サスティナブルな共感型工務店への道を5つの経営資源から考える⑤ 〜共感の課題〜

2021/09/3016:00278人が見ました

2015年のSDGsの国連での採択から6年が経ちました。採択に批准した国々の取り組みが徐々に加速する中、日本でも最近、漸く持続可能な循環型社会への転換が認知されるようになってきました。最近は内閣官房室主導で国交省と経産省、そして環境省を横断した環境への負荷軽減への法整備の議論がタスクフォースで活発にたたかわされるようにになり、2020年に一旦見送られた住宅の断熱性能の義務化も再度法制化に向けて議論されるようになっています。そんな世界も日本も今までと違う価値観へのシフトが進む中、際限のない成長拡大を標榜してきた新自由主義的なヒエラルキー型、自由競争の原理を根本にしたグローバル資本主義に変わって、格差を是正し、紛争や差別、人権問題を解消する人の幸せを中心に置いた、共感型資本主義への転換が求められるようになっています。これからの世の中ではその「共感」が大きな経営資源になると考えて、工務店のサスティナブルモデルへのシフトの観点でもその実装について考えてみたいと思います。SDGsを企業イメージを良くする金儲けのプロモーションに使われているとの批判や、CO2の削減を金で取引することについての懐疑論があることは承知していますが、150カ国以上の加盟国が批准した世界を良くしたいとの大義名分とその実践は大きな価値がありますし、次の世代に残すべき環境として叶えるべき目標だと思っています。少し長いですが世界を変える意思表示を明確に打ち出している国連の動画を是非ご覧ください。

5番目の経営資源

これまで4回にわたって、工務店のこれからの時代に適応したビジネスモデルについて経営資源(ヒト、カネ、モノ、情報)を切り口に考察を重ねてきました。今日はその最終回、事業を継続していく上で必要な経営資源に私が勝手に付け足した「共感」について書き進めます。上述したように、競争原理に基づいた拝金個人主義、金が金を生み出す金融資本主義経済では解決できないどころか歪みが大きくなり続ける社会課題が多く存在することに世界中の人たちが気づき始めました。SDGsで採択されたのは環境への負荷軽減だけではなく、貧困問題や紛争、差別の解消も解決すべき社会課題として盛り込まれています。世界の有識者がその解決を進めるために必要なタスクを模索した結果、見出されたのは人としての思いやりや世界を良くしたいと言った意図、良心を事業に転換するムーブメントであり、共感を得る事で資金を集め、事業を発展させることで実業で社会課題の解決を推し進める大きな流れが出来つつあります。

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本質への回帰

最近、大きな注目を集めている良き意図を持ったお金が集まり始めたと言われるソーシャルバンク、ESG投資は、運用する目的を明確に示し環境問題、社会課題の解決のための事業であるか、また企業が正しいガバナンスを備えているかを投資の条件に組み込み、これまでの財務指標だけで投資の可否を判断する金融機関の常識に一石を投じてきました。それはヨーロッパを中心に投資家達から圧倒的な支持を得る様になり、これからの資金運用のスタンダードになる勢いです。日本ではまだまだこれから金融機関が仕組みを整えていく段階ではありますが、民間ベースでも企業によるソーシャルボンドやグリーンボンドの発行、エンジェル税制の導入、また、規模の小さな草の根的なクラウドファンディングの普及などで少しずつ広がりを見せています。7月には金融庁からソーシャルボンドガイドライン(案)が公表されました。
このような新しい資金、債券市場の運用に最も必要なのは、意図とそれに対する共感です。これまでマーケティングの世界で不可欠とされてきた競合他社と差別化できる特徴、卓越した技術やサービスなどのUSPやコアコンピタンスと言われる企業独自の圧倒的な価値提供が必要無いとは言いませんが、これからの世界ではそれらの目に見える分かり易いリソースだけではなく、(それよりも)良き意図、良き心を持った事業が持続可能な力を持ち、VUCA(不安定、不透明、複雑、曖昧)化された混迷の時代を生き抜ける条件になるのを如実に示しています。良き心が何よりも大事である。と書くと綺麗ごとの絵空事の様に感じるかも知れませんが、世界は間違いなく人として在るべき本質に立ち返りつつあり、それは事業所のサスティナビリティを考える際に外す事ができない重要なタスクになっています。

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経営資源としての共感

では、工務店、建築会社における経営資源としての共感を得るにはどのように事業を行うべきなのか、その問いに対する解は明白です。事業所の存続には売上、利益、キャッシュフローが必要ですが、お金はあくまで手段であり、決して目的にはなり得ないものです。企業活動の目的が多くの人の幸せに寄与する社会課題の解決に根差していれば、それは必ず人々の共感を呼び、結果的に人と資金が集まる様になります。重要なのは、事業を通して解決したい課題を明確に打ち出すこと、その実現のためにお題目を唱えるだけにとどまらず、具体的な事業として取り組む事であり、表面的には見えない意図を活動という目に見えるリアルな価値へと転換することが共感という経営資源を手に入れる唯一の方法だといえます。
実は最近、私たちが取り組んできた持続可能な地域社会実現のための小さな取り組みが、少しずつ影響力を増してきていると感じられる出来事がいくつかありました。以下にその事例をご紹介したいと思います。

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共感が資金に変わった瞬間

私たちは15年ほど前に自立循環型住宅という環境負荷を軽減する住宅の設計手法を学び始めたのをきっかけに、モノづくりだけではなく自社の組織や事業全体も持続可能な循環型モデルへと移行すべく標榜してきました。社員大工の新卒採用、育成もその一環ですが、地元の森の整備、地域木材の利活用の啓蒙活動を同時に進めてきて、若手の大工見習い達に子供向けの木工ワークショップの担当の役割を与えています。5年前に兵庫県林務課が創設した木育の施設、「ひょうご木づかい王国学校」では毎月の様にワークショップを開催し、多くの子供達に木を使ったモノづくりの楽しさと同時に木の良さ、森林資源の大切さを伝えてきました。
その活動は県の運営資金が底をついたことから、事業主体を私たち工務店と建築関連の企業を集めた民間団体に委譲されることになりました。その際、若手大工たちを熱心にワークショップに取り組んませてきた流れから私が代表になり、今も地域材のオリジナル商品の開発や流通など活動の幅を広げて活動を続けています。
事業を委譲された際に、収益が上がらない啓蒙団体の運営を継続するために50社にも上る事業者から協賛金を集めましたが、それでも年間予算に足らず、クラウドファンディングを立ち上げたところ、全国の工務店などの建築関連の方を中心に多くの応援を頂くことが出来て、1ヶ月で300万円を超える投資を集めることができました。それは私にとって共感が資金に変わる初めての経験でした。

共感が信頼に変わる

その後、施設側の一方的な物件契約破棄で施設を追い出されるなど、紆余曲折を経ながらも木育の啓蒙活動と、地域木材を使った建築の相談など、ひょうご木づかい王国学校の活動を継続しています。つい先日も事務局に問い合わせがあり、小学生の女の子が学校に提案する理想の遊具の模型を作るのを手伝ってもらえないかとのことでした。丁度、私が代表を務めるつむぎ建築舎主宰の木工教室の計画があり、そのイベントに案内したところ家族で参加されてとても楽しそうに、満足して帰られました。その女の子は、神戸ハーバーランドにあった時のひょうご木づかい王国学校のワークショップに参加して、木を使ったモノづくりの楽しさを覚えていて、今回、自分でインターネットで検索して私たちにアクセスされたとのことです。良き意図を持って行う活動は思いの外、人の心の中に強く残る様で、少し前にもマンションのリノベーション工事の依頼を頂いたお客様に弊社に問い合わせをされたきっかけを聞いたところ、「子供向けの木工ワークショップを熱心にやっていた際に大工見習いの若者達が所属する社名を記憶していたから。」との答えが帰ってきて驚きました。収益を上げるのを目的にしない、純粋に環境を守るために私たちに出来る事を行う姿勢に共感されて、それが会社自体の信頼に転換されたことで工事の受注に繋がった例ですが、実はその様な水面下の影響は私たちが認知しているよりも多くあるのかも知れません。

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共感が持続可能なビジネスモデルを支える

株式会社四方継では大工の育成、地元産木材の活用以外にも循環型社会を標榜しての取り組みを事業部を立ち上げて進めています。地域コミュニティーサービスを行う「つない堂」では、創業からこれまでの20年間で私たちとご縁を頂いた個人と法人を含めた方々に会員になってもらい、その方達向けに地域で頑張っておられる信頼できる人やサービスを紹介したり、困った時になんでも相談いただく窓口を開設して会員の専門家を紹介する無料サービス等、地域で経済が循環する仕組みを構築しています。有料会員制のサービスではメンバーからの地域のお得情報を配信したり、建築の無料メンテナンスを拡充したり、毎月、専門家の方々とコラボして暮らしを楽しむイベントを開催したりとコミュニティーに参加してもらう価値の創造に力を入れており大変ご好評を頂いています。一見、全く収益性の取れない事業を熱心に行なっているように見えますが、そんなコミュニティーの中から建築の需要が発生した際には建築事業部の「つむぎ建築舎」で適正価格で工事を引き受けることで、私たちが広告宣伝や営業マンなどの間接人員を抱えることなく、販管費を抑えながら収益をあげて事業を持続できる根拠としています。リアルに共感を積み重ねることで持続可能な循環型のビジネスモデルの構築を図っているのです。

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本当に大事なのは目に見えないモノ

ここまで5回に渡って5つの経営資源(ヒト、カネ、モノ、情報、共感)を切り口に、時代の要請でもあり、本質への回帰でもある持続可能な循環型ビジネスモデルへのシフトについて地域に根差す工務店の立場で考察を重ねてみました。その全ての根本は信頼関係の構築であり、信頼を得られる意図を持っているかにかかっています。青臭い理想論に感じられる方もおられるかも知れませんが、良き意図を持って、良き行いをすれば良き結果が巡ってくるというのは洋の東西を問わず古来から繰り返し言われ続けたことであり、聖書に次いで世界で2番目に多く読まれたと言われる書籍「星の王子さま」の一節にある「本当に大事なのは目に見えないものなんだよ」との言葉こそ、この世の真理であると思いますし、そう信じたいとも思います。
次世代を担う子供達に、この世界は良き心が報われる、決して捨てたもんじゃない良い世界だと希望を持って引き継げる様に、私たち大人は今こそ、目に見えないモノ、心や魂、意図の価値を認め、それを実際の行動に移すべき時だと思います。それが、共感資本の活用であり、持続可能な自立循環型社会へとシフトする入り口になると思うのです。

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