[第21回]工務店経営実践「利益確保」

2022/10/0308:22549人が見ました

 SOLT.の青木隆行です。コロナ禍やロシアのウクライナ進行などから住宅用建材は軒並み値上がりしました。通常の物流ルートであれば2019年と比べ、販売単価が坪単価で1015万円以上は上がっているでしょう。大手ハウスメーカーはすでに2019年時点で坪単価100万円前後となっており、現在の坪単価は120万円前後まで上がっているとも言われています。

 このような状況下で多くの工務店は「減益」を強いられています。コロナ禍で住宅需要が伸びたけれども「契約⇒完工間」でコストが上がってしまい、お施主さまから追加金額をもらえずに利益率が下がってしまったというパターンです。

 コロナ禍当初のタイミングではその後の受注減の可能性も考えられたので、当初の対応はある意味仕方がないとも思いますが、肝心なのは受注が安定的にあることを確認するタイミングでしっかり値上げが出来たかという点でしょう。いきなり10万円程度の値上げというのは比較的安定していた過去の原価からすると尻込みしそうですし、競合他社の状況も見なければいけないという考えもあったでしょう。しかし、経営判断のスピードが会社の損益を大きく左右するという事は、多くの方が実感されたのではないでしょうか。

 では今後利益を確保するためにどうすればよいでしょうか。

 

1.売価を上げる(適正価格の確保)

 私の知る限り、地域工務店の粗利率は15%以下から35%前後まで様々です(今回は社員の人件費をすべて販売費・一般管理費に算入した形で表します)。同じ3000万円の住宅でも、粗利が450万円~1050万円まであるということになります。A社で2棟受注してもB社の1棟分の粗利に及ばない、そのようなケースさえあるのです。

 粗利率は自社の家づくりに対するプライドや品質への自信と比例していると考えています。地域工務店は経営の持続性の観点からも最低粗利25%を確保する必要があるでしょう。すなわち、正々堂々と原価に25~30%の粗利を乗せて販売できるような家づくりが必要になります。住宅着工減少の時代で薄利多売をしながら真面目に商売をするという形はもはや「ムリゲー」であり、適正利潤を確保するために自社の強みを明確にするべきでしょう。

 

実例1)販売価格を上げ、①住宅性能の明確化、②標準仕様の見直し、③住宅デザインの統一を行った事例

※粗利の確保策は複数ありますが、ここでは売価を上げる形をご紹介します。

・坪単価を15万円上げ粗利率を確保(想定30%)

・耐震等級3、断熱等級6(この工務店施工エリアではUA値0.46)の確保

・光熱費の高騰を考慮し、オール電化・太陽光パネル4Kw標準搭載

・凹凸のないシンプルな外観と、国産自然素材(主に広葉樹)を活用したナチュラルな内観 

 このような明快な答えを出すことによって、家づくりの理念や戦略に統一感が産まれ、さらに営業トークにも一貫性が出てきます。まずは体制づくりも重要ですが、思い切って住宅価格を上げた方が見えてくるものもあると思います。何をお伝えしたいかというと、状況の変化に即応できるスピード感も重要だということです。

 もちろん無闇に単価を上げるだけではなく、建物の架構や形状、窓の形を整えるなどコストダウンとデザイン性の観点からよく検討して高性能・自然素材・ハイデザインの素敵な家づくりを実現する必要性があります。但し、ローコスト住宅の工務店が中高級住宅へシフトする際には理念構築から戦略展開まで大幅な見直しが必要になりますので、よく計画していかなければなりません。

 いずれにせよ、平時から価格帯をシフトできる商品を準備しておくことがスピード感のある対応につながります。

 

2.販売費・一般管理費を抑える(分度の経営)

 粗利を確保しただけでは会社の収益性が高まったとは言えません。今度は販売費・一般管理費(販管費)に着目して「入るを量って出を制す」つまり、分度の経営を進めていく事も重要です。粗利から販管費を差し引いたものが営業利益となりますので、「粗利率-販管費率=営業利益率」となります。理想的な形は「粗利率30%-販管費率20%=営業利益率10%」です。

 営業から工務までを正社員で雇用しているフルスペック型工務店で営業利益率10%を出すのは難易度が高いですが、販管費を削ぎ落して営業利益率を極限まで上げるチャレンジをされるのは、やがて来る住宅着工減少時代に向けた筋肉質な工務店づくりに最適かもしれません。私の思う「現代にマッチするバランスの取れた販管費」の考え方としては下記のとおりです。

 

・適正人数の社員を雇用(一人当たり売上60百万円・同粗利15百万円)

・採用した社員の人件費は極力落とさない(成果を挙げた分だけ)

・あぶれた業務は外注を使って固定費を変動費化する

・広告宣伝費は売上の2~3%を確保

・その他の無駄な経費を極限まで省いていく(経営者の考え方にもよるが)

・業務のデジタル化などによる簡略化・効率化

 

値決めは経営

 先日惜しまれつつもお亡くなりになられた稲盛和夫さんは「値決めは経営」だとおっしゃっています。

「経営の死命を制するのは値決めです。値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあると言えます。どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。」(稲盛和夫OFFICIALSITEより抜粋)

 今後懸念されているリセッションなど外部環境が大きく変化してくる際にはまた違った経営判断が求められるでしょう。不確実な時代には衆知を集めたうえで、(ある意味的確さよりも)迅速な経営判断が求められています。ただ、基本的に利益確保については魔法のようなものはなく、凡事徹底とその継続にあると考えています。

一覧へ戻る