経営者のたいせつな仕事は「会社の目的を立てる」こと。
簡単そうに見えてこれが案外難しいのです。
その手順や ポイントを私の経験をもとにご紹介します。
目的設定がブランディングの第一歩
「あなたの会社の目的は何ですか?」と問われて即答できま すか。会社の目的とはすなわち「ブランディングの核」となる ものです。明確な目的を持たないブランドなどあり得ません。 この先新築メインで生き残る気があるなら、目的をだれにでも 理解できる形にする必要があります。逆に、ブランディングの 核さえ見つければ、それを軸に事業を回せるようになります。
真の目的を見つけるコツは、いくつか残った目的らしきもの を「1行まで絞る」ことです。
「なぜ」を深掘りして目的を探る
例として私の話を。現在当社(アンビエントホールディング ス)は元々の工務店事業(アンビエントホーム)をはじめ、工 務店向けフランチャイズ2つ、履歴と工程管理のソフト会社、 建材販売、断熱リフォームやOB向けメンテナンス、家具のe コマースといったさまざまな事業を手がけています。
別に会社をたくさんつくりたいわけではありません。すべて の事業の目的はただ1つ、「住宅を核とした住む人の生活品質 を提供すること」です。これをどうやって見つけたかというと、 ひたすら「なぜ」を深掘りした結果です。
なぜ家を買うのか。どういう家が幸せか。
まず「なぜ人は家を買うのか」という問いについて考えるこ とにしました。その解が「住む場所が必要だから」なら、既に ある住宅を借りればいい。「自分だけの家がほしい」なら、既 にある住宅を買ってリノベーションする手もある。「持ち家の 方が資産になるから」も、ほとんどの人にとって合理的な理由 にはならない。結論から言うと、「ほしいからほしい」という 刹那的な欲望だったりするのですが、果たしてそれでいいのか。 結局、人が家を買う確たる理由は見つからないままです。
ここで若干行き詰まったので、問いを「どういう家なら人は 幸福なのか」に再定義して考えることにしました。答えはたく さんありますが、「人が不幸にならない家をつくる」が私にと っての最適解でした。住宅営業を経験するなかで、何も考え ずに家を買うと不幸になる人がいることを実感したからです。 「こうなるとわかっていたら、あんな家をつくらなかったのに」 と住宅説明会で泣き出す人を何度も見ました。ユーザーの知識 不足もありますが、人は幸せになるために家を買うんだろうな と思いました。
目的にあわせて住宅品質を再定義する
では、住宅における幸せとは何でしょうか。「ほしいからほ しい」という所有欲を満たすこともあるでしょうが、一番の幸 せは生活の質を向上させること。いわゆる生理的な快適さだけ ではない、その人にとって今より良い生活ができることではないでしょうか。
しかも、住宅は買い換えがしにくい商品ですから、ロングス パンで物事を考える視点が不可欠です。最近は変わりつつあり ますが、以前のユーザーは住宅に関する知識がないために、目 先の「ほしい」だけで動くファスト思考が多数派でした。そん なユーザーの欲望にあわせて家をつくるのは、虫歯の子どもに あめ玉を与えるようなものです。
そこで私は、住宅の寿命から考慮した耐久性、損をせず払い 続けられるローンの組み方、耐震性、シックハウス対策、長く 住み続けても飽きないデザイン、変質しない材料…をひとつず つ再定義することにしました。性能は大切ですが、高気密・高 断熱だけで生活は成り立ちません。すべてのユーザーがローン を払い続けている間、生活品質を担保できる住宅を提供するこ とが私の事業目的ですから、一部の品質だけにかたよった住宅 では本来の目的からはずれてしまいます。
そのうえで事業やジャンルでセグメントして幅広いユーザー に対応できるようにしたのです。価格の幅があったり、一見畑 違いに見える事業でも、芯は1本だけです。そして今でも常に 「なぜ」を突き詰めることをひたすら繰り返しています。
説得力のある最適解が必要だ
前回・前々回と、経営者の頭の中を見える化し社員と共有す るツールとして「マインドマップ」が有効だと話しました。そ の最初のお題には「3年後の会社の姿」をオススメしましたが、 間違えないでほしいのはそれが決してゴールではないというこ とです。
建築棟数やシェアが「目的」なら、その先はどうするのでし ょう。3年後の先も進む方向が決まってないと、中期計画自体 がブレます。売上目標やそれを達成するために何をするか、数 字的な目安はもちろん必要です。ただ、それは目的ではありま せん。
小さい会社は経営者次第です。ブランディングの核も、基本 的に経営者が考えることです。「なぜ」の問いに対する答えは たくさんあります。そのなかからあなたにとっての最適解を選 びましょう。大義を見つければ見つけるほど、周りが支持して くれます。一見遠回りですが、結果として成功率の高いやり方 です。やみくもに夢を追いかけるだけではダメですが、目先の 利益だけを追う会社は長くは続きません。「住宅はクレーム産 業だから」という認識の経営者は、例外なく会社をつぶしてい ます。
「自分は何のためにこの場所でこんな仕事をしているんだろ う」という素朴で青臭いことをとことん考えてみる。そこから 出てきた1行こそが、強い説得力を持って人を動かします。
また何かを企画するたびに、それを1行で表現することがで きるかどうかに挑戦してみましょう。もし1行で表現できない のなら、まだまだ「なぜ」の追求が足りないのです。