仕事を依頼されるようになり、世の中の通り値とは別の指名料を含めた高単価で受注できるようになる、というのが私の持論です。要するに、ビジネスは集客力を持つものが大きな影響力を持つ原則から、職人でも質の高い集客を出来る力を持てばもっと稼げるようになるというのは非常に分かりやすい理屈だと思います。ただ、顧客の期待値を大きく超えるには技術と知識の他に目的意識と高いコミュニケーションスキルが必要で、この部分を鍛える教育を受けることが不可避だと思っています。
それ、俺だよ、俺。
そんないつもの持論を展開しながら、脳裏をよぎったのは新春か年末のTVのお笑い番組で見かけたコントです。それは、女流芸人の友近さんとハリセンボンの春菜さんがコラボユニットを組んだコントで、意地っ張りで自己顕示欲が強いキャラの二人が、露天商?の場所の取り合いを「俺が先にここで商売を始めた」とお互い主張を始めるのを皮切りに、最後は「世界を作ったのは俺だよ」というくらいまで言い合いをエスカレートするというたわいもないコントです。しかし、「俺だよ」という言いっぷりが非常に小気味よく、(俺だよと言ったからといって何ら責任を取るわけではありませんが、)もっと私達も声を大にして「俺だよ」というべきではないかと思ったのです。特に、上述の「職人不足をひき起こしたのは私です。」という意識を全ての職人は持ってもらいたいと思うし、その責任を引き受けるべく、今の働き方を見直してもらいたいと思います。以下のYouTubeの動画、一度見てみて下さい。(笑)