【連載第6回】センスは「スキル×スキル×属人性」で鍛錬する!〈企業哲学⑤〉

2021/02/0518:17706人が見ました

 Livearthリヴアースの大橋利紀です。

 前回の5回では、「属人性の排除(マニュアル化)×属人的な能力(センス)」で強く生き抜くというテーマで弊社の『Liv-gram<リヴグラム>』を通じてお話をさせて頂きました。

 高いスキルは欠かせない部分ですが、最も大切にしている部分は、「属人的な能力=センス」であり、スキルのみに特化して進んで行くと常に他者(他社)と戦い続けることになり、センスに注力していくことで競合のない、他者(他社)との戦いのない共生できる世界が存在しそこを目指していくというお話をさせて頂きました。 

 今回は、弊社Livearthリヴアースが考える「スキル」と「センス」についてより深く理解していただくためのお話をさせて頂きます。

 分解していくことのできるものを「スキル」、分解していくと見えなくなるものを「センス」といいます。

 言うなれば、属人的な部分を排除できない能力のことをセンスと言えるでしょう。

 スキルとセンスについては、楠木建氏が著書「経営センスの論理(新潮社)」にてわかりやすく説いていますので、そちらを参照していただくことをお勧めします。楠木氏の言う「スキルとセンス」という切り口を参照しながら、私なりの視点で考察していきます。

 

→【プロローグ】スモールエクセレント工務店とは?

→【第2回】ブランドとは「個人の主観」からくる哲学である〈企業哲学①〉

【第3回】文明化の終焉と住宅産業〈企業哲学②〉

→【第4回】『物語』としての工務店を生きる。「競争」から「共走」の世界へ <企業哲学③>

→【第5回】「属人性の排除×属人的な能力」で強く生き抜く〈企業哲学④〉>

 

 

■住宅設計におけるスキルとセンス

設計とは、ある理念や哲学にのっとって、様々な要素を合理的に検討し形にしていく作業です。

また、検討要素すべき要素は多岐に渡り、耐震・温熱・維持管理・長寿命・環境問題・空間体験・作業工程・コスト・社会性・収益性・使い勝手などなど上げればキリがありません。

住まいの設計は、複雑な世界の中で、出来るだけ多くの物事にフォーカスをしながら総合的に作り上げることが大切です。この膨大な要素技術の集積体である住宅を設計する上でさまざまなスキルが必要です。

例えば、耐震性を確保する上で必要なスキルの一つに「耐震等級の確保」という能力があります。それを分解していくと「建築基準法をはじめとする関連法規の知識」、「品確法を元にした建物性能評価の知識」となり、さらに分解していくと、「壁量計算」「伏図を検討」「梁せい算定」「床倍率」「各要素の設計荷重」「重心剛心のバランス(偏心率)」「N値計算」「スパン表」などなどとなります。

この様に、スキルは分解して順序立てて習得することが出来、習熟度の違いはあるとはいえ努力すればいつかはゴールに辿り着けるものです。

では、センスはどうかというと、耐震性など定量化出来る内容はセンスとはなりません。複数の要素が絡み合った部分にセンスが活かされます。言うなれば、耐震性などを含む多岐にわたる検討要素をすべて包含した形でプランに落とし込む能力をセンスといいます。

つまり、設計において、手法や要素技術はスキルになります。センスに当たるものは、手法や要素技術の選定にあたるその根底にあるものです。

その根底にあるものには、哲学や思考も大きく関わってきます。

 スキルは定量的で数値化できるもので、誰でも努力すればできる様になり、誰がやっても同じ結果になります。

 しかし、センスは不定量なもので誰がやっても同じ結果にはなりません。

 定量化できるスキルは方法論として途中過程も明瞭化でき他者と共有化を出来ますが、定量化できないセンスは途中過程も個別性が高く共有化には不向きです。

 つまり、スキルは学ぶことができますが、センスは学ぶというよりは磨くものです。では、どのように磨けば良いのでしょうか?

 

■スキル×スキルで、一次元上のフィールドへ

ある要素技術とある要素技術の問題点を両立的に解決すると、視点が一次元上の階層に上がります。例えば、「構造の安定性」という要素と「間取り」という要素を考えます。構造の安定性とは、「軸力(自重)」と「外力(地震と風)」に対してそれぞれ安定性があり耐力として余力がある状態といえます。

 【軸力(自重)でいえば、自重を屋根から梁や柱などさまざまな部材を経由して地盤までの力の流れを設計するということです。また「外力(地震と風)」に対しては、適切な量のバランスの良い耐力壁で外力に対抗し、かつ、建物全体が歪まない様にする水平構面の剛性を確保することです。「間取り」とは、生活の営みをどのように規定するかということです。構造は専門性が高いですが、間取りはある意味では素人の方でも一見、形になってしまいます。好き勝手に部屋を並べていくと、往々にして構造は複雑で不安定なものになってしまいます。

 間取りは、単独で考えるものではなく構造、特に架構(屋根、梁の掛け方)に注力して考えることが大切です。

 また、部屋の機能と架構を対応させることも重要です。架構を複雑にまたぐ様な部屋割りは耐力壁を適切に配置出来ず構造の安定性を得ることは難しいものとなります。】

「構造の安定性」と「間取り」をうまく両立的解決をすると、「優れた意匠性」という副産物を生むこともできます。

優れた意匠性とは、何かを貼り付けたり追加する様なデザインのためのデザインではなく、架構と間取りが対応しそれに対応したシンプルな屋根で覆うことによって実現できます。

つまり、「構造の安定性」と「間取り」をうまく両立的解決をすると、「優れた意匠性」という一次元上の視点が見えてくるということです。こちらは一例ですが、あらゆることに同様のことが言えます。

 一つ一つの要素技術を深く学び理解することを繰り返し、複数の要素を掛け合わせることを何段階にも繰り返すことでスキルをセンスまで昇華することができるかもしません。

 センスを活かす設計とは、積木を下から順番に組み立てて出来上がっていくわけではなく、自らのセンスに基づいて、住宅に関わるあらゆる要素を一気に解く感覚で、多元連立方程式を一気に解く様なことです。

 

■スキルは部分、センスは全体

 センスを考える上でもう一つ大切な視点は、全体像を掴んでいるかどうかが重要です。いくら部分だけを深く追求しても全体像を掴むこいとが出来ないのと同様に、各スキルだけをいくら学んでもセンスになることはありません。

 例えばいくら断熱性能(スキル)を追求しても良い家の条件の一つにしかならず良い家を実現することは出来ません。「良い家とは何か?」の部分がセンスとも言えます。その「良い家」を実現するために、どの様な要素技術(スキル)を利用するか?という順序です。

 このようにセンスとは、全体像を掴んだ上で判断できる能力とも言えます。

 

スキルは左脳、センスは右脳×左脳

「身体性を伴った経験(右脳)とそれを補う言語(左脳)」によって、センスを磨くことが可能です。

例えば現場監督のセンスは座学だけでは習得できません。また経験だけでも根拠が不明瞭です。

つまり経験から得た知識と座学的な勉強と両方を蓄積し磨くことでセンスのある監督ということもあり得ます。

 建築設計や営業も同じ様に、「身体的な経験で得た感覚とそれを補完する知識」によりセンスを磨くことが出来ます。

 

■スキルはコモディティ化、センスは個別化

スキルは、すぐに役立つものですが、センスは必ずしもすぐに役立つとは限りません。しかし、時代のもとめるスキルは常に競合することになりいずれ陳腐化します。

一方、センスは思いがけず目の前に訪れる出来事や機会によって、その人の属人性を活かしてくれるものになります。こうして手に入れたセンスは、競合することはなく陳腐化もしません。

昔から師弟制度がある様に、かつてセンスは師から弟子に受け継がれているものでありました。

このようにセンスは一足飛びに手に入れることはできませんが、時間をかけて蓄積し磨いていくものだからこそ価値があり陳腐化しないのです。 

 

一覧へ戻る