サスティナブルな共感型工務店への道を5つの経営資源から考える② 〜カネの課題〜

2021/08/2310:11202人が見ました

近年、小学生が学校で国連で採択されたSDGsについて学ぶようになったりと、漸く日本でも持続可能な世界への移行が重要視されるようになってきました。持続可能な社会とは、際限のない成長拡大志向と決別して、あらゆるものが循環し継続できる状態を指しており、私たち建築会社、工務店もそのような価値観へのシフトが求められていると最近ひしひしと感じます。しかし、同時に実際の建築業界の現状は循環型事業とは大きな乖離があると感じており、時代の要請に適応したサスティナビリティモデルへのシフトをまとめてみることにしました。今回はその2回目、5つの経営資源(人、カネ、モノ、情報、共感)の2つ目、カネについて考えてみたいと思います。

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人の問題の根本にあるカネの問題

前回では「人」をテーマに圧倒的な職人不足がすぐそこに迫っている現状と、若者から受け入れられる様な状態を整えること、また入職した若者を人財となるように育てる必要性について書きました。ものづくりの会社は工事をしなければ売り上げも利益も作れません。職人がいなければ工事はできず、建築会社は持続継続できなくなるのは自明の理です。その喫緊でかつ重大な課題であり職人不足を根本的に解決するには、完全に不人気職種となった建築職人を若者に興味を持ってもらえる様に労働環境の整備が不可欠で、他業種に比しても遜色がない働き方や職場を提供する必要があります。現在の職人不足はその部分にかかる費用を事業者が削減してきたことに大きな原因があり、それは結局「金」の問題です。若者に受け入れられるように見た目をカッコ良く見せるとか、やりがいを持てるようにすることも大事ですが、費用面での改革は避けて通ることはできません。前回の記事の元ネタはこちら

 

 

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職人の低すぎる地位と待遇

バブルが弾けた後のこれまで、建築業界は長年のデフレに苛まれてきました。工事単価が下がり続け、同時に職人の日当も下落を続けて今では一人前の大工の棟梁でさえ日当20,000円、年間600万円程度しか稼げないのが現実です。車両や道具、保険などの経費を差し引けば実質年収400万円台になってしまいます。これでは夢が無さ過ぎますし、若者が寄り付いてこないどころか離職しても当然です。ここを根本的に改善しなければ人材育成どころか採用もままならないのですが、職人の給料を大幅に引き上げるのも簡単ではありません。建築業界には通り値があり、市場価格とかけ離れた値決めをすると競争力を失って売り上げがなくなってしまいます。かといって、現状に甘んじていたら職人になる若者はいないままで、近い将来、建築業界は壊滅的なダメージを受けることになります。人の課題を解決するには収益構造全体を根本的に見直す必要があります。

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職人が持つ未曾有の才能

私が一般社団法人職人起業塾で推進しているのは、職人等の現場実務者の待遇改善を行う費用を現場から捻出する現場改革です。建築現場ではこれまでコストダウンの取り組みの中で職人の分業化が進み、職人は狭い役割のなかで与えられた作業を決められた通りに行うのみになってしまいました。技術職ですから、完璧な施工の精度を求められるのは当然ですが、決められた作業をそのまま行うだけではロボットと変わらない訳で、代替可能な道具と変わらない役割しか担ってないとも言えます。私たちが現場改革を行なって生み出すべきは付加価値であり、現場にロボットではなく心が通う人がいることの大きな効果性です。職人が少し意識を変えて主体性を発揮し、自分の良心に向き合うことで、現場作業を担いながらも顧客とコミュニケーションを図り、心を通わせて現場にしかない提案を行えば顧客満足を超えた感動を生み出せますし、現場全体のスケジュール管理や、関わる多くの職人達がスムースに作業が出来るような段取り、職人が施工管理的な立場で現場に常駐することで、多額のコストを押し下げることができます。ちなみに、弊社では全員の大工に建築士もしくは施工管理技士の資格取得を強く勧めており、順番に有資格者となって施工管理を任せています。これらは、職人として現場で経験を積んだ者なら誰でも必ず出来る様になりますし、その才能があるから職人が出来ていると言っても過言ではありません。職人は元々備わっている才能を開かせるだけで大きな付加価値を生み出すことが可能です。

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循環型モデルの答えは現場にあり

また、現場で作業する職人が顧客の立場に立ち、良心に従った選択を常に行い、現場での提案などの顧客とのやりとりで圧倒的な顧客満足と信頼を勝ち取る事が出来れば、工事後のメンテナンスをはじめ、完成引き渡し後、その住宅で発生する建築に関わるありとあらゆる工事の依頼が来る様になります。また、紹介をお願いしたら建築予定の知り合いを探してでも紹介してくれる様になります。相見積もりでの同業他社との価格競争に巻き込まれることなく、適正価格で仕事を請け負える、いわゆる特命受注の集客は現場でこそ作り上げることができるのです。この循環型の受注サイクルが定着すると、時間と共に一定数のリピート、紹介受注が得られるようになり、売り上げの3%にも上る多くの予算を組む事業所も多い販促費が必要なくなってきます。現場の人材が意識を変え、態度を変えて習慣を身につけることで販売管理費の大幅なコストダウンが叶い、業界で一般的には行われていない職人を正規雇用する費用、人材育成にかかる先行投資の費用も捻出することができるのです。答えは常に現場にあるのです。

卵が先か、鶏か問題を乗り越える

現場で循環型の受注システムを構築してカネの問題を解決するには、まず現場の改革、職人の意識改革が必要です。決められたことを決められたまま、道具のようにこなす作業員ではなく、良識と良心がある血の通ったプロフェッショナルが顧客に最大の価値提供を行う気構えで仕事に向き合う。表面的に目に見えない気持ちや想い、心が顧客に伝わることで圧倒的な価値を生み出します。そんな職人の大きな才能を開花させる意識改革は、普段の仕事の延長線上ではなく、改まった場所で学ぶ必要があり、それを私たち一般社団法人職人起業塾では半年間にも及ぶ研修で提供しています。しかし、就業時間中に職人を現場から離して技術以外の研修に行かせることは並大抵のことでは無いのも事実です。実際、私自身、自社大工での施工にこだわった工務店を営んでいるだけにその高いハードルもよく理解しています。
カネの問題を解決する為に現場で大きな付加価値を生み出すには職人への教育が必要で、それが成果となって現れるまでにはタイムラグが発生します。現場を止めて収益を下げながら未来に対する先行投資を行わなければならない非常に厳しい選択ではありますが、この川を渡らなくては、職人不足の根本的解決も、循環型の収益構造も実現するのは不可能です。サスティナブルな共感型工務店へのシフトにはこのプロセスが不可欠だと考えておりますし、実際既に大きな成果を手にされている職人、事業者も多くおられます。
ちなみに、一般社団法人職人起業塾の研修は少しでも事業者の金銭的負担を軽減すべく、厚生労働大臣の認定を取得して助成金で研修経費を還元するサポートも行なっています。人材の才能を開発することこそ、経営資源の中の大きなファクターである人とカネの問題を解決する糸口なのです。

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一般社団法人職人起業塾のオフィシャルページにイベント情報等も集約しています。

 

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