【連載第7回】ファンタジー建築によって劣化する町並み ~場所と素材の必然性~

2021/04/2212:321110人が見ました

■モダニズム・ナショナルスタイル(地域制の排除)から

 ポストモダン(フィクション)、そしてファンタジーへ

 

Livearthリヴアースの大橋利紀です。今回説明するのはスモールエクセレント工務店となるために必要と考える建築の地域性についてです。現代の日本において、住宅の地域性というものは特定地域を除きほとんど意識されないものになっているといっていいでしょう。

 

 さてモダニズム建築は、ギリシャ、ローマ、ゴシック、バロックなどの歴史的建築様式との決別をし、産業革命以降に誕生した鉄・ガラス・コンクリートなどの工業製品を使用した建築で、19世紀末から新しい建築を求めた運動です。歴史的建築様式にはそれぞれの装飾があり、その装飾の排除もモダニズム建築の特徴の一つです。また、機能主義、合理主義という共通言語の中、世界中で理論と建物形態の実験が行われた建築運動でもあります。つまりモダニズム建築とは、世界が機能主義・合理主義の名のもと「地域性を排除した」世界中どこでも成立する建物を目指したものとも言えます。現在の私たちの目にするほとんどの建物は、モダニズム建築で達成した合理性を受け継いで存在しています。

 その後のポストモダン建築は、20世紀中頃〜後半にかけて、近代(モダニズム)からの脱却を掲げた思想運動の影響を受けたもので、日本ではバブルの時期とも重なり、商業建築に多く活用されています。

 建築だけでなく哲学、芸術など広い分野で『ポストモダン』の志向は流行しました。実際の建物は、過去の様式や装飾を過剰表現した商業的表現に留まり、特に日本ではバブルという「熟れすぎた果実」を象徴した建物となり、モダニズム建築の脱却には遠く及ばず一時的な流行の域に留まっています。ポストモダン建築は、過去の様式や装飾、象徴物の強引な引用を行った『フィクション建築』と私は呼んでいます。

 

■現代の建築に思想はあるか?

 

「モダニズム」は過去の様式主義を批判する機能主義・合資主義、「ポストモダニズム」はモダニズムの批判を進める脱近代主義をもとに進められたものです。では、現代の建築はどうか? いくつもの(空想の)物語が乱立する状態とも言えるでしょう。表層の表現や部分的な模倣(劣化コピー)を行い、拠り所のない、主義や哲学のない建物が増えている状況です。

 かつて流行ったプロバンズ風の建物や現在でも○○風などと呼ばれる建物がこれに当たります。(個別の建物や内容を批判する意図は一切ありません)

 また、アニメの世界から出来ていたような建物も出現し、現代のこれらの建物を総称して、私は『ファンタジー建築』と呼んでいます。

 ファンタジー建築は、それが成立する背景となる哲学を持たず、表層の模倣表現を消費する建物のことを言います。例をあげるとディズニーランドは完成度の高いファンタジー建築を代表する建物です。(念のためお伝えしますが私もディズニーランドは大好きです)

 

■長く使えるデザイン、長く愛されるデザイン

 住宅は商業建築とは異なり、長期間にわたり特定の人が使用するものです。それに対して商業建築は、短期間の使用期間で不特定多数の人が使用する。その結果、使用期間の設定の短い商店建築は素材やデザインの選択肢がより多くなり、住宅は選択できる素材やデザインは少なくなります。これは住宅には、「長く使えるデザイン」、「長く愛されるデザイン」でないと、はじめは良くても時代と共に古臭くなり飽きてしまうからです。

 では、「長く使えるデザイン」、「長く愛されるデザイン」とはどのようなものでしょうか?

 

■ 住宅のデザインに求められるもの

「長く愛される住まいのデザイン」に共通する、3つの必然性があります。

 それは、「形の必然性」、「素材の必然性」、「色の必然性」の3つです。

 この場合、形の必然性は、機能美によるモノです。構造や機能に沿った形態は飽きることがなくシンプルで美しいものです。

形、素材、色共に必然性は、場所(建築地)を結びつきが大きいです。例えばメキシコのルイスバラガン建築が好きだからといって、そのまま日本にもってくるのはお勧めできません。まずは色の必然性。メキシコの強い日差しと乾燥した空気の中でみる原色のピンクや黄色の壁と、日本の湿気が多くグレーの空の元で見るそれとでは、似て非なるものになってしまいます。素材では、コンクリートの壁は夏の昼間の強い日差しを防ぎ、内部のひんやりとした快適性を確保します。最後に形ですが、庇のないキューブ型の外観は、雨量が少なく雨漏りのリスクが少ないからです。日本は降雨量も多く、毎年来る大型台風時も雨漏りを防がなくてはなりません。日本の伝統建築の深い庇はこのような「場所が持つ必然性」からなるものです。

屋根は南北に切妻。深い軒の出を確保し、南面の夏と冬の日射のコントロールを行っています。

  

■場所と素材の必然性

 

ディズニーランドで感じる違和感は、「夢の国」という前提条件を除けばそこに存在する必然性のないもので構成されているからです。必然性のないもので覆われていると、短時間は問題なくとも長時間滞在すると違和感を感じ、次第に心地よさを感じることは出来なくなっていきます。

 

気候・風土と素材・形状は対応しており、それぞれが意味を持ち全体を構成している必要があります。

 

 

 

■住宅が地域の風景をつくる

 

住宅は一度建てると長期間その場所に存在し、風景の一部となります。ほんの数十年前までは、住宅はその地域の山から木材を切り出し、地域の瓦を使用し、近くの土を利用した塗り壁で壁を仕上げ、地域の杉の木を外壁に張るなどし、地域ごとにある程度統一した作り方のルールがありました。それがその地域の風景となっていました。それを近代合理主義(モダニズム)の中で日本中同じ素材を使うようになり「素材の地域性」は失われ、フィクション建築の拡大により「形態や色の必然性」が失われました。

 

大手量産型メーカーや大量生産のビルダーは、合理化された工業製品を使用し日本中どこでも同じ家も作ります。我々地域工務店は、同じように工業化された製品を使う理由はありません。かつての風景に戻ることはありませんが、地域工務店には、地域に根ざした素材を使用し新しい形としての日本の風景を構築する義務と可能性があります。

外壁は、岐阜県産材の杉とそとんかべ。ウッドデッキ、岐阜県産材。すべて日本の風土に合った素材と日本の風景にある色。

■経年劣化から経年美化へ

 

 工業製品は出来た時が一番美しい状態で、年月と共に劣化していきます。つまりある年数置きにメンテナンスを繰り返し、交換する前提のモノになります。後々お金もかかる家になります。地域にある材は、自然素材です。石、木、土などです。これらは適切に使用することで出来た時よりも時と共に味わいの深くなるモノへと変化します。このような変化を許容することでノーメンテナンスの長寿命のものも多くあります。

 

  変化を許容する素材で出来た家に住む方は、幸せ度数が高いという統計も有るそうです。

 

 住む人が年月と共に深みを増して行くように、住まいも時と共に味わいを持ちコクのある建物になる。このような家が地域に増えると風景が豊かになりやがては町の価値が向上することにもつながります。この役割を担うことが出来るのは地域工務店であると考えます。

 

 

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