工務店における「つくるプロセス=生産工程」のあり方

2020/07/2120:22584人が見ました

こんにちは。

ひと・住まい研究所の辻です。

今回の記事で連載の3回目となりますが、前回の記事から少々時間が経ってしまいましたので、少し今までの内容を振返ってみたいと思います。

工務店の自社スタイルの中心(核)に据えるべきものは、家づくりの考え方や想いに基づいた「つくるプロセス」であり、それは工務店の軸となるものです。また「つくるプロセス」は、多くの工務店の主力商品である「フルオーダーの注文住宅」という商品そのものでもあります。つまり自社らしさを組み込んだ「つくるプロセス」は、工務店にとってとても本質的で重要な項目であると言えるでしょう。

前回までの内容をざっくりまとめるとこんな感じでしょうか。

今回はその「つくるプロセス=生産工程」とは具体的にどうあるべきなのかを考えてみようと思います。

 

「つくるプロセス=生産工程」の中身

家づくりというモノづくりにおける「生産工程」の具体的な中身とはどうあるべきなのでしょうか。

「生産工程」という言葉から、工務店の多くの人は「施工」のことをイメージすると思いますが、“設計施工一体型工務店”を前提とした場合、私は工務店業務の全般に及ぶべきものだと考えています。下にその全体像を示します。

① 説明・同意工程/広報・営業

 ⇒自社の家づくりを顧客に「認知・理解・納得・共感」してもらう工程

② 企画・計画工程/設計

 ⇒個別の住宅のあるべき姿を企画し「カタチづくる」ための計画を練る工程

③ 実現工程/施工

 ⇒実際に「カタチづくる」工程

④ 見守り工程/メンテナンス

 ⇒住まいを維持管理し、住まい手の暮らしを見守っていく工程

 

工務店の業務を大きく4つの工程に分けて見立てています。そしてその各工程内における下記の要素が、「生産工程」を構成する具体的な中身であると言えるでしょう。

・作業項目

・作業内容

・作業手順

・作業に関する社内ルールおよび基準

見方を変えれば、家づくりの日常業務における1つ1つの作業が「つくるプロセス=生産工程」であり、工務店にとっての商品そのものであるとも言えるわけです。

上記の内容を見て意外と思われるものがあるとしたら、恐らく①の「説明・同意工程/広報・営業」でしょうか。広報や営業の業務は、とかくモノづくりとは直接的に関係していないと位置付けている人が多いと思います。しかしその業務自体を「いい家づくり」には欠かせない「説明と同意の工程」であると捉えるべきだと私は思っています。そうした観点で捉えると、特に「商品を売り込む=営業」という意識が変わり、その業務の幅や深みが異なってきます。

実際「フルオーダーの注文住宅」という商品を提供するためには、この初期段階における顧客への「説明と同意」という業務がとても重要な役割を担っています。そしてそれをちゃんと行うには、一定以上の家づくりに対する技術的な知識が必要で、いわゆる「セールス×エンジニア」としての役割を求められることになります。

また④の「見守り工程/メンテナンス」を含めている理由は、「住まい手の暮らし」も住宅と同様に「カタチづくる」べきものだと考えているからです。「完成・引渡し」は、「カタチづくる」長い工程の途中段階であるというわけです。

 

「生産工程」における工務店の実情

多くの工務店がそうであるように比較的小規模な組織では、担当者1人あたりの業務上のウェイトが大きく、個人で判断する場面が多くなりがちです。そうした場合、担当者個人のスキルや考え方が前面に出てしまい、いわゆる「個人プレー」の度合いが高くなります。よって担当者ごとの能力差による仕事の“ばらつき”が生じやすくなる傾向があります。

さらにその能力差に加えて、担当者個人のその時の状況(繁忙さ)や顧客特性(志向やニーズ)などの組合せによって、その“ばらつき”が加速してしまうことが多々あるのではないでしょうか。そうした“ばらつき”を最小化させる根本的な手段が「生産工程」の中身を取決めるということであり、すなわち「生産工程を確立する」ということなのです。

「生産工程」が確立されていないと、担当者×状況×顧客によって商品そのものであるはずの「生産工程」が、時に“はしょられて”一定でなくなってしまう可能性があります。そうなると商品としての質を保つことができなくなるどころか、本来的な商品としての体も成しません。

ただこうした状況への問題意識はあったとしても、それらを改善するには時間と労力がかかるため、なかなか手が付けられないというのが多くの工務店の実情ではないでしょうか。私も工務店の出身なので、そのあたりのことはよく理解しているつもりです。だからこそ「生産工程を確立する」ことは、工務店の大きな課題であると考えているし、その優先度を上げるべきだと思っているのです。

 

「つくるプロセス=生産工程」を確立する

家づくりの考え方や方向性などは他社から学んだり、真似たりすることができます。しかしそれらをちゃんと「カタチづくる」ための手立てに落とし込めなければ、モノづくり企業としての存在価値はありません。つまり自社なりの「生産工程」を確立してこそ、初めてオリジナルとなり、自社のスタイルとなっていくのです。また「いい家をカタチづくる」ためにもそれは同様であり、顧客や社会に対するモノづくり企業の本来的な責任でもあります。

「生産工程を確立する」というと少々大袈裟に感じるかもしれませんが、自分たちが考える「いい家」をカタづくるために必要となる、それぞれの作業項目や内容、手順、約束事や基準などをまとめ、社内ルール化するということです。

そのことは自社商品の一定以上の質を担保することに繋がりますし、それを都度改善していくことで、継続的な「商品力の向上」を図ることができます。建物の仕様や工法の選択に注力することも悪いことではないですが、それだけでは決して十分とは言えないのです。

会社の規模や地域性、顧客像など様々ですが、工務店にとって「生産工程を確立する」ことは、これからの10年の基盤となる根本的なものであり、まさしく「自社スタイルの確立」と等しいことであると言えるでしょう。そしてそれはしっかりと自社の中に「残る」ものであり、「残していくべきもの」として追いかけていくテーマであると思います。

 

次回は「生産工程を確立する」ことによる具体的なメリットなどに触れてみたいと思います。

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