谷尻誠さん  間(あいだ)を意識して仕事をする① 「決められたポジションを疑う」

2019/06/2120:23608人が見ました

5月27日に長野県・松本で工務店のネットワークLOCASによるセミナー「LOCASミーティング」が開催され、建築家の谷尻誠さん、お笑い芸人・西野亮廣さん、BETSUDAI 林哲平さん、サンプロ/LOCAS代表 青柳弘昭さんが登壇。約150社の住宅会社が集まった。内容を一部抜粋してお伝えする。


谷尻誠さん(Suppose Design Office 代表)

Profile
SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表取締役。数々の住宅の設計だけでなく幅広く空間をプロデュース。「Onomichi U2」、「草叢BOOKS」、「hotel koe tokyo」など

①決められたポジションを疑う

 中学生の時にバスケットボールを始めたんですが、体格がいい方ではないので、「お前はスリーポイントを練習しろ」と先生に言われるんですね。100本中95本入る位まで練習して、ところが試合でスリーポイント(シュート)を打つと敵の選手に邪魔されて上手くいかないんです。


 その時、スリーポイントラインからシュートを打つというのは、1点多くポイントが取れることであるんだけど、同時に敵にシュートを打つ位置を教えることだと気が付いて。それでラインから1m位離れて練習をして、また95%入るようにして試合で試したら非常に上手くいった。相手がシュートを警戒して、チーム全体がすごく強くなったのです。この経験は、自分の立ち位置とか戦い方というのは、決められた通りやる必要があるのか、言われたものが一番ベストなのか?を、常に問う私の原体験になっています。

下請け時代を経て得た気づき

 バスケの推薦で大学に行く話もあったのですが、友人がきっかけでデザイナーという仕事を知って専門学校に進みました。そこでは遊んでばかりだったのですが、成績は良くて先生には可愛がられた。先生に勧められるまま設計事務所に就職したのですが、そこでは分譲住宅みたいな設計がほとんどでした。土地が出たらラフなプランを載せて確認申請するといった流れで、すごい数をこなしていましたね。


 5年くらいやっているとさすがに飽きてきて、独立しました。ただスタートはほとんど下請けのような仕事。しかも、元請けさんから頼まれるものが自分がいいと思うものと比べて全然良くないので、下請けのくせに「もっとこうしたらいいんじゃないか」というような提案をしていました。すると、元請けさんから使いにくいやつと思われて、そういった仕事もなくなっていってしまいました。ほんとに仕事がなくなってしまったので、学生時代アルバイトしていた焼き鳥屋でまた、週のほとんど働いていたこともあります。


 その時、「はじめて考えるときのように」(はじめて考えるときのように「わかる」ための哲学的道案内)という本に出会って。その本を読んだときに、「“自分で考えること”ができてないな」、「誰かの真似ばかりしている」と気が付いて。


 それにバスケットボールの体験がリンクし、つなぎ合わされて、「自分がこれからどんな仕事をしていくか」を強く考えるようになりました。同時に、自分の価値というものを見直す大切な時期になりました。例えば建築でいえば金閣寺だって、当時は建てるのに反対する人がいたと思います。でも時代が経って評価されている。今はコンプライアンスの問題とか反対する声を取り上げる動きも大きいですが、もっと広い視点で仕事の価値を考えていかないといけないともその時考えました。

「間」を意識して挑戦する

 どうやって自分がこれから評価されていくのかを考えたときに、キーワードとなるのは「間(あいだ)」ということでした。例えば道路があったら、住宅部分は個人のものだけどその間はパブリック。アトリエ事務所と組織的な設計事務所の間ってあるんじゃないかとか。建築家とインテリアデザイナーって職業が区別されているんだけど、その間の職業があるんじゃないかとか。間に当たるような誰も挑んでないような事業の領域を、自分たちの事務所の個性として、これから自分の会社を作っていくということをその頃思いました。


 とにかくいろんなことを考えていたので、「THINK」というトークイベントを、自分たちの事務所の一部を空っぽにして聞き手を自分にして始めました。


 その部屋の背景は決まっていないんですが、会議をすれば会議室になるし、食事をすればレストランになるし、髪を切れば美容院になる。通常、私たちは美容院を始めようとすると鏡は何台いりますかとかのところから始めてしまうんだけど、何もない部屋でも美容院は始めることができるわけで、例えば何をもってして人は空間をギャラリーと呼ぶのか?どの瞬間から美容院になるのか?そういう決まった常識みたいなものに、色んな人を呼んでチャレンジしていくということを始めました。つい最近100回目を迎えたところです。


 どうしてこういうことを始めたかというと、会社の経営者というのは日々夜になると色んな所に出かけて、色んな人に会ってインスパイアされてくる。「お前何でこんなことも分からないんだよ、もっと勉強しないとだめだよ」と上司が言うんですね。


 上司が遊ぶための時間もお金を与えていないことも、個の建築業界の良くある話で、自分のチームのメンバーもインスパイアされてほしいということで、自分が会って素敵な人は会社の皆にも会わせたいので、そういう思いからも始めたという所です。

 ここからは少し、自分がどういう形でプロジェクトを進めているかをお話します。

②関わってきたプロジェクトについて」 へつづく

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