顧客が被害に遭ったことすら知らなかった工務店

2019/01/0610:27338人が見ました

昨年6月末から7月頭にかけて発生した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)は死者・行方不明者が230人を超える平成で最悪な豪雨災害となりましたが、その前年、平成29年10月には、台風21号が関東地方を直撃し、首都圏でも、川越市で床上浸水241棟、床下浸水231棟の被害が発生しました。鬼怒川が決壊した平成27年9月関東・東北豪雨に比べれば、家が根こそぎ流されるような被害はなく、近くの用水路が氾濫したことで周辺の家屋が浸水するという全国いつ、どこで発生してもおかしくない規模の災害でしたが、この時、工務店における災害対応の重要性を強く感じたので、今回はそのことを振り返ってみたいと思います。

台風が通過して10日ほど経って、最も被害が大きかった川崎市の寺尾地区という場所を取材に訪れると、すでに浸水で使えなくなった家具などの回収は終わっていましたが、多くの家が、壁に浸水の跡が残り、障子の下半分が破り取られていたり、カーテンが外された状態になっていました。車もほとんどありませんでした。近所の方に聞くと、ほとんどの車が浸水で使えなくなったということでした。

何軒か家の中を見させていただくと、床や壁はきれいに水や泥の汚れがふき取られてはいましたが、うっすらと浸水の跡が残っていました。

比較的に古い家で被災された住民の方に、「家に流れ込んだ水はどう処理しましたか?」と聞くと、床や壁についた泥は、雑巾などで何度もふき取ったが、床下については何もしようがないとのことでした。工務店にも相談したそうですが、床をあげて、基礎部などを取り換えるとなると数百万円はかかるかもしれないといわれたということでした。

「その工務店は、現地に来て、調査した上で数百万と言ったのですよね」と聞くと、現場には来ていないというのです。さらに、火災保険には入っていたようですが、今回の浸水被害では、保険の適用条件を満たしていないとのことでした。

一方、別の住民に聞くと、被害を受けてから5日目に施工会社であるハウスメーカー「木造注文住宅S社」から5人程の作業員が来て、水を掻き出すなどの作業をしてくれたとのこと。床を外して水や泥をかき出し、数日間は扇風機で床下に空気を送り続けるようアドバイスをしてもらったそうです。一連の作業については費用を請求されることはなく、乾燥を終えた段階で改めて基礎や壁の状況を見て、必要な工事について提案をしてもらえるということでした。

その後、この話が周辺の家にも広がり、このハウスメーカーに相談する人が増えたようです。

このハウスメーカーの対応が素晴らしくてこの事例を紹介したわけではありません。災害から5日目に現地を訪れたというのも決して迅速な対応とは言えませんが、災害が発生した際、被災者は藁をもつかむ気持ちで支援を求めるということです。その時に、顧客の要望に応えることができた会社とできない会社ではその後に雲泥の差が出てくるはずで、さらに近所のつながりなどを考えると、災害対応1つでその後の受注が大きく変わるほどの影響があってもおかしくないということです。

最初に紹介した人は、「工務店に電話で相談した」と話していました。この工務店は、顧客の家が浸水被害にあったことすら知らなかったのです。その上に、電話で「数百万円はかかるかもしれない」という、あいまいな回答でさらに被災者を不安にさせてしまいました。

別に、嘘を言ったわけではないのでしょうし、実際に修理の方法によっては、数百万円かかるかもしれません。しかし、被災して、生活面などで不安を抱えている状況でこんなあいまいな説明を受けたらどんな気持ちになるでしょう? すぐに床下の水を掻き出して、乾燥させるなど適切な処置をしていたら大した修理も必要にならないはずですが、こんな説明を受け、何もできずに放置しておけば、状況が悪化することは容易に考えられます。

一方のハウスメーカーも5日というのは決して早い時期ではありませんが、住民から依頼をしたわけでもないのに、5人の作業員が現場に来たということは、その地域で顧客が浸水被害にあっているかもしれないという情報を入手し、現場を確認させるということがすでにマニュアル化されていたことが想定されます。

そして、床を上げて、床下の水を書き出すという最低限の応急処置だけをして引き上げていったこともあらかじめ決められていた対応だったのでしょう。

彼らは、営業行為を一切していないのに、その後の相談が一気に増えたわけです。相談の中には大規模なリフォームや改築を相談する顧客が現れるかもしれません。

2週間目に現地を訪れると、不思議なグループを目にしました。シロアリ駆除業者やリフォーム業者がやはり数人のチームとなって地域一帯にチラシの投げ込みを行っていたのです。彼らを非難するわけではありませんが、工務店の立場からすれば、大切な顧客を奪われることになりかねません。

防災や災害対応というと、自社が被災することばかりを考えがちですが、顧客が被災した際の対応がいかに重要かをわかっていただけるかと思います。

では、どう対応すればよかったのでしょう。

それを決めておく計画こそが、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)と呼ばれるものです。

一覧へ戻る