見込客とスタッフの『脳科学』1 ■売れる力とは?

2023/04/1514:39188人が見ました

 社長の2大難題

 

業容拡大中のクライアント企業のU社長と採用の話題になったときのことです。

 

U社長:「1次面接、2次面接と段階を踏んでやってますが、SPIテスト※がいちばん当たってますわ」「その次は部門のリーダーに任せている1次面接ですね」「私がやってる2次面接は確認って感じです」

 

吉岡:「ようやくスタッフの皆さんが育ってきて、U社長もこれからは経営に集中できそうですね」

 

U社長:「セールススタッフが育ってきたのはいいのですけど、どうしてもお客様からのクレームも増えてしまって。私の出番が減りませんわ(笑)」

 

SPIテスト:正確にはSPI総合検査。リクルートマネジメントソリューションズ(旧社名:人事測定研究所→HRR)が提供する適性検査。性格と能力の2領域を測定するもの。

 

 

経営者の「2大難題」として、自分以外の人間である「見込客」や「スタッフ」をどう理解するかという問題があります。住宅事業の場合「見込客」は必ずしもひとりではなく複数の人間の複合体であったりします。また社内外の「スタッフ」も老若男女多岐にわたります。

 

採用時には「面接」や「適正試験」をしたり、入社後も「レポート」を書かせたり、定期的に「面談」をしたりして頑張ってみるものの、いまひとつ掴みづらいのが他人の頭の中です。

 

脳科学の進歩はまだまだ進行中のようです。少し前まで「常識」とされていた「学説」が新しい実験により覆されているそうです。少し前に流行った「右脳」と「左脳」の話なども最新の知見では違ってきているようです。そうして世界の人々の脳の違いや傾向が、部分的にですが徐々に分かってきているようです。

 

自身の子供の頃からの体験や出会ってきた人をあてはめながら、そういった「脳科学」の知見に触れていると、過去の体験がクリアに説明できるような内容に出くわします。その中で、自身でも納得感のあった内容を紹介します。

 

 

↑意外と「SPIテスト」が当たっていたとのことでしたが…「攻略本」もたくさん出ているようです

 

 

学校では教えない「人間」を理解するための知恵①

 

人の行動に関する性質の違いは、遺伝的に決まっている部分があるそうです。同じ民族の中でも違ったタイプが混在していますが、民族によってその構成比率がかなり違っているそうです。

 

別名「幸せホルモン」と呼ばれる、セロトニンという神経伝達物質の話を『睡眠住宅』考で紹介しました。このセロトニンが不足すると、慢性的にストレスを感じやすくなったり、疲労、イライラ、向上心や意欲の低下、不眠といった症状が出るそうです。逆にセロトニンが脳内に増えると、前向きでストレスを感じる状況でも精神的に安定していると言われています。

 

セロトニンの分泌量を左右するのが「セロトニントランスポーター遺伝子」です。この遺伝子にはセロトニンの分泌量の少ない「S型」と、分泌量の多い「L型」の2種類があり、その組み合わせによって、「SS型」「SL型」「LL型」の3つに分かれます。

 

SS型の遺伝子を持っている人は不安を感じやすい人、LL型の遺伝子を持っている人は楽観的な人、SL型はその中間ということになります。不安を感じやすいかどうかは、その人の持つ遺伝子によって生まれつき決まっているようです。

 

調査によれば、日本人の遺伝子はSS型が65%を占めています。SL型は32%、LL型はたった3.2%。アメリカ人は、SS型が19%、SL型が49%、LL型が32%という結果が出ています。

 

セロトニントランスポーター遺伝子に「L型」を持つ人の割合は人種により異なり、アフリカ人>アメリカ人>アジア人です。世界全体を見てもアジア人にL型が少なく、不安を感じやすい傾向があるようです。

 

S型」遺伝子(不安遺伝子)保有は日本人80.25%、中国人75.2%、台湾人70.57%、スペイン人46.75%、アメリカ人44.53%、南アフリカ人27.79%となっています。

 

 

日本人は世界的に見ると強調性が高い傾向にあり「利他的」な行動をとる人が多い民族だそうです。しかし、ある実験※から意外な反面も発見されています。

 

それは「社会性のルールに従わないもの、自分を不当に扱うものは許せない。利益を失ってでも制裁を与えたい」という気持ちが強く働くという性質をあわせ持っているということです。

 

S型」遺伝子(不安遺伝子)を保有する人にその傾向が顕著であった訳です。SNSなどでの「誹謗中傷」「炎上」「自粛警察」などがこういった性質からも説明できます。

 

※ある実験=最後通牒ゲーム:2人のプレイヤーを提案者と応答者に分け提案者は取り分提案権、応答者はそれを受け入れるか拒否する権利を持つゲーム。応答者が提案を拒否した場合、両者ともに1円も得られない。 応答者は何の苦労もなく利益を得られるため0より大きい提案を受け入れるはずであり、提案者は応答者に対して最小限の提案をする。 しかし現実には不公平な分配は拒否されることが多い。

 

 

なぜ、こういった一見マイナスとも取れる性質が強いのでしょうか?それは、生物の中で肉体的には比較的弱者として進化してきた人類が、集団を形成・維持したほうが個としても種としての存続を目指す上でも有利であったからと考えられています。

 

そのために一見「不合理」とも見える選択が取られるのも、人類の「脳」にはその生息環境に応じて「生存」に適した性質が残されてきているからだと考えられています。

 

直近数世代にわたる期間に人類の「生存」環境は急速に変化しました。しかし、「遺伝的性質」は、たかだか数世代ではそう劇的な変化は現れないのだそうです。

 

そういう意味では人の「脳」や行動原理はテクノロジーや生活環境に対して、それほどは進化していないと考えた方がいいのかもしれません。

 

↑色々な環境で生き残った「個」があちらこちらで生きているのです

 

 

社長が学ぶべき傾向と対策

 

そして、セロトニンの生成能力には男女差があり男性は女性に比べて約52%高いそうです。さらに女性の場合は生理周期の影響を受けて不安定になりやすいそうです。そう考えると「見込客」や「スタッフ」が、その時々の社長の感覚と違っていることは当然なのかもしれません。

 

翻訳されて紹介されている海外のマーケティング理論と、自社の見込客の動向との感覚が合ってないなと思うことがよくあります。こういう事も「セロトニントランスポーター遺伝子の民族的傾向の説明」で納得できます。

 

いわゆる「国民性」といったものは科学的にもあるのです。大半の海外での調査は、われわれ日本人とは遺伝的に行動原理の傾向が異なる人々を対象にしたものであるいうことは覚えておかなければなりません。

 

人の行動原理(遺伝子)は、思った以上に個性が分かれているようです。ひとによって「普通」が違うということになります。同じ事象に対する感じ方は人それぞれで同じではなく、遺伝的にも一律ではないのです。

 

 

社長、見込客やスタッフが皆自分と同じ感覚を持っているなどと思ってはいないでしょうね?後天的にはどうにもならない「遺伝的な性質」を知って活かす工夫をされていますか?

 

 

見込客とスタッフの『脳科学』2 へつづく

 

 

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