【連載第9回】上位16%に響く経営論

2021/12/2112:40548人が見ました

【第9回】上位16%に響く経営論

 

 Livearthの大橋利紀です。今回のテーマはスモールエクセレント工務店を目指すための基本的な問いと、スモールエクセレントというポジションについて、そして必要なことを解説していきます。これまで私がお伝えしてきたことの簡単なまとめにもなっていると思います。

 地域で存在感を発揮していきたいという想いをもっている工務店経営者の皆さんにぜひ確認していただきたいです。

 

 ■経営者への3つの問い

私たち経営する上で、重要な3つの問いがあります。

 ①自社の存在意義

 ②事業対象(範囲)の設定

 ③会社の寿命の設定

 この3点です。

 

 最初に,

 ①「自社の存在意義」は、企業の存在理由として、社会に対してどのような価値を提供できるか?という問いになります。

 ②「事業対象(範囲)の設定」は、企業の価値をどの地域で、誰に、どのぐらい提供するか?という問いになります。

 ③「会社の寿命の設定」は、いつまで事業をつづけるのか?という問いになります。(15年?30年?50年?100年?)

 

 この3つの問いに対して、どのように向かうか。それで企業としての未来は確実に変化します。

  

■大企業の論理とスモールエクセレントの論理

 これら3つの問いに答えるヒントとして、大企業との比較があります。スモールエクセレント工務店は、大企業とは基本的な論理が違うことを確認しましょう。

 

【大企業の論理】

「事業は成長しなければならない」

 上場することが「正」であり、より多くの投資を集めて物理的拡大をし、収益性と成長率を求めます。当然、出資者である株主の利益を優先されますので、短期利益を求められます。

 

【スモールエクセレントの論理】

「成長の規模と速度に有意な制限を持たせている」

 営利的な目的に加え、非営営利的な優先事項をもっている。

 例えば、弊社で言えば「耐震性能の低い家は建てない」や「環境負荷の過大な家は建てない」など、「Livearthリヴアースという哲学に則った建物以外は建てない」ということがそれにあたります。

 また、スモールと付いていますが、ただ単に小さいとは意味が違います。特定分野で優れた存在であり、ビジネスを通じて、地域貢献など経営者の生き方に結び付く優れた道を持ち、本物らしさや高い品質、創造性が常にある状態です。

 

■マーケティング と コモディティ化

事業の物理的な拡大を「正」とする考え方は、あらゆる物事の発想に結び付いているため変えるのが難しい部分です。例えばマーケティング。これについてもスモールエクセレント工務店では、発想の転換が必要です。

これまで正しいと教わってきたこと(マーケティング)をやればやるほど、コモディティ化するという現象が起こります。真面目に正確にマーケティングを行うほど情報は皆同じになるため、競合と商品が同じになるということです。(例:日本のガラケーやかつての温泉町がすべて同じサービスを提供し産業全体が衰退した。)

母体が大きい(固定費が大きい)と、ある程度の数(売り上げ)を追う必要が出てくる。そうすると大衆のボリュームゾーンをターゲットにする必要があり、常にマーケティングを要します。マーケティング(潜在的+顕在的な市場のニーズの調査)を各社が真面目に丁寧に行えば行うほど、結果は近づき同じような商品やサービスを提供することになります。同じ様な価値のものを比較する場合、価格競争へと進みます。価格競争へ進んだ場合、大量に供給できる資本の大きい会社が勝つことは明瞭ということです。

 

安いということは悪いことではありません、多くの人が望むものをより安くできるということは社会への貢献にもなります。しかし多くの場合、以下の3つの持続可能性が欠如しています。「住宅の長期利用」「社会の持続可能性」「地球の持続可能性」という視点です。

 

 ①「住宅の長期利用」:新建材大量利用の短命建築、長期高額メンテナンスを前提とした建築

 ②「社会の持続可能性」:職人を買いたたく習慣化、地域で流通しない材料

 ③「地球の持続可能性」:エネルギーを大量に消費し多量の太陽光を搭載しチャラにする、「エネルギー大量型ゼロエネルギー住宅」、短命建築の繰り返すスクラップアンドビルド

 

このような「今だけ、金だけ、自分だけ」の習慣から「未来の、みんなの共有価値(地球環境や資源、地域の持続など)にために」への転換が必要ではないでしょうか?

 

 スモールエクセレント化を目指す場合、これらの問題に真正面から向き合う必要があります。

 

■スモールエクセレント工務店が目指すもの

 スモールエクセレント工務店が目指すものは、その事業が生み出す商品(住宅)に加えて、価値(=社会貢献)を大切にすることで、売り上げを上げることのみが目的ではありません。ですので、「今年の目標は、何億円の売り上げです」ということにはなりません。

 事業が実現するべき目的である「価値」を、長期的に求めていくことが重要ということです。

「顧客との深い心理的結びつき」を持ち、価格では評価出来ない価値を持ち、ぶれない継続的な「価値」の創造と提供が「長期利益」をもたらします。企業の目的を達成することで、結果として売り上げがついてくるということです。

 そのような経営理念で動き、事業を行っていることを自身でも、社内でも確認し共有しておかなければいけません。

 

■スモールエクセレント企業のポジション

 スタンフォード大学のロジャーズ教授の『イノベーション普及学』では、ある商品に対する「時間の経過」と「購入者数」の相関グラフによると、消費行動は3つのグループに分けられると説明しています。

①イノベーター(冒険心にあふれ新しい情報を採用する人)とアーリーアダプター(流行に敏感で自ら情報を収集する人)の少数派16

②アーリーマジョリティ(比較的慎重な人)とレイトマジョリティ(比較的懐疑的でない人でみんなが使っているから取り入れる人)の多数派68

③ラガード(もっとも保守的な人で世の中の流れに関心が薄い人)の少数派16

 

①のイノベーターとアーリーアダプターの層は、時代の変化に敏感な層で社会的な課題にも意識を持っている傾向があります。スモールエクセレント工務店が目指す市場はこの層になります。そのため、いずれかの分野において先駆的である必要があります。

②のアーリーマジョリティとレイトマジョリティの層は、流行に左右される層で最も社会に影響を与える多数の層となります。ある程度の会社規模が必要とされます。また必ずしも特定分野での先駆性は必要ではありません。

 

 

■スモールエクセレント工務店として、必要な3つのこと

これらを踏まえた上で、あらためてスモールエクセレント工務店として必要なことをまとめると、以下の3つのことが確認できると思います。

 ① 存在する社会課題について、「時代の先端での考察」と「実践」が必要とされます。まだ顕在化していない社会的な課題を発見し、その課題に対して新たな試みの実践により解決を図ることが求められます。

 

② 社会を変えていく契機を与える役割を担う必要があります。それは、「時代の変化に敏感な一部の層であるイノベーターとアーリーアダブターの上位16%の層(この層は所得が高い傾向にある)」に向けて働きかける役割です。

さらにこの層の動向は、一定の条件がそろうと、いずれその活動が多数派の一般層(マジョリティ)へと広がっていくことになります。例えば住宅の場合は、専門的な要素技術の利用として、高耐久、耐震性、断熱性、省エネルギー性、パッシブデザインなどが挙げられますが、これらは一定の条件がそろえば、いずれマジョリティ化し、一般大衆へと普及します。

マス市場への対応はある程度規模の大きい企業が行うことになるでしょう。マジョリティ化するところまで進むと、この分野でのスモールエクセレント企業の役割は終わることになります。よって、このポジションで役割を担い続けるためには、常に新たな社会課題への対応が求められることになります。

 

「普遍的な価値」の提供と、「独自の物語」を持つことが必要です。時を経ても、変わらない価値(数値では表せない価値)を提供することが求められます。特別な位置づけとなる注文住宅の設計をするための価値を提供出来ることとつながります。

 

「③」の部分が最も重要で、スモールエクセレント工務店となるキモの部分となります。

この部分は、【連載第4回】『物語』としての工務店を生きる。「競争」から「共走」の世界へ <企業哲学③>で語っていますので、一読頂ければと思います。

 

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