【第29回】 地域工務店の経営戦略の実例⑮『高齢化が進んでいる工務店の採用・育成戦略とその手法』 

2024/05/1314:22267人が見ました

〇5~10年後の工務店が危ない 

 日本は世界に例を見ないほどの少子高齢化・人口減少が進んでいる国です。2023の年出生数は過去最少の75.8万人(出生率は1.20前後)、人口減は初の80万人超となり、浜松市や新潟市などの地方都市が1年間で1つ減少したことになります。また2~3年後の出生数に影響を与える婚姻数は、2023年47.6万組と前年対比5.8%減となる見通しで、今後も出生数が減少し人口減少に歯止めがかからないことが予想されます。

 もちろんこれは住宅着工棟数にも大きな影響がありますが、実は働く側の高齢化にもつながっていることになります。実際に地域工務店の皆さまの実情を伺いますと、年齢的には40代後半~60代の社員さんの割合が多く、20~30代の社員さんが非常に少なく感じます。年齢別に社員構成を見た場合、逆ピラミッド型またはひょうたん型(30代が極端に少ない)形になっているケースも多くあります。いま50歳の方は10年経てば当然60歳になります。確かに高齢化しているがまだまだ仕事ができると考えておられるかも知れませんが、そうは言っても体力的な衰えは出てくるでしょう。また、社員の若返りを図ろうとしても世の中は超採用難の時代であることで採用コストもかかり、仮に採用できたとしても戦力化までにも相応の時間がかかることなどの課題があります。特に地方の中小工務店は採用困難な時代となっているのです。

 他方、一般的に注文住宅を主業としている地域の工務店で新卒社員が戦力化するには3年前後かかると言われていますが、これは社内の育成システムが整っていないことが要因とも考えられます。社員育成は中間管理職が担うことが多いのですが、プレイングマネージャーのケースがほとんどで社員育成しようにもその時間がありません。実際に育成した経験もほとんどなく実務が忙しい状態で、昨今『中間管理職は罰ゲーム化している』とさえ言われているそうです。多くの地域工務店では事業承継も進み経営者の若返りは少しずつ進んではいますが、実は社員のノウハウの承継も必須であり、ここからどのような戦略をとるかは存続のかかる重要事項なのです。


〇社員の高齢化対策は『採用と育成』 

 このような状況下で社員の高齢化、社内のナレッジ・ノウハウの承継にはどのような対策が考えられるでしょうか。中長期的な経営を考えて、まずは自社社員の年齢分布を確認し、中途・新卒を問わず若手社員の積極的な採用をしておく必要があります。さらに採用するだけではなく育成システムも構築しておく必要があります。採用には相応のコストがかかり自社の収益状況などを考えながら予算を準備しておかなければなりません。2019年にマイナビが実施した調査によると、非上場会社の平均採用コストは375.1万円となっています。またリクルート社が2020年に調査した1人当たりの平均採用コストは、新卒が93.6万円、中途が103.3万円となっています。昨今の人手不足や物価高から採用コストはさらに上がっていると思われます。

 目算ではありまが、今後の採用予算としては粗利益の2~5%を使っておく必要があるでしょう。将来を見越してこの程度のコスト(≒人材投資)は必要であると考えます。また、これだけのお金を使うからには長く勤めてもらうための育成システムも重要となります。離職率が低いと採用コストは一時的なものとなり、収益を圧迫することはなくなります。これらを効果的に回していくためにはビジョンに向かう健全な組織風土づくりやブランディングなど、より本質的な対策が求められます。

 このように、高齢化が進んでいる地域工務店が健全な組織づくりを実現していくには採用と育成が必須であり、そのためには①収益性の確保②育成システムの構築③ブランディング(アウターブランディング・インナーブランディング)などが必要です。これらは一朝一夕にはできませんので、社員の高齢化が経営課題だと考えておられる経営者は一刻も早く手を打っていかなければならないのではないでしょうか。


〇具体的な手法とは 

 自社の3年後5年後をどのように描くかによって進め方は大きく違うのですが、今回は地域工務店として維持拡大を目指しておられる方という設定で話を進めます。そして机上の空論にしないために、ここからはより具体的な手法をお伝えすることにします。採用に関して基本的な手法としては採用サイトの制作やマイナビ・リクナビをはじめとしたリクルート会社への登録、また人材紹介会社の活用によるヘッドハンティングなどがあります。まずこれらを選択実行するための予算を立ててスピーディーに遂行することが必要です。

 下記に、より具体的な手法の実例を7つほど列挙してみました。会社のバックボーンや規模、現在の組織体制などによって向き不向きがあるとは思いますが、よろしければ参考にしてみてください。

①設計志望社員の採用
設計志望の社員を採用し、設計営業体制で生産性向上を図る。社員の増加に耐えられるように効率化が可能であり、家づくりが好きな集団が出来上がる。営業・設計・工事とローテーションをすることで将来の経営者候補も育成可能。

②セミオーダー住宅の商品開発
営業ステップのルール化が進むとともに現場でのイレギュラー対応も限定されるため、若手社員の育成に役立つ。また間取り・デザイン・素材・性能などをよく考えた商品開発をすることでブランディングも可能。

③プレイングマネージャーの役割明確化
社員育成の重要性を説き、プレイとマネジメント(特に育成)の時間を割り振るように進める。またマネージャーの社員育成に対する評価を明確化する。

④リフォーム事業の拡大
新築住宅の着工減少や設計工数の長期化などの課題解決のために収益性向上や短工期での売上計上などに貢献するリフォーム事業を展開強化する。(目標売上は前年比2倍)

⑤効果的な採用と育成
社内リソースが限られる場合は、外部研修やコンサルタントを使い採用・育成を行う。自社の課題感がどこにあるのか特定することも重要。(採用全般・営業マン育成・設計デザイン強化・組織風土改善など様々な課題があると思われるので優先順位を決める)

⑥福利厚生の充実
社員の給与水準を調査し、エリア内の同業平均以上の水準に設定する。業績貢献に対する評価も明確化すると同時に、働き方改革に適した体制づくりを行うこと。ここでは助成金などもうまく使うべし。

⑦つながりを強化する施策
社員との1on1ミーティングを行い、定期的な懇親の場を設ける。コロナ禍でコミュニケーションが希薄化しており、連携強化や離職防止に努めるためつながり強化に意識を向け組織風土の醸成に努める。

これらは実際に地域工務店で実践されていることであり、効果が上がっているケースもあります。是非優先順位をつけて進めてみてください。

 

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