先輩との雑談
先輩「伝統ある地元の仏壇業界は絶滅寸前です…地元最後の塗箔師が廃業したんです。」
ある地方都市でコンサルティングをされている先輩と食事をした際、教えていただいた話です。
私「最近、新しい家でもお仏壇置かれないお宅が増えてますものね。」
先輩「そうなんですが、業界が自滅した面も無きにしもあらずなんですよ。事業自得とも言えると思います。」
私「え?それってどういうことなんですか?」
先輩のお話では、仏壇業界は小売店、卸業者、製造(職人)という構造になっていて、製造段階では木地師、彫師、金具師、塗箔師、蒔絵師のスペシャリストの技で完成する分業制になっているそうです。その中でも塗箔師(ぬりはくし)は仏壇づくりの中で他の職人に指示を出す中心的な役割、ディレクターの立場でもあるそうです。
最近のお仏壇は、8割9割は合成漆のスプレー塗りの中国製。かつて「スプレー塗りの中国製」を「本漆塗りの日本製」と偽り高価で販売する小売業者が多数現れ、業界自ら自分たちの商材に対する市場での信任を破壊してしまったというのです。消費者が商品の知識をあまり持っていないことをいいことに、元々は安価な中国製のお仏壇に高額な定価をつけ、大幅な値引きがあるように装って販売するといった「二重価格」での販売手法が一部で横行していたそうです。
業界構造が複雑に分業されていて、伝統的に製販分離の状態が続いていたためにこのような問題が発生してしまったのです。2010年には業界団体において『仏壇の表示に関する公正競争規約』が策定。公正取引委員会や消費者庁にも認められたそうですが、時すでに遅し。業界全体の信頼回復や需要創造には結びつかなかったようです。
お仏壇といえば…
注文住宅の営業マン時代(特に鹿児島に来てから)にお施主様宅にお邪魔して、新しい住まいへの持ち込み予定の家具・家電の写真撮影と採寸をしていました。その際に、家具調の小さなものから金箔貼りの見上げるような立派なものまで、それはそれは色々なお仏壇を測らせていただきました。
新築前のお施主様宅の多くはアパートや官舎など手狭な住まいで、そこにはお仏壇は置いてはいないことが多く、測りに伺う場所はご実家であることがスタンダードでした。そうなんです。新しい住まいが出来たらお仏壇を引き継ぐ準備を整えることが、ご両親からの資金的あるいは土地提供といった支援の条件だったりすることが多かったのです。
当然のことながらデリケートに扱わねばなりません。特にご主人がご長男であるとそういうケースが多くなる訳ですが、その場合はプラン打合せ前に2軒のお宅にお邪魔して「持ち込み調査」を行うのです。小さくて狭いお施主様宅とは対照的な大きくて軒の深い平家のご実家にもかなりの数お邪魔しました。遠い場合はいちにち仕事になる場合もありましたが、お実家に伺い座敷に上げてもらってご両親からもてなしていただくと、お施主様ご本人の生い立ちや原体験も感じられていいものでした。
しかし…本題の仏壇の採寸に取り掛かりますと、お父様から「ちょっと図面を見せてもらえないけ?」という流れになり…
「とこさん(床の間)はどこね?ぶっだん(仏壇)はどこね?かんだな(神棚)は?」と、立て続けに”NGワード”連発ということも多くありました。
なぜ?”NGワード”かと言いますと、当時の会社の提案内容はミニマムなコンパクトプランで敷地に余白を生み、住まいの中の環境を整えたり余計なものを部屋に置きすぎない可変性のある住まい方提案を行うのがスタンダードであったからです。そういう事情もあって、床の間・仏壇・神棚など、場所の在り方に様々なルールを持つ固定的なしつらえは、営業マンとしては出来れば避けたい要望であったのです。
どでかいお仏壇を目の当たりにして、「これを置く和室が必要となると…コンパクトなプランが成り立たなくなるな💦」と悶々としながら写真を撮ったり、採寸したりしていたことが度々ありました。お仏壇は扉を開けた状態で収まらないといけませんので、特に「メガサイズ」のお仏壇は厄介だったのです。 お仏壇のある座敷の垂れ壁に並べて飾られた代々の御先祖の写真を指差しながら、お父様から直々に『ファミリーヒストリー』※ ばりのお話をエンドレスで賜わり、気が遠くなりかけることもしばしばでした。
※ 『ファミリーヒストリー』はNHK総合テレビジョンにて2008年から放送されている番組。著名人の家族の歴史を本人に代わって徹底取材。「アイデンティティ」「家族の絆」など、初めて明らかになる事実に驚きあり、感動ありのドキュメントです。
↑営業マン時代のお施主様宅家具採寸メモ(お仏壇はしっかり測ってあります。なんとこのお宅は神棚が2つも💦💦)
他業界の『危機』から学べるか?
先輩の地元で永年続いてきた仏壇業界のお話を聴きながら、その時ふといろいろな事が蘇ってきました。よくよく考えてみると仏様の居場所ともいえるお仏壇の変化の様子は、現世に暮らす我々の居場所である住宅の変化とも重なります。
先輩のお話にあったかつての仏壇業界のように本質的な価値を磨くことに力を注ぐことなく、あたかも価値の高いもののような演出で売り手の利益追求ばかりをやっていると、われわれ住宅業界も絶滅の危機に瀕してしまうかも知れません。
「消費者が商品の知識をあまり持っていないことをいいことに」といえば、住宅業界でも「二重価格」での販売手法、実際には達成できていない「机上の性能」、他人の事例を利用した「擬態型マーケティング」などなど。考えてみれば、思いあたる事もいろいろ思い浮かびます。
人が生活していく以上は住宅への需要がなくなってしまうことはないと思われますが、下手をすると現在の住宅業界への需要はなくなって、他の供給元に切り替えられてしまうということは決して空想の世界ではないような気がするのです。
社長の会社では「自ら提供するものが、なぜ、どのような価値があるのか」について、ちゃんとお客様に語りかけていますか? 社員みんながそう出来るようにしていますか?
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