No.01 そもそも話1 謎のコトバ「デザイン」とは?

2019/08/0511:36485人が見ました

このルームでは「デザインの観点からマーケティングをもう一度見直してみる」というのが目的なのですが、そもそも「デザインとは何か?」ということを明らかにしなければ要領が掴みにくいところがあるかと思います。ということで、今回は「デザイン」について簡単に説明していきたいと思います。

 

起:「デザインってなんだ?」

さて、みなさんは「デザイン」という言葉を聞いた時にどんなことをイメージするでしょうか?これに関しては人によってかなりイメージが違うかと思います。ある人は「かっこいい、おしゃれ」といったような、ある人は「使いやすい、分かりやすい」といったようなことをイメージするかもしれません。

果たしてデザインとは一体何なのでしょうか?

お題として挙げておいてこんなことを言うのもなんですが、「デザインとはなにか?」について断定的に語るのはかなり難しいです。何故なら、言葉が持つ意味は時代とともに変わってしまうからです。
例えば「おどろく」という言葉は現代語においては「びっくりする」という意味ですが、平安時代の文書では「ハッと目を覚ます」といった意味で使われています。両者とも似たような意味ではありますが、微妙にニュアンスは違います。これと同様に、デザインという言葉が持つ意味も少しずつ意味が変わっているため、断定しにくいのです。
とはいえ、この問題を避けてしまうと話が続かないので、歴史を踏まえてザッと説明してみたいと思います。

 

承:デザインの近代史(超ざっくり版)

デザインという言葉はラテン語に由来があると言われていますが、その真偽は定かではありません。そんなデザインですが、言葉として定着した時期については、デザイン関係者においてある一定の共通認識があります。それは19世紀頃です。大学でデザイン史の授業を履修すると、概ねこの頃の話から始まります。

で、19世紀頃に何が起こったのかというと、アーツアンドクラフツ運動です。概ね1860年代に始まったと言われています。アーツアンドクラフツ運動を理解するには、さらにその少し前に起こった出来事を踏まえないといけません。それは何かというと、産業革命です。いわゆる「大量生産時代の到来」です。皆さんご存知の通り、大量生産によって我々は様々なモノを安く手に入れることが出来るようになりました。ですが、産業革命はメリットとデメリットの両方が存在しました。そのデメリットに対する警鐘として始まったのがアーツアンドクラフツ運動です。

アーツアンドクラフツ運動にも様々な側面が存在しますが、デザインという文脈の場合、「大量生産によってもたらされた粗悪品に対する反動」と理解されています。大量生産が起こる前は職人さんたちの手作りの時代です。現代においても「やっぱり職人さんの手作りの方がいいよね」という話があるぐらいですから、当時の大量生産品と職人さんの手作り品を比較したら、大量生産品が粗悪品にしか見えなかったのは仕方ないことだと思います。いわば「あんなものは認められない!」という話がデザインの文脈で理解するアーツアンドクラフツ運動です。

ですが、大量生産は「みんなが安くモノを手に入れることができる」というメリットもあります。そう考えると「それならば、安く良質のモノを作ればいいのでは?」と考える人が出てきても不思議ではありません。そして、実際にそういう動きが出てきます。それが、1907年に登場した「ドイツ工作連盟」です。

アーツアンドクラフツ運動が「大量生産、けしからん!」のスタンスだったの対して、ドイツ工作連盟は「大量生産、いいじゃん!」のスタンスでした。アーツアンドクラフツ運動とは真逆の姿勢です。そして、このドイツ工作連盟の活動こそが「デザインの始まり」と言われています。つまり「大量生産時代において品質を確保するための動き」がデザインの発祥といえます。

そんなこんなで始まったデザインの概念ですが、デザインを職業とする「デザイナー」が登場するようになってから若干混沌としてきます。それはアプローチの違いによって引き起こされます。実はこのアプローチの違いは2つに大別することができます。

ひとつは「ユーザーにとって魅力的なデザインを考える」アプローチで、もうひとつは「ユーザーにとって使いやすいデザインを考える」アプローチです。どちらもユーザーのことを第一に考えている点においては同じですが、途中のプロセスも成果物も全く違っていたので、徐々に「デザインってなんだっけ?」が漠然としたものになってきます。そして、この現象が今日の混沌にも繋がっている気がします。

さて、漠然とし始めたデザインの概念ですが、これを明確にしようという動きも出てきます。それがデザイン思考(Design Thinking)です。デザイン思考という言葉の発祥についても諸説ありますが、デザイン思考という言葉で主張したかったことは極めてハッキリしています。それを端的に示した言葉がこれです。

Take a human-centered approach(人間中心のアプローチをしよう)

この言葉は2008年にアメリカのデザイン事務所IDEOのCEOであるティム・ブラウン(Tim Brown)がハーバード・ビジネス・レビューに投稿した「Design Thinking」という論文中の一節です。彼はデザインの歴史を踏まえた上で、「デザイナーの行為で最も大事かつ重要なことは、ユーザーのことを第一に考える姿勢だ」と主張し、この言葉をスローガンとして掲げています。つまり、デザイン思考は一度バラけた概念をより戻そうとした動きだということが分かります。

さて、デザインにまつわる近代史を超ざっくり駆け足で説明してみましたが、ここまでの話をまとめてみると、デザインの概念は「ユーザーを第一に考える」点に関してはスタート以来変わっていない。ということが何となくお分かりいただけたかと思います。

 

転:デザインの基本的な構造

デザインが「ユーザーを中心に据えて考え、何かしらを設計する行為である」ということはお分かりいただけたかと思いますが、せっかくなので「デザインの基本的な構造」を超簡単に図式化してみたいと思います。

まず、「ユーザーを中心に据えて考える」という行為をプロセスとして考えてみます。ユーザーのことを考えるためには、頭の中でユーザーのことを想像しなければなりません。例えば友人の誕生日プレゼントを買おうとした時、商品を目の前にして「友人はこれをもらったらどんな反応をするだろうか?」と考えますよね。それです。そう考えると「頭の中にユーザーを思い浮かべる」という工程が想定できます。なるべくシンプルに物事をとらえたいので、この工程を大まかに「想像(Imagination)」としましょう。次に「何かしらを設計する」という行為について考えてみます。この場合、そのまま「設計」という言葉でもよいと思うのですが、設計を英語で表現するとDesignになってしまうので「創造(Creation)」という言葉でこれを表現します。

さて、ここに「想像」と「創造」というプロセスを発見することが出来ましたが、この2つはどのような関係性にあるのでしょう。ということで、具体的にデザインする場面を少しばかり思い浮かべてみます。例えば「新しいバケツ」をデザインするシーンを考えてみましょう。実務であればまず「既存のバケツ」を調査したりするかもしれませんが、とりあえずすべてのバケツについて知っているとした場合、「新しいバケツ…新しいバケツ…」とボヤきながら、紙に新しいバケツのアイデアを描いてみるかと思います。そして今度は、目の前に描かれた新しいバケツのアイデアを見ながら「これは新しいアイデアとして適切かどうか」を考えると思います。いわゆる「評価」ですね。その時の頭の中は、きっとこんな感じなのではないでしょうか。

そういえば、バケツといえば洗面台の下にあった気がする。で、バケツだから水を汲むよな。それは洗面台の蛇口から水を汲むんだっけ。あれ、そういえば普通のバケツって洗面台に上手く収まらないなぁ。と考えると、このアイデアも上手く洗面台に収まらない気がする。もう少し背丈を低くした方がいいかもしれないなぁ。そういえば、バケツって子供もお年寄りも使うよなぁ。そう考えるとこの取手だと持ちにくいかもしれない。もっと持ちやすい形状はないものだろうか?

ここでひとつお気づきになることはないでしょうか?それは「評価をする時に頭に思い浮かべるのはユーザーだ」ということです。つまり「ユーザーを中心に据えて考える」という行為は「評価者をユーザーにする」という宣言であることが分かります。すなわち、「想像」というプロセスの目的は「評価」にあるといえます。無論、創造という行為の前に想像が先立つケースもあります。先のバケツの事例であっても、例えば「既存のバケツを使うシーンを思い浮かべた」上で、同様のことに気がつき、そこから新たなアイデアの着想を得るケースもあるかと思います。ですが、いずれにせよ想像する段において行っているのは「評価とそこから得られる課題の発見(学習)」である点に変わりはないと思います。

つまり、これらをまとめると、デザインにおいては創造と想像のプロセスがほぼ同時的に起こり、創造によって何か新しいアイデアが想起された瞬間に、想像によってそれが評価される。という構造を見出すことが出来ます。図に表すと以下のようなものになるでしょう。

デザインの基本的な構造

これがデザインの基本構造です。つまり、デザインとは「創造と想像を繰り返しながらアイデアを修練させていき、最終的に何らかを実現化する行為」であるということが分かります。

 

結:デザインって何が特別なのか?

ここら辺で「創造と想像なんて、みんな日常で普通にやっていることじゃないか」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。まさにその通りです。実はデザインという行為そのものは、何ら特別なことではありません。例えば美容師さんであれば、お客様と会話しながら「お客様はきっとこういう髪型を望んでいるのではなかろうか?」ということを頭の中で想像し、頭の中で髪型のトライアンドエラーを繰り返した上で、「よし、きっとこれだ!」と思うものを見つけ出し、実際にカットすると思います。髪の毛をカットするという行為を「創造」と考えれば、デザインの構造と全く同じです。これと同じ構造は、例えば「友人に誕生日プレゼントを買う」「文化祭の飾り付けを考える」「後輩のために引き継ぎ資料を作る」など、日常生活のありとあらゆるところに存在します。

では、デザインのプロであるデザイナーとは何の専門家なのか?という話になるかと思いますが、これは「創造と想像の専門家」になります。この辺りはスポーツ選手や料理人と同じ構造です。スポーツも料理も「誰でも出来ます」が、そこにはプロも存在します。もちろん「プロならでは」の技術もあります。デザインもこれと同じ構造なのです。

さて、デザインについてザッと説明してみましたが、これを踏まえて本題である「デザイン思考型マーケティング」を違った言葉で言い換えると「ユーザー側の気持ちや行動を考えながらマーケティングを見直す」という話になります。

ということで、次回からは具体的な話に移ってみたいところですが、マーケティングそのものの話も少ししておいた方がよいと思いますので、次回はマーケティングについてザックリ解説してみたいと思います。

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