リノベ的マンション竣工図考(1) から続く
●「竣工図」から得られる情報とは?
マンション物件のリノベーション工事を計画する際、どの程度事前の情報が得られるかで提案の精度がかなり変わってきます。
というのも、どうしても事前情報に見えない部分や不確定要素が多ければ多いほど、実現性の確実な『安全策』をとってしまうからです。『安全策』とは、どんなものでしょうか?
具体的に例を挙げると、
●床下のスペース確保のために床高さが高くなったり、室内での段差のある提案になったり
●配線・配管などのスペースの余裕を各所に取りすぎることでデッドスペースが増えてしまう
●結果として、取れたかもしれない細かな収納スペースなどの余地を失ってしまう
といったことが知らず知らずのうちに積み重なってしまいます。言い換えると、せっかくのリノベーション提案が(住まい手の皆さんがとても不満を持っている)新築のマンションプランに近いものになってしまうという事を意味しています。不確定要素があればあるほどに、設計や提案内容がどうしても消極的になってしまう訳です。
そうならないためには、やはり『竣工図』の情報は正確かつ多いに越したことはありません。正確であることは理由を言うまでもありませんが、情報が多くあると何が良いのでしょうか?それは、ある情報に対して他の情報で裏付けが取れて、図面上の矛盾点や間違いに気づくことが容易になるから良いのです。
また、しっかりした管理会社(施工会社かもしれません)の場合は、施工写真がある場合もあります。工事中に、完成してしまうと見えなくなる部分を各工程毎に撮影した写真集です。こういうものがあると、竣工図
と合わせて見ることで非常にリノベーション計画の際に助かります。以下、実例をあげて見ていきましょう。
↑【良い例】→ 部屋毎の『設計変更図』
このように施工中に変更のあった箇所を部屋毎に分けた『設計変更図』として付けてあるケースは古い物件では稀です。オプションメニュー対応などのあった比較的新しい物件に多いようです。
↑ 【非常に良い例】→ 床下の様子がわかる施工写真
↑ 【非常に良い例】→ 間仕切り壁の中の造りがわかる施工写真
↑ 【非常に良い例】→ 天井下地の造りがわかる施工写真
↑ 【非常に良い例】→ パイプスペースの中の配管接続がわかる施工写真
このような資料はまず無いと考えておいた方がいいと思います。
施行中に撮影したものはあったとしても、最終的に管理室に常時保管されているという事はあまり期待できないのです。
いちばん最初に関わった物件の管理室にはこのような施工写真集が保管してあって、管理人さんが見せて下さったのでとても助かりました。何しろ、解体しないと見えない部分がほぼ全部にわたって写真で確認できるのですから。これから頭をひねってリノベーション工事の計画をしようという者にとっては、これ程嬉しいことはありません。 そういう意味で、私の場合は大変ラッキーだったと言えると思います。
●「竣工図」≠「間取り図」
このコラムの多くはプロの方々ですから「釈迦に説法」かと思いますが「竣工図」と「間取り図」は違うものです。一般的な話ですが、住まい手の方々が手持ちでお持ちなのはパンフレット類であったりして「間取り図」です。「間取り図」は「平面図」のみであることがほとんどで、寸法が入っていないことが多く細かい部分は実際とかなり違っていたりします。一方、「竣工図」は「平面図」以外に「構造図」「断面図」「電気設備図」などの様々な図面が含まれています。もちろんそれぞれには寸法が示されています。こういった複数の図面があることで、色々な要素の裏付けがはっきりしてくるのです。
↑ パンフレット・広告用の間取図(というよりイラスト)
このようなパンフレットや広告に載っている間取図はよく間違っていたりします。壁の厚みや各所の寸法関係などはかなり適当だったりします。広告用の間取図は設計者の手を離れて広告業者さんのデザイナーさんが一部修正したり加工している場合もあるからです。
余談ですが、その中でも特に中古マンションの広告用間取図は危険です。(不動産屋さんがパンフレットのコピーを切り貼りしていたりしていて、中には部屋タイプが間違っていたり反転プランだったりすることもあります)
↑ 建物の軸組(骨組み)のサイズや中の鉄筋の配筋仕様をあらわす平面的な図(一般に伏図といい、柱・梁キープランと書かれていることもあります)
この種の図面は、上からみた平面的な図(伏図)と横から見た立面的な図(軸組図)というものもセットになっています。その両方を見る事で、立体的に建物の骨組みがどこでどのように組み合わされているのかがもれなく把握でき、部屋の中でどの程度出っ張ってきているかなども再現することができます。
慣れた設計者はこれらの図面から鉄筋コンクリート部分を再現して、解体後のスケルトン(建物の構造体のみの状態で内装が一切ない状態)になった際の内寸を割り出してくれます。この寸法が理論上の解体後の内法寸法=占有部分の空間の寸法ということになります。占有部分とは、一般的なマンション管理規約で定められている、所有者がリノベーション工事を行える対象範囲です。
↑ 柱(垂直方向に立つ構造部材)のサイズ・配筋仕様の一覧表(部材リスト図と呼ばれます)
↑ 梁(水平方向にかかる構造部材)のサイズ・配筋仕様の一覧表(部材リスト図と呼ばれます)
●「竣工図」には「トラップ」がいっぱい
こういった複雑できっちりしたCAD図面をみていると正しい情報のような印象を持ってしまいがちですが、そうとも限らないところは今も昔もそうは変わりません。むしろ、図面の表情が均一であるCAD図面は直感的に間違いに気付きにくい側面があります。実際には「トラップ」だらけです。
特に最近では部材リストなどはその都度描くのではなく、共通化して複数の物件に利用していることも多いのです。実際には、現場毎に柱や梁サイズなどが若干変わっていたりすることも現実にはあります。こういった内容は販売上あまり影響がないので、竣工図での修正がなされないことが多くなるのだと思います。
もちろん何もないよりは、あった方がいいのですが、住まい手(お客様)から見れば図面を読み取ることはプロとしてあたりまえの事です。仮に「竣工図」が間違っていたとしても、それを見破れなかった技術者の評価は著しく低いものになることは免れません。「図面」は技術者にとっての「言葉」であるからです。
手間がかかったとしても「竣工図」や「施工写真」は、可能な限り情報を持ち帰ること。落ち着いて複数の情報から「真実」を読み取ること。最終的には解体後、きちんと実測し確認すること。「付加価値」を追求する以上、プロとしての慎重な姿勢が求められます。
あなたの会社ではリノベーション計画を行う際、マンションの竣工図の情報が現場と相違しているかもしれないという前提を持ってい臨んでいますか?また、解体後にその相違を発見できるような視点で現場実測作業をされていますか?
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■マンションリノベ ■しくじり先生
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