住宅分野でも「ネット販売」が席巻するのか?
「注文住宅」で検索すると今どんなサイトが出てくるのだろう?と「注文住宅」にいくつかのワードを加えてみながら検索してみました。出てきたサイトを色々見ていて、注文住宅の「ネット販売」というのが気になりました。
あるサイトでは簡単な診断で、あなたにオススメの暮らし方や家が見つかる「ライフスタイルから選ぶ」というのと、自分でカスタマイズしながらマッチする家をじっくりつくりあげていく「こだわり条件で選ぶ」という2つのルートがありました。面白そうなので、さっそく実際にやってみました。
設定されている質問が占いみたいでワクワク感があったり、ピンをドラッグするとプランのサイズがスッと変わるようになっていたりして思っていたより楽しめました。これは女子受けしそうです!
必要事項を入力して登録すれば選んだプランの参考価格も見れるようになるので、展示場だったら営業マンが取得に苦労するであろう個人情報などもスルッと取れる仕組みになっていました。(感心)
住宅のネット販売は2000年代に参入が相次いだそうです。ネットショッピング全体はその後順調な伸びを示しました。しかし、多くの住宅のネット販売サービスは相次いで終了してしまったそうです。 ここ最近になってから再参入が目立つということなので、当時とは消費者の世代も変わって事業者と双方のメリットがようやく確立してきたということかもしれません。2000年代では早すぎたのかもしれません。
↑出典:総務省統計局 家計消費状況調査 2018年の結果から
図は総務省が毎月行っている「家計消費状況調査」2018年の結果からのグラフです。グラフには表記がありませんが、2020年5月にはネットショッピング利用世帯が全体の50%を突破したとのことです。
この住宅ネット販売というものですが、
●消費者のメリットとして
・営業マンに煩わされずに自分の時間やペースで進められる
・非現実的な実物よりも現実的なヴァーチャルで堅実な選択ができる
●事業者のメリットとして
・事業コスト削減や合理化(固定費を削減ないし変動費化して低い販売価格でも利益確保ができる)
・見込客情報取得の自動化と取得データの商品開発への利用
といった事が挙げられ、ウィンウィンのような感じもありますが…
ちょっと待ってください。せっかくIT技術が発達して高度な表現をローコストで運用できるようになったというのに残念なことも。
「占い」のような住宅ネット販売
規格住宅なので仕方ないのかもしれませんが、用意されている外観やライフスタイルの選択肢が…なんともショボい。
やはり人情として価格が知りたくなって、いそいそと個人情報を打ち込んでみました。そうして出てきた建築費はネット販売専用のローコスト住宅とはいってもいちばん小さいのでも2200万超え!でした。
無論、本体工事のみで付帯工事費(解体工事関連費用、造成工事費用、基礎補強工事関連費用、インテリア関連費用、エクステリア関連費用など) 諸経費(登記費用、印紙代、住宅ローン手続き費用、つなぎ融資費用、火災・地盤保険費用、各種負担金など)その他費用(仮住まい費用、引っ越し費用、式祭典費用、その他費用)などは別とのことです。
演出としては自分で選択し導き出した結果が提案される仕組みなのですが、実は住まう人の生活価値の実現に重要なファクターは最初から排除されていて、設定された選択肢には入っていないのです。これは、何らかの原体験と必要な要素の理解が感覚的にないと見破ることができない仕掛けです。
例えば、建てる場所の方位や日照、近隣状況や敷地の高低差に対することなど敷地の固有の要素は全く無視です。これはリアル販売でもほぼ無視されていることなので、望むべくもないのかもしれません。
ネット販売だからといってこのまま進めるとすると、もはや「設計の放棄」とも言えるものです。こちらも「リアル販売でも既に放棄していますので」と言われてしまうのかもしれません(苦笑)
現在の「住宅ネット販売」での割り切りは、私のように住宅設計から「いごこち実現」の要素は切っても切れない・外せない事を叩きこまれた者にはどうしても賛同できないものです。しかし、逆に建てる現地でのファクターを活かして住まいの居心地を実現されている事業者(工務店)さんにとっては、世の中のこういった方向は歓迎すべきことかもしれません。みんながこぞってそちらに行けば行くほど自らの存在価値が増すことになるからです。
この住宅のネット販売サイト、何しろ商品が「住宅」ですから消費者としてはおそらく、多様で多くの選択肢から導き出されて提示されているものと感じているのではないかと思われます。しかしながら、実のところは非常に限られたパターンから「決め打ち」で提示されているところは無料の占いサイトとよく似ています。
↑無料の占いサイトは本当にたくさんあります。(膨大なパターンが登録してあって、かなり詳しいのもあります)
人の記憶の中にある「原体験」
ここで、改めて考えてみてください。
これまでリアル販売において、展示場などで散々苦戦しているレベルの営業スタイルをそのまま自動化していいんでしょうか? 確かに人件費や物件費などの固定費を削減する効果はおおきいかもしれませんが、これまで以上により多くの情報がガラス張りになっている訳で、競合状態もよりリアルタイム化する気もしてきませんか?
機械化・自動化することは大変結構なことだと思うのですが、その前にまだまだ人が考えておくべき台本とか脚本といいったものがあるような気がします。ただただ省力化・合理化という観点で仕事の置き換えを考えるのではなくて、どうせやるなら達人の離れワザとも言えるような仕事を普通に量産できるといった、新しい仕組みだからこそ実現できるようなことに挑戦してみたいですよね。
人は自分の中の何らかの記憶や原体験みたいなものにヒットした時に、新しい提案がふっと腹落ちするタイミングがあるものです。 僕らのような年代は身のまわりに情報量が少なく、良さそうなものには突撃して体験してみるしかなかった訳です。 しかし、これから家を持つような若い人はものごころついた時から圧倒的に情報量が多く、好奇心のトリガーを引くにはかなりのレベルのモチベーションがないといけません。
↑これぞ原体験。小学生の頃に田舎で過ごした夏休み以来、西瓜(すいか)といえばこんなイメージなのです。
一方で、この情報化の波はたったここ数十年のことです。生物学的・歴史的に見ても、人類はそれほど短期間では進化してきていません。そう、世代が違うからといっても人の心やセンサーのつくりはそれほど変わってはいないのです。そう考えると、不足している原体験(感情の動いた経験)を提供することに新しいIT技術を活用したほうがよさそうです。
例えば、完成予想図としてのバーチャル体験だけではなく、どうせなら10年後、20年後の生活体験を提供するとか。
ひょっとすると、これからの時代は新しい技術を活用して原体験そのものをつくれる人が必要であり、業界の覇者になっていくのかもしれません。
皆さんのところは、新しい技術を使ってどんな事に挑戦していますか?まさか、リアルで苦戦している営業手法をそのままネット上でやっていたりしてませんよね?
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