サスティナブルな共感型工務店への道を5つの経営資源から考える③ 〜コトの課題〜

2021/09/0417:58270人が見ました

新型コロナによって明らかにされたのは、パンデミックによって世界中が鎖国状態に陥ったグローバル社会の脆弱さと、金が金を生み、強い者だけが勝ち残る弱肉強食の新自由主義の資本主義が世界平和にも、社会課題の解決にも寄与せずに環境にも人にも負荷をかけ続けるという構造的問題でした。
この閉塞感に包まれ始めた世界を打開するのは、人と地球に優しい思いやりを持つ共感型資本主義だと、最近に世界の識者が集まるダボス会議を皮切りに世界中で話題になり始め、日本国内で活発に論じられるようになりました。国連でSDGsが採択され、世界中の国々で持続可能な循環型社会への取り組みが批准され、積極的に進められる中、私たち閉鎖的で変化に疎い業界の代表格と言われる建築業界も、流石にその大きな変化に適応する必要があると感じています。もともと、地域に根を張る工務店は循環型社会構造の一翼を担っている存在で、地域に住まう人々の住宅、暮らしを支えるインフラ事業を行っている側面からも、事業を持続、継続しなければならない責任を負っています。そんな地域工務店のサスティナビリティシフトについて5つの経営資源(ヒト、金、モノ、情報、共感)を切り口に書き進めています。今日はその3回目、「モノ」についてまとめてみます。

モノの価値の陳腐化

事業を行うのに必要な経営資源の一つに「モノが」論じられてきたのは、昭和から平成の日本の基幹産業がモノづくり中心の製造業が花形だった時代の名残りです。製造業ではまず初めに設備投資が必要で、それが整えることができて初めて事業を成長させる事が出来るとの、戦後から高度成長期にかけての日本が世界に類を見ない成長を成し遂げた神話に立脚しています。しかし、時代は変わり、あらゆるモノがインターネットで繋がった事でモノの価値は圧倒的に下がりました。モノづくりを行うにしても必要な設備を持っている世界中の事業所にアウトソーシングが簡単に出来る様になり、その代わりにアイデアやデザインが重視される様になりました。ICT革命で経営資源としてのモノは大して重要ではなくなったのです。
「モノからコトへの転換」を初めに提唱されたのはマーケティング理論の始祖?コトラー博士です。彼の預言通りにモノは陳腐化し、重要なのはユーザーの体験であると、コトへの価値観の転換が起こりましたし、インターネット、モバイルデバイスの圧倒的な普及でそれは一気に加速されたのが今私たちが暮らしている現状です。

モノからコトへの転換

持続可能な循環型事業モデルへのシフトを5つの経営資源から考えるこのコラムでは古典的なセオリー通りにモノを三番目に挙げておりましたが、現代社会では既にモノはコトへと転換された現状を鑑みて、ここではモノの代替としてコトについて考えてみたいと思います。ここで指す「コト」をもう少しわかりやすく言い換えると時代に合った「ライフスタイル」になるのではないかと考えます。ユーザーはモノを欲しているのではなく体験を求めている。とすればそれは同時に事業者は価値提供としてユーザーに共感され受け入れられるライフスタイルに反映される価値観を持っている必要があります。モノという目に見えるものからコト、体験という目に見えないものへの転換を見える化するのが、意図、思想、哲学、価値観を行動で表す事業者自体、もしくはそのライフスタイルではないかと思うのです。

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本当に大事なのは目に見えないモノ

持続可能な事業モデルに必要な経営資源の五番目に私が付け足した「共感」にも通じる部分がありますが、コトからモノへの転換はこれまであまり重要視されなかった、表面的に目に見えない「どの様な意図を持って経営するのか」「何のための事業なのか」「社会にどのような価値提供を行うのか」「どのような社会課題を解決するのか」と言った想いが中心に存在します。その想いが顧客や市場、地域社会にとって価値を認められるモノなら、十分経営資源として機能しますし、逆に、利益さえ上がれば良い、自分たちが豊かになればそれでいい、株主への配当が事業の目的、今のうちに稼げるだけ稼ぎたい、と言った「今、金、自分が良ければそれで良い」との価値観の会社は、提供する商品やサービスにその意図が透けて見えるようになり、ネガティブな評価やクチコミがシェアされてマーケットから見放される時代になったと言うことでもあります。

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信頼が最も重要な経営資源

前回取り上げた持続可能なビジネスモデルを構築するための「カネ」の問題解決も、詰まるところマーケットから圧倒的な信頼を得てストック型ビジネスに移行することがその根底にあります。その観点から見ても、コトを提供するための顧客目線に立った意図、目的意識を明確に持つ事は非常に重要であり、同時にその思考を行動へと転換させ事業所自体の価値観をライフスタイル(実際に行っていること)として提示することは深い関係性があるのです。ちなみに、ここまで挿入している写真は15年以上も毎年続けている地域の子供たち向けの夏の木工教室の模様です。中学生の頃にこの教室に参加していた少年が今では社員として入社して頑張って子供達の面倒をみています。地域に貢献すると言うのは、言葉ではなく行動で表す、そしてある程度の期間の継続と循環が出来てこそ意味や価値が生まれると考えています。

逆輸入のサスティナブル ディベロップメント

ここまで昭和時代に経営資源として認知されていたヒト、カネ、モノの3つの観点から持続可能な循環型ビジネスモデルへシフトするための考察を重ねてきました。切り口は違えども、その根底にあるものは全て原理原則に基づいた思考です。わかりやすい言葉でまとめると、古来から日本の商売人が大事に守り続けた「先義後利」や「三方良し」の世界観になると思います。SDGsが国連で採択されてから、日本でも頻繁に話題に上るようになった持続可能な循環型社会とは、そもそも日本人が大切にしてきた考え方であり思考です。私たちは今一度、先人に学び原点回帰をするべきではないかと強く思う次第です。次回は時代の流れを掴み、兆しを事業に落とし込むのに不可欠な情報について書き進めたいと思います。

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職人の才能を開く研修と、事業所の自立循環型ビジネスモデル構築のサポートも行っています。

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