コロナ禍の今だからこそ、工務店としての軸をつくる②

2020/05/2019:07771人が見ました

こんにちは。

ひと・住まい研究所の辻です。

前回からスタートした連載の第2回目となります。今回は多くの工務店が主力商品としている「注文住宅」の本質やあり方について、本テーマと絡めながら考えてみたいと思います。

 

「注文住宅」とはなにか

多くの工務店にとって重要な存在である「注文住宅」とは、商品としてどのようなものなのでしょうか。

このことをテーマにして工務店同士が議論することは、私の経験上さほど多くありません。恐らくあまりにも日常的で自然な存在なので、その本質やあり方を改めて考える機会が少ないのだと思います。

しかし注文住宅は、多くの工務店にとって自社と顧客(市場)との最大の接点であり、すなわち自社の「主力商品」という位置付けなので、その本質やあり方についてもっと深掘りして考えるべきものだと思います。この連載の本来的なテーマもそこにあります。

ということで今回深掘りしようというわけですが、まずは注文住宅を定義付けしておきたいと思います。

「注文住宅」とは特定の顧客(施主)からの発注を受けて提供する住宅のことであり、「個別対応型商品である」と定義付けられるでしょう。よって分譲住宅は含まれず「非分譲=注文住宅」となるので、その幅は実に広く多種多様です。ただ共通して言えることは、個別対応型商品であることから「自由設計」を特徴としており、「注文住宅=自由設計」という認識が一般的だと思います。

特に工務店にとっては「注文住宅=自由設計」という意識が強く、その背景には「顧客の細かな要望に応えることに価値があるんだ」という考え方がベースにあるように思います。

ではその「自由設計」の自由たる所以の項目を上げてみます。

① 間取り

② 外観および内観のデザイン

③ 仕様(材料や各設備)

④ 性能(住宅性能評価制度の10分野など)

ざっくり分ければ、この4項目ではないでしょうか。ちなみに①~④の順番は「自由」に対する優先度順に並べてみたつもりです。②と③は場合によっては入れ替ることがあるかもしれませんが、工務店も顧客もこの順番はおよそ一致していると思います。

工務店の「自由設計」の中身は、総じて①~④の項目に対する自由度が高いので、「フルオーダーの注文住宅」という表現が適しています。またそこには少なからず対大手住宅会社という意識があり、その自由度の高さを自社の「売り」としている側面も多分にあると思います。

 

「フルオーダーの注文住宅」は “やっかい”な商品

工務店にとって「フルオーダーの注文住宅」は主力商品であり、また顧客にとっても自分たちの要望をそのまま「カタチ」にできる魅力的な商品と言えるでしょう。実際に工務店との家づくりを選択する大きな要素の1つになっていると思います。

しかし商品としては、実に“やっかい”な側面を持っていると言えます。その“やっかい”の最大の原因は、顧客が商品購入を決断する段階(家づくりの依頼をする)において「実物」がないということです。通常はそうした商品購入を決断する際、その実物を目で見たり触れたりして確認できるわけで、高額商品になればなおさらのことです。

しかし注文住宅の場合はそうはいきません。その時点ではまだカタチになっておらず、ましてや「フルオーダー」であればそのカケラもない状態と等しいわけです。つまり商品としての「実体がない」という状況下において、ある意味購入に関する取引をしなければならないのです。こうしたことは注文住宅に限らずオーダーメイド品の宿命であり、建築物全般に当てはまることですが、顧客の立場から考えた場合「人生最大の投資をする」に等しく、かなりハードルの高いリスキーな商品であると言えるでしょう。我々は改めてその“やっかいさ”を認識しておくべきだと思います。

 

「フルオーダーの注文住宅」という商品の実態とはなにか

商品としての「実体」がないゆえ、リスキーで“やっかい”な「フルオーダーの注文住宅」。なにやら禅問答のようですが、この実体がない商品の「実態」を解くことで、その“やっかいさ”を少しでも取り除くことが見出せるのではないでしょうか。つまり実体がない商品の「実態」を掴んで、まずは自身の腹に落とすということです。

注文住宅は、顧客から家づくりの依頼を受けてから商品を形成(カタチづくる)します。よって完成した時に初めて商品となって購入されるわけで、それは前述したとおりオーダーメイド品の宿命であり建築業の一般です。

「出会い」→「購入の決断をする(家づくりの依頼)」→「カタチづくる」→「完成=商品として購入(所有)する」

つまり上記の「カタチづくる」という行為そのものが、商品となることを約束する唯一の存在となります。実際それなくしては商売が成り立たず、工務店としての存在価値もありません。

よって私は「フルオーダーの注文住宅」という商品の実態とは、「カタチづくる」という行為のプロセス、すなわち「つくるプロセス」なのではないかと思っています。もっと言えば、「つくるプロセスこそがフルオーダーの注文住宅という商品そのものである」ということです。実際「いい家をカタチづくる」には、それ相応の「つくるプロセス」が必要不可欠であることは明白です。

フルオーダーの注文住宅という商品の実態が「つくるプロセス」そのものであるとするならば、

「商品力=つくるプロセスの質」

という構図となります。このことは工務店のみならず建築業全般に共通する、とても重要な認識の1つではないでしょうか。

また多くの顧客が実際に投資(住宅の購入)の決断に至るには、まずはその会社の考え方や想い、特長などに納得した上で、モデルハウスや見学会などに参加して事例(実物)を確認します。顧客はこの確認作業において、家づくりが「成功する確率の高さ」を感じ取っているわけです。つまり事例(実物)を確認することで得られた「我が家の家づくりが成功しそうだ」という安心感が、投資を決断するための重要な要素になっているということです。そしてその安心感の基となるのが、まさしく「つくるプロセス」なのです。

工務店の自社スタイルの中心(核)=家づくりの考え方や想いに基づいた「つくるプロセス」=フルオーダーの注文住宅

最後に前回の内容とまとめてみました。内容的にはなにも特別なことではありませんが、この意識を強めることで日常の業務のあり方が確実に変わります。それが自社のスタイルの核を形成し、商品力を向上させ、そして工務店の軸となっていきます。

ちなみに「つくるプロセス」を言い換えると「生産工程」という言葉になります。ウィキペディアによると、オーダーメイドという言葉には「生産工程」を指す意味もあるようです。

次回からは「つくるプロセス=生産工程」の確立の仕方に、少しずつ迫っていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

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