土地みたてと『10000時間の法則』                              ■土地みたて

2021/05/2801:03706人が見ました

『10000時間の法則』は本当か?

 

住み始めてから、時を経ると共にその出来栄えを感じさせる家にする。

 

そのために必要な土地のみたてが出来るようになるまでに長く時間を要しました。

何しろ学校では建築の勉強は全くしてきていない上に、社会に出てから最初の仕事はベビー・子供服の企画でしたから、住宅の居心地に何がどう影響しているのか?ぜんぜん理屈が結びついていませんでした。

 

鹿児島に移住してからは、どちらかというと土地から購入して新築の家を建てていただくというケースが多く、たくさんの土地を見に行きました。 まだ契約してもらえるかどうかはわからない時点でわざわざ現地に出向いていく訳で「無駄足になるかもしれない…しかしこれをやらないと始まらないし」と、かなりの時間を費やしてきたのです。

 

それでも、住宅の仕事をしていてどの段階がいちばん好き?と尋ねられると、自分は迷わず「土地の下見(みたて)です!」と答えてきました。これは今でも変わりません。

 

お客様の土地を選ぶ際の土地の下見というものは、ほぼハズレで前に進む確率が低い作業でした。 それでも20回に1回いや30回に1回ぐらいでしょうか。「うわっ。これは。ここに建てたら化けるぞー」というような、宝石の原石みたいな土地に出会うことがあるのです。 この、ある種のトキメキを味ってしまうとやめられないといいますか「またどこか違う場所ですごいのに出会えるのでは」と他にも探してみたくなる訳です。

 

『10000時間の法則』なるものを提唱している方もいらっしゃいますが、これまでの土地を見ながら様々な要因を現場で考えてきた時間は軽く10000時間は超えていると思います。

 

土地の価格というものは、いい住まいが建てられるかどうかとは関係なく決められています。高い土地でもいい住まいになりづらい土地もあれば、安い土地でもいい住まいになりやすい土地が確かにあるのです。どうせ買っていただくのなら、値段は安いが建つ家は素晴らしく居心地がいいということを可能な限りは目指してきましたので、突き詰めてやっていると、ひと組のお客様あたり数ヶ所〜数十ヶ所の土地を見て選択するということが通常になってしまいました。

 

数十ヶ所というとオーバーに聞こえる方もいらっしゃるかもしれませんが、これが本当なのです。しかも、普通にしょっちゅうのことでした。新しく造成された団地など100区画も200区画もある中で「どこを買ったらいいでしょうか?」みたいなケースもあって、そういった時は予め区画図でめぼしをつけてから現地に赴くのですが、到着して実際に見てみると予想外の状況や気づきがあったりして、数十ヶ所の土地を行ったり来たりということは現実にありました。こんな時は、それこそ1日しごとになります。

 

 

「どこを買ったらいいでしょうか?」と言われて、こんな中から選ぶのです

 

 

しかしもっと大変なケースもありました。

 

団地の場合は1回の移動でまとめてなので数十区画といってもすぐ見れる訳ですが、ひと組のお客様のために一般の仲介物件である土地を十数ヶ所下見して候補地を見つけるということもありました。エリアも離れていたりすると時間も体力もガソリンもたくさん使ってしまう訳ですが、モタモタしていて、これだ!という土地が売れてしまうと非常に悔しい思いをすることになります。かたずをのんで報告を待っているお客様とそのリアクションのことを思うと、不思議とつらいなと思ったことはありませんでした。

 

鹿児島では、離島や県外に住んでおられて鹿児島県(本土)に建築を計画される方も多くいらっしゃいます。転勤族やUターンの方々ですね。そういった方々たちは遠方に住われていることから、ご自身で頻繁な土地の下見の機会を持つことが難しいのです。そういった場合、営業担当者が良き「目」となり「耳」となれるかが住まいづくりの成否を決するキモとなります。

 

そうして走り回っている時は時間や経費のことはあまり考えずに「とにかくいい家を建ててもらって、住み始めてからずっと喜んで欲しい」という一心で動いていて、今思えば採算の悪い営業マンであったと思います。能率の悪い仕事ぶりでもだまって自由にやらせてくれたことにはとても感謝をしています。しかし、あの頃徹底して行動・体験したからこそ本当の土地をみたてる目ができてきたのです。そうやってようやく「どこをどう見るべきか?それはどうして?何のために?」ということが即答できるようになった訳です。

 

これから、住宅の仕事をされる若い方々が土地下見修行に10000時間費やすことができるのか?というと、やはり難しいかもしれません。でも、いつの時代であれ、家を建てて住む人はできる限りは家族と居心地のいい豊かな生活をしたいと望んでいます。 だからこそ、これからの方々に私よりは早く効率的な方法で上手に土地をみたてる事ができるようになってもらいたいのです。今の時代ならではの新しい技術や方法を使えば10000時間はかけなくても、そういうことができるのではないかと考え、挑戦しているところです。

 

 

その「修行」が実るとき

 

あるお客様の土地探しのことです。

 

なかなか条件に合う土地が見つからなかったのですが、あきらめずにどんどん土地を見て素敵な場所にめぐり会えた方がいらっしゃいました。5〜6通のメールで計15〜6ヶ所の気になる土地情報を送ってもらって、土地の下見をさせていただいたことがありました。 当時は福岡事業所立ち上げのため新幹線出張で営業活動をしていましたので移動がかなりハードでしたが、いい家ができる予感と共にワクワクと走り回っていました。

 

その方は福岡にお住まいの方で、毎週末に土地情報の物色をして候補地情報を夜な夜なメールで送ってくださるのでした。メールをくださるのはご夫婦で絞り込んだ物件でしたから、実際には30〜40ヶ所は見に行かれたのではないでしょうか。 週半ばには 「なかなかベストな物件が見つからないですね・・・。 」といった凹み気味のトーンだったのに、週末になると 「さて、今週末も市内を駆け巡りました。9件現地確認を行い、その中で3件を抽出しました。是非調査をお願いします。」といった感じで、週末返上でがんばられました。

 

毎週のようにメールのやりとりをしていて、ご自身がピックアップした土地のどこがどうして良くなかったのか?という事がだんだん分かってこられるに従って、週末の土地下見が家族のレジャーというか、ルーティンの楽しみになっていったご様子でした。

 

そうしてのちに、その時点では根拠のなかったワクワクは現実のものになりました。

 

ご主人の不屈のがんばりが実を結んで、現在は2階のリビングから刻一刻と移ろう変化が美しい水面を楽しみながら生活をされています。

 

 

「ここに建てたら化けるぞー」 下見した日に候補地から撮ったトキメキの瞬間

 

 

 

社長の会社では土地の下見、どのようにされていますか? 営業担当者に、採算のわるい「修行」を許してあげていますか?

 

 

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