【第10回】「設計性能時代」の家づくり

2022/02/0114:27326人が見ました

10回「設計性能時代」の家づくり

  Livearthの大橋利紀です。今回のテーマは性能と設計についての考え方です。前回(【第9回】上位16%に響く経営論)はスモールエクセレント工務店を目指すための基本的な3つの問いを説明しました。今回はその先にある少し具体的なテーマとなります。

 さて現在は「設計性能時代」と呼べると思います。「設計性能時代」とはなんでしょうか? 私がそう考えるのは、なぜ私達が設計をするのか?をあらためて整理する必要があります。まずその理由から解説していきたいと思います。

 

■何のための計算・シミュレーションするのか?

私達設計者は、耐震性や温熱性能をはじめとする多種多様な計算やシミュレーションを日々行っております。では、なぜ計算やシミュレーションをしているのでしょうか?

 法律で義務づけられたものもあれば、個人的な興味で行っているもの、申請で使用するので仕方なく行っているもの、新たな仕事を獲得するためなど様々です。

この目的を考える場合、「設計者」「施主」「社会的な意味」の3つの視点が存在します。

それぞれの視点により計算やシミュレーションする意味が異なりますが、3つの視点が重なる部分が説得力を持つモノになります。それは、「性能を担保する」というものです。つまり、計算やシミュレーションを行う本来の目的は、申請のためでも仕事をとるためでも、個人的な興味でもなく、「設計する建物の性能を責任もって担保する」という一点にあると考えます。

 

心地よさを見える化する

 車を購入する場合、少なからず燃費など基本スペックと金額を確認するはずです。しかし、車よりもはるかに高額な家を購入する場合、スペックが表示されている家はまだまだ少ないという印象があります。耐震等級や断熱等級、UA値などが表示されている物件も少しずつ目にする様にはなってきていますが、全体からすれば僅かです。

 このように共通の物差しで測れない状況ですので「○○工法なので地震に強い」とか「断熱材が○○なので暖かい」など曖昧で偏りのある尺度や判断材料で決めざるを得ない状況があり、生活者の負担になっています。

 自分の住む家がどのようなスペックなのかを分からずに購入するというのは、購入者にとって良い状態ではないことは明らかですが、この状態は住宅の供給者や設計者にとっても良い状態ではありません。お引渡し後の住み心地の認識のズレ(暑い寒い、維持管理、耐久性、地震の被害など)が発生し、強いてはクレームにつながる可能性もあるからです。

 弊社では、Livearthリヴアースの住まいづくりブランド設立の当初より、「心地よさを見える化する」というコンセプトを表示して住宅の基本性能に関して定量的に表示しお客様との共有化を図ってきました。

 

品確法と長期優良住宅

 1999年『住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下:品確法)』が施行されました。この法律は3つの柱からなり、「10年間の瑕疵担保」「住宅性能表示制度」「紛争処理体制」になります。これは、1995年の阪神・淡路大震災による多大なる住宅の被害や当時の欠陥住宅の問題などが契機となり、「住宅に求められる基本性能の基準化」「基本性能の担保」と「担保しなかった場合の対処」というポイントで、社会的な要求に応えるという意義があったと認識しています。この『品確法』の基準をもとに、「住宅性能表示制度」「長期優良住宅制度(新築・既存)」などが整備されました。長期優良住宅の認定件数は、年間1011万戸と近年横ばいで新築住宅の着工棟数における割合も1020%程度と必ずしも高いとは言えない状態です。

 

 弊社Livearthリヴアースでは、2009年の長期優良住宅制度のスタート当初より住宅の性能表示化を積極的に進めており、2014年以降は新築住宅全棟の性能表示化と長期優良住宅取得を行っております。長期優良住宅制度のスタート当初は構造計算のソフトもありませんでしたので、手計算と自らプログラムしたエクセルを使用して各物件の検証を行っておりました。しかし現在は多種多様な計算プログラムが提供されており、当時に比べれば容易に計算や検討を行えるようになっています。

 

■基本性能の確保

 住宅において、基本性能の確保は、住宅提供者としても義務である考えます。弊社Livearthでいう基本性能を紹介すると、以下6つの性能のことをいいます。

    耐震性能、

    温熱・省エネルギー性能(冬の性能+夏の性能)、

    劣化対策、

    維持管理性能、

    バリアフリー性(ユニバーサルデザイン)

    火災時の安全性

 

 これらの内容は住宅性能評価制度で詳細に評価方法が決められており、その評価方法をベースにして最新の知見をプラスアルファの余力として設定しています。弊社ではこれらの6つの基本性能を高いレベルで設定し、これ以下の性能は提供しないという立ち位置で住まいを提供しています。この基本性能の確保は、すべてにおいて優先されるべき内容で、住まいづくりベースになる内容ということを明確にしています。もちろん意匠やデザイン的な内容も最重要事項として扱っていますが、基本性能を犠牲にする選択肢はありません。

 

設計性能時代

これまでは住宅業界は、「経験や勘」のみで住まいを提供してきました。もちろん弊社も職人さん達の受け継いできた「経験や勘」も大切にしている部分もありますが、大地震が起こる度に伝統木造建築が倒壊してきたのも事実です。今後は、「経験や勘」の前に、計算(構造計算、温熱計算)やシミュレーション、実験などによる「工学的知見」に基づいた設計があり、その上で「経験や勘」で補完する様な形が良いと考えます。

現在は、住宅供給者・設計者自らが「目標とする性能」を設定し、施主と共有する時代である「設計性能時代」がすでに到来しています。ここに対応していくことが基本性能を定量的に確保することであり、根拠のある家を提供することにつながります。先の記述の通り各性能を定量的に計算・検討することは少し前に比べれば比較的容易になっています。各要素技術の知識を深め、適切に設計ツールを使いこなすことで実現可能な内容です。

また、「お客様との共有化」という視点も忘れてはいけない視点です。専門知識のある人だけがわかる数値や言葉だけではなく、普通の方がわかる言葉や表現方法、ビジュアルが必要になります。

各種要素技術の詳細については、次回以降に解説していきたいと思います。

 

 

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