なじみが薄かった『竣工図』というもの
ずっと木造戸建て住宅の仕事をしていたので、マンションリノベーションに携わることになって初めてマンションの『竣工図』というものを手に取ることになりました。
『竣工図』とは、工事中に発生した設計変更などをもとに設計図を修正し、実際に竣工した建物を正確に表した図面のことで、将来の修繕やリノベーションの際には大変重要な資料となります。しかし、実際には物件によって内容や保管方法など様々で、リノベーションの担当者は右往左往することも多いのです。
まず、『竣工図』と表紙に書いてあっても決して鵜呑みには出来ません。設計変更が反映されていない設計図に表紙だけ竣工図としてある場合も普通にあるからです。また、保管は管理組合により管理室内に鍵付きの専用保管場所を設けることが原則です。そして紛失を避けるため貸し出し厳禁になっているのが一般的です。通常のマンション管理室にはコピー機はありませんので、管理室近辺で写真撮りさせてもらうことがほとんどでした。たまに貸し出ししてくれる親切な(別名ゆるい)管理人さんもいらっしゃいましたが…
しかし、管理室が狭くて専用の場所もなく管理人さんのロッカーの上の段ボールに入っていたりすることもあります。また、管理室に常備されていなくて管理会社でデータ化され保管、個別に連絡して必要な図面をもらわないといけないケースもあります。こういう時はえらく時間がかかる場合もあり要注意です。中には管理会社が管理物件であるマンション内でのリフォーム受注ノルマがあったりして我々外部業者に対してこころよく対応してもらえないこともあったりします。
↑築35年以上の竣工図に入っていた手描きの断面図(植栽まで描き込まれています)
青焼きの折り目や端っこが黄色く焼けて、いい感じでヴィンテージ感が出ています。ほのかに、あの酸っぱい匂いがします。表記もテンプレート定規と几帳面なフリーハンド手描きです。
↑同じ物件の玄関上り框付近の詳細図(マンションとは思えない手作り感が漂ってきます)
手描きの味とともに、大工さんに図面でもってどのように作るのか伝えようとする設計者の「気概」を感じます。
『竣工図』新旧比較
最新の新築マンションの『竣工図』は、管理組合の意識や法令の改正などの影響もあって変化しているものと思いますが、リノベーション工事の依頼をいただく物件は10年以上は以前のものがほとんどです。なので、目にする『竣工図』は築10年〜40年といった幅のものが多いです。1980年代〜2010年代の建物ですから、作図技術の進化もめざましい期間です。出会った図面の中から、新旧比較をしてみます。
↑築35年以上の物件の内部建具まわりの詳細図(既製品が珍しかった時代の空気を感じます)
まだ既製品の建具や枠は普及していなくて、当時は建具屋さんに製作してもらうのが前提の時代だったようです。図面の左下には『三越』のマークが。ひょっとすると内装の設計・施工は三越の内装工事部門の手によるものかもしれません。
↑築21年の物件の建具表(コピペ感がします)
既製品のドアとドア枠の使用が前提になってくると設計者は建具そのものを設計しないので、詳細図はなく建具表だけになっていきます。『竣工図』を製本する際の複写も青焼きではなくモノクロコピーになってきます。マンションの『竣工図』の中に、時代の変化が綴じ込まれています。
↑手描きの電気図。同じタイプの階によるバリエーションを上下に描き分けています。(適度に余白があって見やすいです)
↑築21年の物件のCADによる電気図(CAD図は線が多くてモノクロで紙に印刷すると見にくいです)
CADの場合パソコン上でレイヤー(階層)別に分けて描いておいて、後で重ねて合体して印刷できるためか、情報満載すぎて解読困難な密度になりがちです。このあたりが手描き図面と違う気がします。
↑築18年の竣工図に入っていたCADによる断面図
CADによる断面図は手描き時代に比べると設計・作図内容も凝ってないと言うかこころなしかコピペ感があります。自分の手で描かないので色々な線が重なりがちで見にくいのです。近年、マンション物件の設計も良く言えば合理的、悪く言えば画一的にだんだんとなっていったのでしょう。表記はすべてパソコンのフォントになっています。CAD図面は正確で優秀である一方で間違いに気づくことが難しい代物です。単なるコピペであっても、ちゃんと描いてあるように見えてしまうからです。よく考えられたものがパッと分かるのが手描きの良さであったように思います。
『竣工図』から読み取れるもの
依頼があって取り組むマンション物件の、年代やその建物の設計者・施工者によって『竣工図』に記される情報の質たるものは様々です。実際にマンションの部屋の内装を解体してみると分電盤を含む電気配線や火災報知器などの電気系、ガス配管や給排水管の位置、排気ダクトの経路などは実際の現場の状況と違っていることはそんなに珍しいことではありません。製本の表紙に『竣工図』と書いてあってもあてにはなりません。『竣工図』は取り立てて販売段階では重視されることのないものですし、「施工者のみぞ知る」といった一面もあります。そういう意味では『つくり手』の、将来への責任感とその考え方が現れたものになっているとも言えます。
図面に記されている設計者名や施工者名を見るにつけ、今はもう存在しない企業名が多いのも受け入れるべき現実かと思います。建築された物件そのものの寿命に比して、携わった企業や人材は想像以上に短命であることには、やはり驚かされます。それ故に、残された図面から可能な限り現状を推し量るものを読み取るしかありません。しかし、腰を据えてじっくり読み取っていくと、見ようによっては『竣工図』が建築当時の様々な背景を語りかけてくるような気がします。
あなたの会社ではリノベーション計画を行う際、マンションの竣工図の全体構成を把握されていますか?また、可能な限りの図面情報から現状の見えない部分の状況を推測できるよう竣工図の手配・入手をされていますか?
リノベ的マンション竣工図考(2) へつづく
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