近年、リノベーション市場の開拓に向けて、各社様々な取り組みが行われています。今回、取り上げるYKK APの「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」は、1メーカー単独で進行するのではなく、地域の各工務店、住宅会社との協同プロジェクトというかたちを取りながら展開する点が大きな特徴で年に4プロジェクトのペースで着実に全国各地に広がっています。
まずリノベーションを取りまく背景を見ていきましょう。(筆者作成)
上記の通り、市場規模、需要が大きく、主な競合企業は数社に限られ、経営資源が適合する会社にとって、戸建性能向上リノベーション事業は、今後の新築市場の縮小を見据えた自社のレジリエンス強化に向けて、最適なビジネス領域の一つと言えます。
YKK AP「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」の特徴
・「断熱、耐震を軸とした性能向上を社会に発信、社会課題解決にも貢献したい」という思い
・基本、HEAT20 G2グレードレベル、耐震等級3相当を基準とする
・コラボした地域工務店、住宅会社がリノベーション物件を確保し、YKK APが製品(フレームⅡ、APWシリーズ)、各種診断、PR活動等サポート
・2021年10月「性能向上リノベの会」が発足し、工務店、住宅会社向け支援メニューを拡充
<YKK AP「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」一覧>
※参考:YKK AP公式ホームページ等
2017年に東京「代沢(世田谷)の家」から始動し、これまでに、「鎌倉の家」、「PROT富山の家」、鳥取「立川の家」、熊本「楡木の家」、「for Long名古屋の家」、静岡「富士の家」、香川「丸亀の家」、長野「小諸の家」、広島「三入の家」、京都「醍醐の家」、福岡「橋本の家」、兵庫「六甲の家」、「北海道の家」、神奈川「広がる屋根」、以上のプロジェクトが実施されました。さらに福島の「霊山の家」(今夏、完工見込み)、その他の各地で今後も続いていきます。築年数はほぼ30年後半から50年までの間ですが、中には「醍醐の家」のように築113年という古民家も含まれます。
※戸建性能向上リノベーション実証プロジェクトの一例:静岡「富士の家」左は施工中、右は完成後(上部構造評点0.35→1.68へ、Ua値1.81→0.44へ性能向上)
私がマーケティング支援させていただいたり、視察に伺ったりしたプロジェクトが複数ありますが、最大公約数的な性能向上ではなく、目指すべき高性能の基準を設定し、定量データを重視する取り組みは一切ブレることなく継続されている点、一貫した企業姿勢を感じます。
現状、コラボする会社は不動産系と建築系があり、いずれも性能向上は基本としながらも前者はいかに、不動産市場において販売価格が受け入れられるか、後者はいかにリノベーション工事を受注できるかという2つの志向に分かれる印象です。参画企業は既に200棟ほど実績を持つリノベーション会社から、今回の実証プロジェクトを通じて、1棟目で設計、施工しながら経験を積み、2棟目以降は調整し最適解を探るというスタンスの会社まで、建築リテラシーにおいては差がありそうです。
「持ち家のリノベ」「中古を買ってリノベ」「リノベ済み住宅を購入」3タイプのリノベーション
「リノベのほうが安いから」ではなく「家を残したいから」という持ち家の性能向上リノベーションはプライスレスであり、事業化がイメージしやすいですが「中古+リノベ」や「リノベ済み住宅購入」は新築との比較になりがちで、性能向上のコストバランスがカギになります。新築と比べて、7掛から8掛の費用の一般的な性能向上リノベ-ションに、さらに+300万円(HEAT20 G2グレード相当)が想定され、コスト調整含め動向を注視したいと思います。「中古を買ってリノベーションすることは持続可能性という観点で正しい選択」「壊すのではなく活かし、昭和のディテールとエクセレント工務店の設計力、技術力の融合こそ、リノベーション」といった価値観が浸透するには継続した日々の発信活動が不可欠だと考えています。
今後も、YKK APとコラボする会社を後方支援するかたちが複数進行しており、期待がふくらみます。「リノベーションが増えること=SDGs」という共通の価値観で、メーカー、代理店、地域工務店(住宅会社)、各コンサル会社、IT支援会社など業界全体でリノベーションを喚起していく必要があり、私も一隅を照らす思いで励んで参ります。
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<関連動画>
【YKK AP戸建性能向上リノベーションとは】断熱、耐震+開口部(窓)
https://www.youtube.com/watch?v=TCOuJpSjmNc