コロナ禍のレガシー
コロナ禍が続き不自由になった事が何かと増えました。一方で便利になった事もあります。そのひとつがオンライン化です。
地方に住んでいますと、見たいアーティストのライブや展覧会などは開催都市が限られていてまず巡回して来ません。しかし、最近ではリアル開催が難しくなって、東京・大阪などに限られていた貴重なライブや専門的な勉強会がオンラインで配信されるようになりました。
これは、ありがたい。これでまたひとつ、ローカルエリアの物理的ハンディが取り除かれました。やむを得ず始めたオンライン配信も、やってみれば会場費用などの経費は抑えられる一方で参加者が増えることによって意外と収益性もいいとの事、コロナ禍が落ち着いた後も定着していくものと思われます。勉強会では、録画が提供される場合は日時をずらして勉強したり繰り返し見て復習したりできます。また、後日質問をしても回答してもらえるという運営スタイルのものもあり、受講者からは大変好評のようです。きちんと学び身につけるという観点からは、リアル開催よりも価値が高いのではないかとさえ思います。
予め決められた日時に特定の場所へ定期的に通って学ぶスタイルはやはり厳しい。鹿児島在住の身としては率直にそう思っていました。今の大学生はリアルで授業を受けられずに寂しそうですが、遠隔地にいてもロケーションフリーで学べる場はこの国を変える可能性を拡げてくれるはずです。小さな国土とは言え、地方格差は少子化の昨今ではさらに大きなものがあると感じるからです。
そういう遠隔学習の機会を得て、建築に係る専門分野を学ぶプログラムに自宅からリモート参加しました。その日のテーマはシロアリ防除・木材の劣化についてでした。何れも「少しばかり実務として分かっている」と思っていた分野でしたが「参加してよかった」と思えることが多くありました。知っているつもりが中途半端だったり、とっくに古くなっている知識だったりしたことが色々あったからです。
鹿児島では自宅を含めベイト剤 ※ による防除を採用していたため、安心してしまって「その後の学びをサボっていたかもしれない」と思いました。振り返ってみると、ベイト剤の供給メーカーからの情報に頼りっきりで、明らかに情報として偏っていました。
※ ベイト剤:有効成分に虫が好む餌を配合し、摂食させて殺虫する製剤。人体に影響の少ない薬剤使用がしやすく作業が簡便、薬剤の使用料・飛散・流出が少ないので環境汚染リスクも抑えやすいという特徴がある。
自分の家はどうしよう
シロアリ防除については、自宅を建築するまで一般住宅での薬剤使用に大きな恐れと関心を持っていました。「人体に有害」とされている薬剤を建築基準法で使用推奨しているという事実は、グレーな矛盾※を続けていました。いざ、家族と住む家を自分が建てるとなった時に「有害な薬剤を使わずにシロアリに食べられにくい家を建てることはできないものか?」と色々な本で勉強しました。
※グレーな矛盾: 建築基準法施行令第49条第2項で「構造耐力上主要な部分である柱、筋かい及び土台のうち、地面から一メートル以内の部分には、有効な防腐措置を講ずるとともに、必要に応じて、しろありその他の虫による害を防ぐための措置を講じなければならない」とされています。一方、健康への配慮から使用薬剤の効果持続期間は短くなってきていますが、住みながらの実際の再処理は容易ではありません。
2000年に鹿児島に移住して最初に住もうとした家は、薬剤が衰えていそうなすごく古い年代の物件をあえて選んでいました。その頃は近年まで使用されていた薬剤の毒性が強く、健康被害も多く報告されていたからです。しかし、その家は申込みしていたのに家主さんから「身内が住むことになったので無かった事にしてほしい」との連絡があり、引っ越し直前になって泣く泣く別の物件探しをするハメになりました。
↑鹿児島への引っ越し前にシンケンの皆さんに送ったハガキ(○印が貸してもらえるはずだった古い家)
↑鹿児島へ引っ越した後に大阪の知人に送ったハガキ(○印が条件付きで貸してもらえた新しい家)
その後、シンケンの先輩からの紹介もあって、自宅用として注文住宅で建てたばかりの新しい家を貸してもらえることになりました。オーナーは教員で新築直後に離島勤務となって住めなくなってしまったとの事で、鹿児島県本土に帰ってきた際は私たちが退去するという条件つきでした。通常、教員の方の離島勤務は2年から5年という期間です。鹿児島に移って2〜3年のうちにシンケンの家を建てて住み始めるつもりでしたから、私にとってその条件はノープロブレムでした。鹿児島への引越しまで時間のないところでしたから、それはとにかく助かるお話でした。自分が住むために建てた家なら…と気になっていた「薬剤」についてもなんとなく「大丈夫かな」という気になっていました。
そうして、教員であるオーナーから貸してもらえた新しい住宅に入居することになりました。しかし、引っ越し早々大騒ぎになりました。その家は2階リビングの4LDKで、1階に和室の続き間が2部屋ありました。当時薬剤のことを色々勉強していたので、畳をめくってみたところどっさり白い粉が敷き詰めてありました。不動産屋さんに問い合わせてみたところ「畳の防虫剤じゃないですか?」という返答で、慌てて掃除機で吸い取って掃除機ごと捨てました。引っ越し前から子供たちに軽いアトピー症状があったので、そういうものがとても気になっていたのです。
2階リビングには天井に折りたたみ式の格納ハシゴが付いていました。引っ越したのは夏場でしたから、冬用のものや段ボール箱などをとりあえず置くのちょうどよかったのです。さっそくハシゴを下ろして上がってみると、即目が痛くて開けられなくなりました。涙がポロポロ出てきて止まりません。あの感じ、凄まじいホルマリン濃度だったと思います。登りたくて後ろをついて来ていた子供たちを諭して屋根裏探検はあきらめさせました。
そういった事情でその時、ごく個人的に一般的な新築住宅の危険度を垣間見たのでした。住宅の仕事をなりわいにしている親が「自分の住まいで子供に健康被害」など考えたくない事でした。元々、居心地がよく健康的に暮らせると確信し「シンケンの家に住みたい!」と鹿児島に移り住んだわけですが「これは一刻も早く実現しないとあかん…」と、さらにお尻に火がついた出来事でした。
遠隔学習で学んだこと
すっかり脱線してしまいましたが、今回の遠隔学習で学んだことは、以下のようなことでした。
①防蟻に用いることのできる薬剤の毒性は年代とともに低下、分解速度は速く蒸気圧(揮発性)は低くなってきている
→最新の防蟻用の薬剤は5年程度で分解して環境に負荷をかけない設計になってきている
→しかしながら、その分有効に作用させるための処理方法の選択は難しくなっている
→全ての業者がそういった薬剤を使っている訳ではなく、有効な処理方法について不勉強な人も多い
②薬剤に頼らずにシロアリの侵入を防ぐ家のつくり(ディティール)はある
→シロアリの種類と繁殖地域は温暖化や外来種の定着により拡大しており、対策が複雑化してきている
→シロアリにはそれぞれの習性による侵入パターンがあり、その習性を理解したディティールを採用する事でかなりリスクを軽減できる
→何事も100%はあり得ないので、日常的に点検できるようにしておくことが大切であるが実践されていない
③「人に害が及びにくい」≠「人に対して無害」
→いくら低毒性、分解が早いといっても毒であることは変わりない
→揮発性を抑えたりして人との接触がしにくいよう工夫されてはいるが、何らかの要因で薬剤と接触してしまうと当然有害である
→5年で分解される薬剤使用で10年保証は客観的根拠がない(法律と安全性の矛盾が常態化している)
シロアリ防除の専門家は全国にたくさんいらっしゃると思うのですが、我々建築サイドの者にシロアリの侵入しづらいつくりを指導できる方は少ないと思います。講師の方は、時間の経過の末、後々どのような理由でどのようになるのかをエビデンスと共に理路整然と話されていました。
我々住まいの『つくり手』もお客様に対してこのようなスタンスで仕事をしたいものです。
今回の講師の方の実践的でとても詳しいサイトをご紹介しておきます。ご興味のある方は、こちらで勉強なさって下さい↓
阪神ターマイトラボ
社長は、これまで学んだ知識をアップデートしていますか?また、若いときにとことん突き詰めた事にも「疑いの目」を注いでいますか?
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