No.03 ススメその1 モノではなくコトから考える

2019/08/1717:111019人が見ました

これまで2回にわたって「デザイン」そして「マーケティンング」という言葉について説明しました。いよいよ今回から具体的な話に進んでみたいと思います。今回のテーマは「モノとコト」です。

【これまでの記事】
No.01 そもそも話1 謎のコトバ「デザイン」とは?
No.02 そもそも話2 魅惑のコトバ「マーケティング」とは?

 

起:「わたしたちが売っているのは何ですか?」

いきなりですが、これを読んでいる読者の方々に素朴な疑問を投げかけてみたいと思います。

みなさんが売っているものはなんですか?

チカラボは「Webとリアルで学ぶオープンな住宅スクール」なので、多くの方が頭の中に「住宅」という言葉を思い浮かべたかと思います。さて、果たして我々が売っているのは本当に住宅なのでしょうか?

マーケティング的には「住宅」で正解かもしれませんが、デザイン的には不正解です。もし、この質問に対して頭の中に「暮らし」といったような言葉を思い浮かべたとしたらデザインのセンスがある方だと思います。さて、何故「住宅」は不正解で「暮らし」は正解なのでしょうか?

これもユーザー視点に立ってみると徐々に分かってきます。そもそも住宅を建てるお客様は、どのようなプロセスを経て自社にたどり着くのでしょうか?まずはこれを考えてみましょう。

家を建てようとするには動機が必要です。例えば「結婚した」「子供が生まれた」「なんか今の家に手狭感がある」など、理由は人それぞれかと思いますが、住まいのことを考え始める瞬間があります。これが動機です。

さて、その時お客様は何を考えるでしょうか?きっとこんな感じでは無いでしょうか?

そろそろ本気で住まいのことを考えなきゃいけないなぁ。あー、どうしよう。このまま今の賃貸で暮らすか?それとも一軒家を建てちゃうか…マンションにしようか…、いっそ中古の家でも買ってオシャレにリノベーションしようか…。あー、どうしよう。

もちろん「一軒家を建てるぞ」と最初から決めているパターンもあるとは思いますが、実はこの「あー、どうしよう」と考えている中に重要なヒントが隠されています。それは「戸建住宅以外も選択肢として考えている」点です。どういうことかというと「戸建住宅」自体が選択肢のひとつでしかないということです。

普通、「あー、幸せになろうか不幸になろうか、どうしよう」と迷う人がいないことからお分かりの通り、選択肢で迷う時は基本的に「目的を達成する手段としてどれが最適か?」で迷います。つまり「戸建住宅」は「手段」でしかありません。ではこの時、お客様は何を欲しているかというと「その手段を使った新たな暮らし」、つまり「新たな状態」です。戸建住宅そのものを欲しているワケではありません。

 

承:「モノとコトで整理する」

さて、これらを踏まえて最初の質問へと戻ってみたいと思います。まず、「お客様が買いに来ているのは”新たな状態”」であって家ではありません。であれば、家を売ってもお客様は買ってくれないですよね。つまり、我々が売るべきは「家」ではなくて「新たな状態(暮らし)」です。なんか、とんち問題のように聞こえるかもしれませんが、実はこの違いが大きな意味を持ちます。

と、この違いを上手に整理するために、筆者がオススメする方法は「モノとコトで整理する」方法です。実はこの「モノ」と「コト」の違いを厳密に説明しようとすると、ものすごく長くなってしまうのですが、極めて乱暴かつ簡単に説明すると「モノ=手段、コト=出来事」となります。住宅の場合、時間軸がとても長いので「コト=出来事」としてしまうと分かりにくいので、ここは「コト=状態」とした方が合っているかもしれません。

これらを踏まえて先ほどの話をモノとコトで整理すると「お客様が望む新たな状態=コト」で「戸建住宅=モノ」となります。

このようにモノとコトで整理してみると一体何が変わるのでしょうか?

実は色々と変わってくるのですが、一番わかり易いのは住宅営業の場面をかもしれません。住宅営業のみなさんは、住宅展示場にご来場いただいたお客様に対してどのような説明をしているでしょうか?こんなような説明をしてはいませんか?

弊社の住宅は国産ヒノキを使用した高気密・高断熱住宅で、一年中快適です。木材も厳選された最高の天然木を使用し、木のぬくもりと香りに包まれた…(中略)…職人のこだわりが随所に活かされた住宅で…(中略)…この工法によって耐震性が確保され、窓も大きく取ることが出来ます。

これは「よくある残念なパターン」だと個人的には思っています。さてこの説明、どこが残念なのでしょうか?それは、これらすべてが「モノの説明」をしている点です。お客様が欲しているのは「新たな状態(コト)」なのに、モノの説明を延々とされてもうんざりしてしまいます。なぜなら、本質的にはモノに対して興味は無いのですから。

では、どういう説明をするのがよいのでしょうか?それは「コトから始まってモノを説明する」です。例えば天然木であれば、

ところで薄っすら木のイイ香りがしません?これは人の好みだと思いますが、家に帰った時に「あ〜、何か癒やされる香りがするなぁ…」なんて感じたいならば弊社はオススメです。というのも、弊社はすべて天然木かつ天然乾燥なので、香りがいつまでも続くのが特徴なものでして…。

といった感じでしょうか。この説明のポイントは「家に帰った時に起こる状態=コト」をまず説明し、お客様にもその状態を頭の中に思い浮かべてもらった上で「それは天然木という手段で実現されます=モノ」の説明をするという点です。つまり、コトに対するモノの必然性を説明することで、モノに意味や価値が生じるのです。モノだけ説明しても、それに意味や価値は生じません。コトが付随して初めて意味は生じます。

ほんの少しの違いですが、営業活動としては大きな違いが出ます。そして、この説明が最も上手なのが「ジャパネットたかた」のようなテレビショッピングだと個人的には思っています。彼らは必ず最初に「コト」を説明し、その後に「モノ」の説明をします。見るたびに説明の上手さに思わずため息が出てしまいます。

モノとコト

ということで、マーケティングを考える上で大事なのは、商品を開発するにせよ売るにせよ

「モノ」だけを見るのではなく、まず「コト」を考えてからモノを見る

という姿勢だといえます。筆者もデザインの大学教員なので、演習授業などで「○○の新しいデザインを考えよ」といったお題を学生に課すのですが、その際にいつも言うのは「モノだけ考えても誰も買ってくれないよ」という言葉です。ちょうど先日「江東区の交流人口が増やすような新たなデザインを考えよう」というお題の演習授業があったのですが、その際にコンセプトを考える際にもモノとコトで整理しました。ちょうどホワイトボードの写真があったので参考までに載せておきます。モノとコトの関係について理解する足しになれば幸いです。

モノとコトの事例

 

転:「コトを売っているならば?」

さて、モノとコトの関係性についてはお分かりいただけたかと思いますが、実は話の核心は違うところにあります。それは何かというと「お客様もコトに興味があって我々もコトを売る」と考えたら、何か根本的に間違っていることってありませんか?という話です。

それは、営業活動のあり方です。単にモノを売るのであれば、家を建てて引き渡しが終わったらそれで完了です。ですが、コトを売るのであれば、そこからが「始まり」です。人口増加の状態であれば「モノ売り」も成立すると思いますが、人口減少の最中にあって「モノ売り」は成立しません。なぜなら、未開拓のブルーオーシャンはどんどん無くなっていくからです。むしろ、群雄割拠のレッドオーシャンの中にあって「家を建てた」ということを「絆が始まった証」として考え、「ともに歩む仲間を増やしていく」という風に考えなければ、すぐに淘汰されてしまうと思います。

そのキーになる考え方が「家を建てる=コトの始まり」だと個人的には考えています。

実は、ネストハウスさんと共同で開発した「タイムライン型顧客管理システム Scoope」も、この考え方をベースに組み立てられています。とはいえ、いきなり考え方をガラッと変えるのも難しいと思いますし、変えたところで劇的に何かが変化するワケではないので、効果も見えづらいのですが、今後何十年という単位で物事を考える時には大事になるのではないかと思っています。

 

結:「実はマーケティングも売ったら終わりが前提」

「売ったら始まる」はシステムやサービス業では比較的当たり前になりつつある感覚ではありますが、世の中的にはまだまだ浸透していない考え方なのかなぁとも思っています。それはマーケティングでよく出てくる「4P・4C理論」を見るとそう感じます。ということで「4P・4C理論」について簡単に説明してみます。

「4P・4C理論」とは、マーケティング活動において効果的に組み合わせて考えるべき視点のことで、4PはProduct(製品)、Price(価格)、Place(場所・経路)、Promotion(販売促進)、4CはCustomer Value(顧客価値)、Cost(経費)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)を指します。4Cは「4Pも顧客視点から考えるべきだ」という考えのもと再定義された視点なので、4Pと対応関係にあります。対応関係は以下の通りです。

Product(製品) ― Customer Value(顧客価値)
Price(価格) ― Cost(経費)
Place(場所・経路) ― Convenience(利便性)
Promotion(販売促進) ― Communication(コミュニケーション)

どうでしょう?これもどこか「売ったら終わり」といった感じがしませんか?もちろんそういう性質の商品も世の中にはたくさんあるので、これはこれで間違いではない気がしますが、住宅業界にはあまりフィットしない考え方なのではないかと感じています。

住宅業界としては、特に4番目の「Promotion – Communication」の部分が変わってきている気がします。ということで、せっかくなので「住宅業界版4P・4C」を考えてみました。それがこれです。

Product(製品) ― Customer Value(顧客価値)
Price(価格) ― Cost(経費)
Place(場所・経路) ― Convenience(利便性)
Participation(関与) ― Collaboration(協同)

4番目しか変わっていないのですが、Promotionのように「何とかして売ろう」というよりかは「どうやったらお客様の人生に関われ始められるか?」を考えた方が建設的ですし、お客様にとっては単なるコミュニケーションではなく、一生をともにするパートナーを探すようなものだと思えば、お互いにとって幸せなのではないか?と思うのです。

これもほんのちょっとの違いですが、結果的に大きな違いを生み出す気がします。こうして住宅業界に関わらせていただいてみて、最近思ったのは「家を建てるって結婚相手を探すのに似ているなぁ」ということです。これまたご縁があって、最近とあるメーカーさんとお客様向けの冊子づくりに挑戦しているのですが、フレーズや言い回しを考えるのにあたってゼクシィをはじめとした結婚情報誌を読み漁っています。その中にある色んなフレーズを住宅に置き換えてみているのですが、案外フィットします。もしよかったら試してみてください。

と、最後は余談になってしまいましたが、「モノとコト」「住宅は建ててから始まる」の2つは大事にしていただければなぁと思います。次回は差別化のお話です。

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