No.02 そもそも話2 魅惑のコトバ「マーケティング」とは?

2019/08/0915:46369人が見ました

このルームのお題は「デザインの観点からマーケティングをもう一度見直してみる」ということで、前回は「デザイン」という言葉についてザッと説明しました。今回は「マーケティング」という言葉について簡単に説明してみたいと思います。なかなか本題に進まないところですが、前提は大事だと思いますので、しばしお付き合いください。

【これまでの記事】
No.01 そもそも話1 謎のコトバ「デザイン」とは?

 

起:「マーケティングってなんだ?」

「マーケティング」といえば、ビジネスや経営学の世界で必ずと言っていいほど登場する言葉です。ところで、果たしてその真意とは一体何なのでしょうか?分かっているようでいて、いざ「説明しろ」と言われたら「う〜ん…」となってしまう方も実は多いのではないでしょうか?

かくいう私もマーケティングの専門家ではないので、実際のところは生兵法でしかありません。ですが、本題に「マーケティング」と入れた以上は、マーケティングについて生兵法なりにでも語らなければ話が進みません。ということで、今回は「半端モノが語るマーケティング」に少しお付き合いいただければと思います。

さて、マーケティングといえば外すことのできない人物が2人います。ひとりはマーケティングの神様こと「フィリップ・コトラー(Philip Kotler/以下「コトラー」)」で、もうひとりは経営学の父こと「ピーター・ドラッカー(Peter Drucker/以下「ドラッカー」)」です。

中でもコトラーの「マーケティング・マネジメント(Marketing Management)」は世界中のマーケティング科目で教科書として採用される「マーケティングのバイブル」的な本になっています。そしてこの本は定期的にアップデートを続け、いまや第15版目に入っています(第12版からケビン・ケラー(Kevin Lane Keller)との共著になりました)。訳本もたくさん出ていますが、700ページにわたる壮大な本なので、読むだけでも大変です。ということで、700ページすべてをご紹介するのは難しいのですが、今回はこの本の中でも最も重要なエッセンスのみを抜き出してマーケティングについてお話したいと思います。

 

承:「マーケティングは営業活動ではない」

実はこの本の面白いところは、まず訂正から入ることです。冒頭に「What is Marketing?」という節があるのですが、そこでまず述べているのが、

「人々はよく、マーケティングを『製品を営業活動するための術(the art of selling products)』と考えたりしますが 〜(中略)〜 営業戦略はマーケティング氷山の一角にすぎません。

という説明です。どうやら「マーケティング=営業戦略」という誤解は全世界中で起こっているみたいです。ちょっと面白いですよね。そして、この訂正に続いてマーケティングの目的についてドラッカーの言葉を用いて説明するのですが、これまた知らない方にとっては衝撃的な一言が出ます。それがこれです。

The aim of marketing is to make selling superfluous.
(マーケティングの目的は営業行為を“不要のもの”にすることです) 」

訂正どころか「マーケティング=営業戦略」と思っていた人にとっては、真逆の一文が飛び込んでくるのです。衝撃的ですよね。そして、この話に続けてマーケティングの目的についてこのように説明しています。

「マーケティングの目的は顧客を知り、理解し、製品やサービスが顧客にフィットし、売れるようにすることです。理想的には『買う準備が出来ている顧客』という結果をもたらせばよくて、その際にすべきことは製品やサービスを利用可能にすることだけです。」

なんだか、どこかで聞いたことあるようなフレーズです。そう、前回の「デザインとは?」の段で述べた「デザインとはユーザーを中心に据えて考え、何かしらを設計する行為である」という話にかなり似ています。どちらも「ユーザーを理解し、ユーザー中心で考えよう」と述べています。デザインとマーケティング、意外なところに共通点がありました。

 

転:「デザインとマーケティングはどこが違うのか?」

私が初めてマーケティング・マネジメントを読み始めた時、この部分を読んで「あ、なんだ。デザインもマーケティングも一緒じゃん。」とかなり親近感を感じました。ところが、読み進めていくうちに少しずつ違和感を感じてきました。それはどこら辺からか?というとSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)あたりからです(実は比較的冒頭部分なのですが…)。STPについて簡単に説明すると、以下になります。

S – Segmentation:ニーズ毎に顧客をグループ化する
T – Targeting:どの顧客グループに対してアプローチするか決める
P – Positioning:顧客に対してキーとなる利益を届けて、自分のポジションを確立する

「STPの順番に沿って物事を考えましょう」というのがSTP理論の骨子なのですが、私が感じた違和感は「P」の部分です。何故、違和感を感じるかというと、「Position(位置)」と述べている時点で、競合他社との比較を前提としているからです。

この部分を読んだ時に私が感じたのは「ポジションっていうけど、ユーザーとしての自分を考えた時『この製品がどのポジションか?』なんて考えたことないけどなぁ…」ということです。なんだか一瞬にしてユーザーの話がどこかに行っちゃった気がしました。で、これをもっとよく考えてみた結果「そういえば、この本自体、ビジネスマンに向けて書いているんだから、ビジネスマン視点の言い方になるのも仕方ないか。」ということに気がつきました。彼らからすれば、あくまでユーザー視点であることに変わりは無いのです。

つまり、デザインもマーケティングも「ユーザー中心」であることに変わりはないのですが、受容側を軸足に物事を述べたのがデザイン理論で、生産側を軸足に物事を述べたのがマーケティング理論なのではないかというのが私の見立てです。いわば、目指すのは「ユーザー中心」というストライクゾーンであっても「シュート回転の軌道でアプローチするか」「スライダー回転の軌道でアプローチするか」の違いがある。といったところでしょうか。

まるで言葉遊びかのようにも聞こえるかと思いますが、この「ほんの少しの違い」によって生じる問題もあります。例えばポジショニングという話も生産側からすればそうなりますが、受容側から考えればそれは「意味(Meaning)」や「価値(Value)」という言葉になります。ユーザーにとって意味や価値があるからこそ、ポジションが確立できるわけです。結果として同じことを言っているのですが、ユーザーにとって意味や価値のないポジショニングは何の成果も生み出しません。そう考えると、単にポジショニングという言葉だけが独り歩きした場合、それはミスを生み出す可能性を高めます。であれば、この場合はポジショニングという言葉ではなく、意味や価値という言葉で考えるべきなのではないか?というのが、私の主張です。

デザインとマーケティングのアプローチ差

結:「デザイン思考型マーケティングが狙うもの」

世の中には多くのマーケティング本があります。そして、その多くは正しいことを言っていると思います。ただ、デザインという立ち位置から眺めた時に「それって、コトと次第によっては、間違いを生み出しちゃうのでは?」と思う箇所もあります。ドラッカーやコトラーの言葉に代表されるように、マーケティングが真に目指しているものは実に高尚だと思うだけに、誤解が生じる状況は個人的にも悲しくもあるのです。

もちろんデザインの理論もどちらかというと、ユーザー側に傾倒している傾向があるので、時にビジネスとして不十分な場面もあります。ならば、両方のいいとこ取りをしよう。ということで書き始めたのがこのシリーズです。なので、このシリーズではこれから「デザイン」と「マーケティング」の両方からエッセンスをいいとこ取りしてご紹介してみようかと思います。

と、ようやく前段のお話が出来ましたので、次回からは具体的な話へと進んでみたいと思います。次回は「モノとコト」を掲載する予定です。

一覧へ戻る