海外建設テック特集 [チカラボ版]

2021/07/2916:281015人が見ました

 クラフトバンク総研の高木です。今回は新建ハウジングにも掲載して頂いた海外建設テックのトレンド情報を、チカラボ版としてお伝えします。

 さて米国の調査会社ガートナー(本社:スタンフォード)は、201912月に公開された「パブリッククラウドへの支出率からみた2022年の世界国別ランキング」のレポートの中で、「日本のクラウド活用状況は米国より7年遅れている」と指摘しました※。その背景には「クラウドへの偏見、規制上の障害がある」と分析をしています。

 日本ではコロナ禍によって「10年分のIT化が1年で進んだ」という声も業界内外から聞こえます。アフターコロナ、ウッドショックに代表される資材高を見据え、工務店経営ではクラウドに限らず、様々な「建設テックの使いこなし」が重要になってきています。米国の建設テック市場の動向を読み解きながら、5つの先進事例を調査しました。海外事例から日本の工務店経営の一筋の未来が見えてくれば幸いです。

※出所

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00848/00017/

 

1. どんな建設テックがある?

 建設テックにはどんな種類があるのでしょうか?建設業の商流ごとに建設テックを整理したのが以下の図になります。日本は未だ「施工管理アプリ」「受発注プラットフォーム」等の「単一プロセス」に対する建設テックが多いですが、海外では営業、見積、調達、施工管理まで一つのアプリでカバーする「プロセス横断」建設テックが普及しています。

 

参考:https://note.com/cri/n/nd0c458210c37

 

その中でも以下の代表例を5つ見ていきましょう。

 ①業務支援ツール「Service Titan」

 ②プロジェクト管理「rocore

 ③3Dプリンタ・モジュール建築「Mighty Building

 ④ドローン「DroneDeploy

 ⑤ロボット・自動化「Built Robotics

 

2. 海外建設テック5

①業務支援ツール Service Titan(米国)

 サービス利用企業7,500社、アメリカ全域10万人の技術者、職人が使っている業務支援ツールです。配管、空調、電気等の設備系の工事に関し、顧客対応、契約、スケジュール管理、建設資材の受発注、見積、請求、決済までを一つのアプリで完結できるのが特徴です。受発注データに基づいて融資も得ることができます。

https://www.servicetitan.com/construction-software

 

 専属のコールセンターがあり、顧客対応の前捌きをした上で、職人に案件をパスしてくれますし、データに基づき目的地までの最適ルート設計をした上で、地図までアプリに表示されます。建設資材のメーカーとも多数提携し、アプリのユーザーはアプリ上で資材を発注できます。

 

https://www.youtube.com/watch?v=chc7hbth6TE

※こちらの動画は英語なので、Youtubeの設定で字幕表記⇒翻訳⇒日本語にしてご覧ください。

 

 日本で普及しているアンドパッドやダンドリワークもコミュニケーション、工程管理などの豊富な機能を有していますが、建材の受発注やデータに基づく融資機能までは現時点では未だありません。今後、日本でも一つのツールで出来ることが広がっていくことでしょう。

 

業務支援ツールを巡る動向

 Service Titanは徹底して「複雑な関係者の調整など、建設業における施工以外の業務」を効率化し、職人を「施工に集中」させてくれる仕組みになっています。ツールの活用で年収1千万円を超える職人も数万人単位で生まれているのとのことです。

 日本はようやく業務支援ツールの普及が始まったところです。顧客対応、受発注、建設資材の調達、見積などの「段取り」業務の多くが日本ではまだ「紙とFAXと電話」で行われているのが現実です。「施工以外の業務の無駄」があるのは日本も米国も同じですので、いずれこの領域は業界慣習の見直しも含めて変化していくことでしょう。

 

②プロジェクト管理 Procore(米国) 

「建設業の社員は時間の35%を最適でない業務に費やしている」「20年間FAXと電話に頼る産業は発展するのか?」という発想で作られた大型建設プロジェクト管理のクラウドです。ユーザー数は世界130万人です。

 具体的には大型プロジェクトの入札管理、作業現場の安全管理、関係者の情報共有ツール(設計図面等)、予算管理等の他、請求書、承認稟議などの業務をペーパーレスで実行できます。また、無償での会員向け情報公開(活用方法、事例集など)や、蓄積されたデータを基にしたレポート発信などITが苦手なユーザー向けの支援も充実しています。

https://www.procore.com/en-sg

 

プロジェクト管理ツールを巡る動向

 日本では大手のゼネコン等に普及しているスパイダープラスなどの管理ツールがありますが、まだ中小建設業、工務店では「紙と電話での段取り」が行われています。日本には素晴らしいものづくりの技術がある一方で「人手をかけるべきでないところまで人手をかけて」しまっているとも言えるでしょう。

 平成29年度の経産省情報処理実態調査を見ると、建設、製造、小売、卸売の4業種の中で最もクラウド普及率が低かったのは建設業でした。比較的導入が進めやすい、財務会計や人事給与関連領域でも他の業種よりもクラウド活用が進んでいないという特徴があります。背景には他業種よりも規模の小さい会社が多いことが挙げられます。

 

3Dプリンタ Mighty Building(米国) 

 3Dプリンタの活用で家を「印刷」してしまう技術を持った会社です。「印刷」なら「労働時間を95%削減し、廃棄物は10分の1、スピードは2倍」で行うことができ、ワンルームなら340平米の空間を24時間、最安値2百万円で「印刷」できるそうです。

https://mightybuildings.com/

 

3Dプリンタを巡る動向

 同社のホームページを見ると「人手不足なら工場で家を『印刷』してしまおう」「従来の施工方法だと端材などの無駄が多い」という発想に驚かされます。

 オランダのVesteda(ヴェステダ)という会社は世界的にも厳しいオランダの建築基準をクリアした3Dプリンタ建築の実用化に成功しました。

 日本では繊維大手のクラボウが今年5月から3Dプリンタで外壁やベンチの製造を開始する等、日系企業も参入し始めています。

https://www.kurabo.co.jp/chem/lp/3d-printer/

 世界的に見てもまだ3Dプリンタ建築の棟数は限られ、試験段階ではありますが、実用化されれば家づくりは大きく変わったものになるでしょうし、「この工程は職人、この工程は機械」と仕訳されていくことでしょう。

 

④ドローン DroneDeploy(米国)

 建設現場では頻繁に「現場と設計図面の不一致」が起き、「手戻り」も生じます。DroneDeployの技術はドローンを飛ばして建設現場を撮影し、現場と設計図面の一致度合いを分析・自動検知します。既に世界180か国、5千社に利用されています。

https://techblitz.com/dronedeploy/

 アプリ上の設定だけでドローンによる飛行・撮影、一部操作の自動化ができるのが特徴です。また、運用に当たって様々な業種に対し、運用サポートを得られます。

出所

https://dronebank.jp/business/cat008/3d.html

 

⑤ロボット・自動化 Built Robotics(米国)

 既存の重機(ブルドーザー・ショベルカー)を自立無人走行型のロボット化する技術です。既に日本の住友商事傘下の建機レンタル会社と提携を開始しています。また、重機の自動走行は日本のゼネコンでも既に研究開発が進んでいます。

https://contech.jp/builtrobotics/

 自立無人走行の建機をゼロから生産するのは困難ですが、同社の機器を使えば既存の建機を自立無人走行に「後付け改造」できる点が大きな特徴です。

 

※出所

https://jp.techcrunch.com/2019/09/20/2019-09-19-built-robotics-raises-33m-for-its-self-driving-construction-equipment/

 

3.海外のトレンドから見る日本の工務店経営の未来

海外のトレンドを整理すると以下の3点です。

・人手不足の問題は海外も同じ ⇒ 海外では技術の力で手作業を減らす方向

・「見積、決済などの施工以外の業務」のITによる効率化

・ロボットや3Dプリンタなど建材や施工方法そのものの見直し

 

 日本の住宅業界は以前からの「人手不足」問題に加え、「コロナ禍による需要減」と「ウッドショックを始めとする原材料高」といった変化に晒されています。「少ない人数」でITを活用し、効率的に成果を上げていく方法を模索する、「人の問題」に向き合う必要性が高まっています。この場合の「人」は協力会社、建材メーカーなどの「外」と社員の「中」の双方を指します。

 「外」の視点では、Service Titanの例のように海外では顧客、建材メーカー、職人がアプリで繋がり、先端テクノロジーを使いこなす「年収1千万円の職人」も数万人単位で登場しています。特に米国は国土が広いため、対面や郵送によるやりとりが困難で、クラウドツールの普及が進んだ背景があります。

 一方、日本は国土が狭く「何かあったら移動して対面できる」背景もあり、まだ「外」とつながるプロセスの多くは「紙と電話と対面」です。「いつものアレでお願い!」「分かりました!」といった「暗黙の了解」が業界として多いのも一つの特徴でしょう。

 

 「中」の視点では3Dプリンタや重機の自動化、ドローン測量のように海外では「人手でやることと機械でやること」の区分が始まっています。日本ではクラウドの普及の遅れに代表されるように、まだ「人手をかけるべきでないところまで人手をかけてしまっている」と言えるでしょう。それは、日本の職人が優れた技術を持っているため、技術開発の必要性が乏しかったとも考えられます。

 

 今後、少しずつ本記事で紹介した海外のテクノロジーは日本の住宅産業にも導入されていき、様々な課題を解決していくことでしょう。3年後、5年後には業界慣習や仕事の進め方は大きく変わっているかもしれません。

 

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