暑い寒いの『モノサシ』1 から続く
「放射温度計」とのおつきあい
空気の温度を測る温度計とは別に、物の表面温度を測れる温度計があります。
一般に「放射温度計」といって非接触でいろいろな物の表面温度を確認することができます。鹿児島に来てからは太陽熱で床暖房を行う仕様のモデルハウスで接客していました。わかりやすい接客のために、床の表面温度をリアルタイムに手早くお見せできるツールとして20年ほど前からお世話になっていました。
放射温度計の原理は、物体から放射された赤外線をレンズで検出素子に集めます。 検出素子は物体から放出される赤外線を吸収し、それによって暖められると温度に応じた電気信号を出します。 これに放射率補正を行って温度を表示する仕組みになっています。
『エコハウス』について関心のある方は、 をご覧ください。
住まいでの様々な環境への負荷は、電気やガスなどの使用エネルギー量で計れるかもしれません。一方で「体感的なものを客観的に捉えたい」と考え、より興味を持っているのはそれぞれの家での「結果」としての環境データです。具体的には、住まいの中での実際の温熱環境(気温・湿度・気流など)の見える化です。人の感覚や感じ方には幅や個性がありますので、共通尺度として数字で把握しないと、なかなか認識が一致しないものです。
実はつい最近知ったことですが、この「放射率」というものは測定する対象物によって違うのです。ちょっとむずかしいですが、測定対象物が放射する実際の熱放射エネルギー量と、同じ温度の完全放射体(黒体)の熱放射エネルギー量の比を放射率と呼ぶのだそうです。
放射温度計では完全放射体(黒体)の放射率を1.0として校正されており、実際の物体測定では放射率を予め設定し、それによって補正する必要があるのです。 完全放射体(黒体)はエネルギーを透過または反射しませんが、実際にはほとんどの物体は非黒体でエネルギーを透過または反射し、そのバランスは多様です。これらの関係性は「放射率+反射率+透過率=1.0」となるのだそうです。
これまで長らくお世話になっていた「放射温度計」は、比較的安価なものでした。補正する放射率の変更機能などはなく、なんでも一律の放射率補正がなされていたものと思われます。ということは、測定する対象物によって大きな誤差が発生していたはずです。
仕事で使用する計測機器の性能は、ちゃんと確認して選択しないといけません。精度を欠いた機器を使うことで諸々の実作業が無駄になるだけではなく、大切な判断を間違えてしまったり、結果として社長が恥をかいたりする事にもなりかねません。くれぐれもお気をつけ下さい。
若かりし頃の無知な私は、取扱説明書も読まずに安い測定機器をじゃんじゃん使っていましたが、測定データの信頼性は全然であった可能性大です(汗)いちおう理数系学部出身の者としては誠にお恥ずかしい話ではあります。しかし、ここは遅ればせながらですが気づけただけでも良しとしたいと思います。
そして、測定作業にはもう一つ問題点がありました。一度にたくさんの箇所を測定することが多かったので、そもそもどこを計ったのか記録しておかないとまとめる際にわけが分からなくなってしまうのでした。また、測定データをまとめる際には同時間の室温も参考値として必要でした。
そのために「放射温度計」で測定する際には、測点毎に「測定している状態の写真」を撮影しながら記録していきました。それに同時間の室温に加え湿度なども合わせて記録していきました。が、事務所に帰ってデータをまとめるのが億劫で、ついついたまってしまうのです。そして、ついにはまとめることなく放置されるデータが積み上がっていくようなことも経験しました。
↑シンケン時代の「放射温度計」による測定写真
『新兵器』で外部を測る
最近になって『新兵器』を手に入れました。
結構いいお値段がしましたが、諸々の過去のトラウマを一気に解消する性能と仕様をあわせ持つ“一品”を見つけてしまったのです。そのマシンはBOSCH製のプロ用製品で、
①「放射率補正値」の調整機能
②測定時の「気温」・「湿度」の同時測定機能
③測定対象の画像に重ねて「測定日時」はもちろん「表面温度」と上記3指標を同時記録する機能
を搭載しているのでした。
これは、過ぎ去りし営業マン時代に無知のためにしくじったり、必要以上に手間をかけていた事がすべてクリアできるものでした。「こんなのあったんか・・・」というため息とともに、使ってみたい衝動を抑えることが出来なかった訳です。
↑『新兵器』放射温度計 BOSCH GIS1000C
測定事例をご紹介します。
まずは外部に出て行って、日射で熱くなっていそうな場所から。
↑屋根の外装(ガルバリウム鋼板)の表面温度。右上の「%表示」は外気湿度「℃表示」は外気温度
↑屋根の外装(ガルバリウム鋼板)の表面温度。だいぶ塗膜が剥がれて白くなっていましたので、マジックで黒く塗ってみたら(濃い色のまるい部分)10度ぐらい温度が高くなりました!
同じガルバリウム鋼板でも、隣同士で色が違う部分を比べてみると10度も温度が違っていました。これは、屋根材や外壁の色によって日射からもらう熱が、いかに違っているのかを表していると言えます。自宅では、屋根に当たる日射から集熱をして床暖房を行なっていますので、屋根材の塗膜が剥げて白っぽくなっているのは冬場においてはマイナス要因であると思われます。(新築時の屋根材はまっ黒でした)
↑2階デッキの“日なた”部分での表面温度
↑2階デッキの“木陰”部分での表面温度
夏の日中、裸足でデッキに出ていくと「熱っ!」ということがよくありますが、お昼頃のデッキ面は結構な温度になっていることが分かります。いっぽう、木陰の部分は「気温」に近い温度でかなりの差があります。夏休みに海に行ったときのこと。素足で海の家までアイスを買いに行った帰りに、パラソルの陰まで一気に走り駆け込む「あの感じ」を思い出しました。
『新兵器』で内部を測る
今度は、室内の測定事例をご紹介。いちばん暑くなる屋根裏へ。
まずは、屋根裏スペースの勾配天井の室内表面です。自宅の屋根は切妻の形になっていて、ほぼ南北方向にそれぞれ傾斜しています。よって、日射の影響は北側よりも南側屋根面の方がより大きく受けるはずです。
↑屋根裏の勾配天井室内側の表面温度(南側)
↑屋根裏の勾配天井室内側の表面温度(北側)
ソーラーシステムで強制的に空気を動かしてクーリングしているのは南側の屋根部分のみです。しかし、実際の室内表面温度はほぼ同じでした。ソーラーシステムのクーリングが効いているのか、それなりに断熱が効いているのか、南側のほうがずっと熱くなっているのではないかと思っていたので、予想外の結果でした。
続いて、同じく屋根裏スペース北側に設置されているトップライトに行ってみました。トップライト周りは、断熱材やソーラーシステムの恩恵はありませんので、他の勾配天井面に比べると熱の出入りがどうしても激しくなる場所です。このトップライトでは、これまでに様々な断熱対策の実験を重ねてきました。
これまでのトップライトの断熱対策の数々については、知られざる『トップライト断熱列伝』
をご覧ください!
↑トップライト(北側)ガラスの室内側表面温度(やっぱり熱いです)
↑トップライト枠(木製)の室内側表面温度(ガラス面とは全然違います)
↑トップライト(北側)の内側に暑さ対策として取り付けたポリカーボネート(ツインカーボ10mm)の表面温度
↑ポリカ内側に「コピー用紙」を貼り付けて「布シェード」を降ろした時の表面温度
↑布シェード内側に更に「遮熱ポリカ(ツインカーボ10mm)」を取り付けた時の表面温度
なるほど。
様々な実験を重ねていくうちに、トップライトにも色々なものが重ねられてしまいました。今の仕様が「夏の標準装備」になっていますが、表面温度の数字を見て納得しました。
体感温度の計算式には下記のような難しいのがあるそうです↓
しかし、ある温熱環境の勉強会で、
という簡易な計算方法もあるという事を教わりました。これなら簡単に計算してみることができそうです。
【ケース1】自宅の現在の「夏の標準装備(遮熱ポリカまで取付け)」の表面温度の今回測定値34.6℃、室温31.1℃としますと、
体感温度は(31.1+34.6)÷2=32.85(℃)となります。
【ケース2】遮熱ポリカがない時(「普通ポリカ」+「コピー用紙」+「布シェード」)には、表面温度が42.6℃でしたから、
体感温度は(31.1+42.6)÷2=36.85(℃)となります。
また、勉強会では講師の先生が計算された指標で ISO7730(2005)のカテゴリAという基準を満たす値として、夏の天井面と室温差の推奨範囲は4℃未満というレクチャーもありました。ちなみに、これは「20人中19人が不快だとは思わない水準」とのことでした。
【ケース1】の場合、体感温度32.85(℃)- 室温31.1(℃)=1.75(℃)<4(℃)
【ケース2】の場合、体感温度36.85(℃)- 室温31.1(℃)=5.75(℃)>4(℃)
となり、自宅屋根裏のトップライトに遮熱ポリカが加わって、やっとのことで屋根裏の暑さが感覚的に我慢できる水準になった事実と理論値が一致します。この簡易計算、使えそうです。
社長の会社では身の廻りの環境データの計測はされていますか? それは、自らの感覚を再現するための計測になっていますか?
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